セミナー・イベント

第13回新任教員研修セミナー「拡張されたアクティブ・ラーニングと未来の学び」

実施報告

開催形式・日程 ①オンデマンド講義 8月1日配信開始
②オンラインセミナー(Zoom) 8月20日(日)13:00~15:00
③合宿セミナー(1泊2日) 8月28日(月)~29日(火)
対象 国公私立大学で授業を担当する新任教員(年齢不問),
新任以外の大学教員、非常勤講師
会場 オンライン:Zoomミーティングルーム
合宿:公益財団法人大学セミナーハウス(東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人 大学セミナーハウス
共催 公益社団法人 学術・文化・産業ネットワーク多摩

参加状況 : 12校(21名)

江戸川大学(1名)、大阪物療大学(2名)、沖縄県立看護大学(1名)、敬愛大学(1名)、国士舘大学(3名)、
上智大学(1名)、駿河台大学(3名)、中央大学(2名)、兵庫県立大学(2名)、防衛大学校(2名)前橋工科大学(2名)、明星大学(1名)

開催趣旨

拡張されたアクティブ・ラーニングと未来の学び
 新型コロナウイルス感染症の法的位置付けの5類へと引き下げが近づきました。しかし、それに先立って、大学の授業はすでに以前の姿に戻りつつあるようです。教室での対面の授業に見られる学生たちの活気に、大きな喜びを感じる大学教員は少なくないと思われます。しかし、「以前の姿に戻る」だけでは、あまりにももったいないというのもまた否定し難い事実です。コロナ禍期間中に利用を余儀なくされたITを活用した学びと、対面でしか実現困難な学びを、適切かつ効果的に組み合わせる学習が可能になったからです。
コロナ禍以前には、たとえば、事前のeラーニングと対面学習を組み合わせたブレンド型学習が「教育界の破壊的イノベーション」などともてはやされる一方で、実際のところ、eラーニングの実施には高いハードルがありました。ブレンド型学習を実施できるなら、どんなに素晴らしい学びが実現することかと夢想しつつも、ほとんどの教員にとっては「事前の動画視聴って、どうしたらいいんだろう」「そんな装置はないし」とため息をつくのが関の山でした。ところが、コロナ禍を経て、そうした状況は文字通り一変しました。その気になれば、「教育界の破壊的イノベーション」に手が届くようになったのです。
第13回新任教員研修セミナーでは、デジタルに拡張された新たなアクティブ・ラーニング型授業のあり方を探ります。このことに対応して、より体験的にその方法を学ぶことができるように、新任教員研修セミナーは、実施方法を従来の2泊3日の合宿研修から、オンラインでの事前学習プラス1泊2日の合宿研修に生まれ変わります。オンラインと対面の良さを組み合わせ、参加者と講師陣が重ねる熱い対話の先には、まだ見ぬ未来の学びが姿を現わすことでしょう。
 大学セミナーハウスは、大学教員相互の交流を図ることによってわが国の大学教育の向上・発展に寄与することを目的としており、今年度も学術・文化・産業ネットワーク多摩との共催で国公私立大学の枠を越えた本セミナーを企画しました。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。 (運営委員長 菊地 滋夫)
 

講師と受講生の情報共有の場を活用

講師と受講者の情報交換の場をご提供しました。
Slack上に予めチャンネルを用意し、参加と同時に各チャンネルのメンバーになるようにしました。
◇「〇セミナー関連連絡」:オンデマンド講義のURLをはじめ、セミナーに関するご連絡、変更事項等を掲載します
◇「〇雑談室」:情報交換等にご使用ください。
◇「〇自己紹介」:参加いただいたら、まずはこちらで簡単な自己紹介をお願いします。
◇「~-講師名」:各講師に対する質疑応答用のチャンネルです。

オンデマンド講義

 7月31日SlackよりYouTubeのURLを公開しました。(動画は限定公開)
 同様に講義資料も公開できるものは合わせて公開しました。
 

【講義1】コロナ禍を経て拡張(拡大)されたアクティブ・ラーニング
田原真人(IAF JAPAN 理事、参加型社会学会理事、デジタルファシリテーター)

 対面では教師とのラポール形成によって学生をエンパワーメントできたり、行動を管理できたりするが、オンライン環境ではそれが困難になりがちだ。対面の手法をそのまま適用することはできない。しかし、学習者にオーナーシップを渡し、相互学習を促進すると共創による相互エンパワーメントが発生し、新たな学習デザインの可能性が出てくる。学習者中心で対面とオンラインに拡張したアクティブ・ラーニングの可能性について議論する。
【課題】
オンラインを活用して多様性を高める授業デザインを考えてくる

