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セミナーハウスの設計者吉阪隆正

広い敷地の小高い丘に聳えるセミナーハウス本館は、ピラミッドをひっくり返したような形だった。
それは大地に楔を打ち込んだのだと設計者の吉阪隆正は嘯いたが、実は大勢が集う食堂を見晴らしの良い最上階に配した形になっていた。
傾斜地の整地をせずに環状に配置した学生達の宿舎群は一本の柱で支えられた個室もあり、変化のある景観を醸し出していた。

吉阪先生は、コルビュジェの薫陶を受けた新進気鋭の建築家で、1953年フランス留学から帰国早々私ども新入生のクラス担任となり、その第一声は、「何でもいいから皆一番になれ」だった。
学生はキョトンとしていたが、先生は「それには他の人がしないことをすることだ」と。
吉阪先生は、よく「人の話を聞いたら、まずその反対のことを考えてみると、その方が正しいことがよくある」とも言われた。

文章も能くし、世界中を飛び回り、寸暇を惜しんで活動され、63歳で人の三生分を全うされた稀有の人だった。
後に私自身も先生の同僚となり、よく學生達を連れて行き、静かな自然環境に浸る時を楽しんだ。
早稲田大学名誉教授、千人会会員
木村 建一