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「時間がない」という貧困をこえて

ここ数十年、世のなかは随分忙しくなりました。
その結果、生産性はあがり、科学も技術も加速度的に進歩し、人々は豊かになったかに思われるかもしれません。
しかし、優れた芸術作品が多く生みだされたヨーロッパのルネッサンス期、クラシック音楽の名曲があいついで作曲された18~19世紀、個性的な科学的発見がつづいた19世紀などと比べると、現代はどうでしょうか。
豊かさの内容として大切なものは、物的・金銭的なもの以上に「時間の豊かさ」にある、と私は考えています。
「術」の字のつくもの「芸術・学術・技術」で優れたものを創りだそうとするとき、「時間がない」ことは最悪の環境です。
そう考えるとき、われわれは、現代という時代が案外貧しい時代になっていることに気がつきます。

大学セミナーハウスの大食堂には「思想は髙潔に 生活は簡素に」、“Plain living   and  high  thinking”の標語がかかげられています。
この標語が暗に語っていることは、まずは「落ち着いた、ゆったりした時間をもとう」ということです。
あわただしい現代、われわれは、あらためてその意味を深く理解したいものです。
駒沢大学名誉教授、千人会会員
瀬戸岡 紘