【講義2】大学生の育った環境、受けてきた教育−「高大接続」の視点から−
藤井恒人(東京農工大学グローバル教育院教授)

 今年の大学1〜4年生の多くは2001年〜2005年生まれである。“Z世代”の彼らが育った環境、受けてきた教育を概観し、大学教員が接する際に留意すべき点を参加者のみなさんといっしょに考えたい。特に2022年度から始まっている「総合的な探究の時間」の内容、そこで目指す学習スタイル、育成しようとする能力などにもふれていきたい。
【課題】
大学生の行動、言動などについて世代の違いを感じた事例を紹介してください
“Z”世代の大学生に対応(接する、教える、支援など)する際に留意すべき点を考えてください
アンケート:どれくらい知っていますか?(Googleフォーム8問)

【講義3】アクティブ・ラーニングの理論と実際
福山佑樹(関西学院大学ライティングセンター教授)

 アクティブ・ラーニング (AL) は高等教育において定着してきていたが、新型コロナ禍において一方向的な講義を行うオンデマンド授業なども増加している。
高等教育を一方向的な授業に逆戻りさせないためには、ALが求められるようになった背景など、基本的な考え方を理解し、その必要性を再確認することが重要である。
本講義ではAL の理論と実践例を紹介し、ポストコロナ時代の授業に効果的にALを取り入れるためのヒントを提供する。
【課題】
あわせてA4一枚程度でまとめてください
授業経験が全くない方は①の課題を2つ実施してください
皆さんが受講者として受けた授業の中でこれは良いアクティブラーニングだったという授業はありますか?授業やその中で行われた活動の概要をまとめてください
皆さんが授業者として行った授業の中で、行っていたアクティブラーニングの活動はありますか?授業やその中で行った活動の概要をまとめてください

【講義4】対面授業とオンデマンド授業の組み合わせ方の可能性
伏木田稚子(東京都立大学大学教育センター准教授)

 学習者のよりよい学びを模索する上で、対面授業とオンデマンド授業の組み合わせは新たな可能性をもたらすのではないか。例えば、動画教材を活用した事前学習の後に対面で個別指導やグループワークを展開する反転授業は、理解の深化を促すと期待できる。本講義では、1) オンデマン授業と反転授業の基本、2) オンデマンド授業の要件、3) オンデマンド授業を実践する3ステップについて、自身の実践に引きつけた理解を目指したい。
【課題】
①自身の担当科目にオンデマンド授業を取り入れるとしたら、どのような形がよさそうでしょうか?
 ワークシートを活用しながら考えてみましょう。
②学生がよりよく学ぶために、対面授業とオンデマンド授業をどのように組み合わせると良さそうか。

【講義5】困難を抱える学生の理解のために―大学におけるダイバーシティと学生支援―
村山光子(明星大学発達支援研究センター)

 令和3年6月、障害者差別解消法の改正法が公布され、これまで努力義務とされてきた合理的配慮の提供は、今後私立大学等において、「努力義務」から「義務」へと変更になる。障害学生数は増加傾向にあり、2021年度には過去最高の40,744名(全学生数の1.26%)となり、この傾向は今後も継続するだろう。本講義では、発達障害を中心とする困難を抱えた学生支援について、大学におけるダイバーシティという視点から検討を行い、充実した大学生活を送る支援について皆さんとともに考えたい。

オンラインセミナー(Zoom)<8月20日13:00~15:00>

今回のテーマ「拡張されたアクティブ・ラーニングと未来の学び」の主旨説明、およびワールドカフェを通して参加者と運営委員の顔合わせを行いました。

ワールドカフェの各ラウンドテーマは以下の通りです。
 ラウンド➀自分の講義や実習でうまくいったこと
 ラウンド②自分の講義や実習で困ったこと
 ラウンド③今は無理だけど,3〜5年後にはできるようになっていたい講義・実習の方法

課題や悩み、アイデアを出し合うことで、次回合宿セミナーでの対面を期待する雰囲気に満ちていました。
オンラインセミナーの終わりには、皆さん手を振って合宿セミナーでの再開を約束していました。

参加した皆さん

miroを初めて使う方(ピンク)がほとんどでした。

期待していることを付箋で貼ってみました。

ワールドカフェ (例)テーブル5

ハーベスト

miroで作った導入からワールドカフェ、ハーベストの流れ。
ワールドカフェで各テーブル(雲)の中にコメントを貼りました。
また、右下の木は「ハーベスト」として皆さんの感想を貼っています。

合宿セミナー<8月28日(月)~29日(火)>

【開会式】

挨拶
大学セミナーハウス 担当理事 山本眞一

趣旨説明
新任教員研修セミナー運営委員長 菊地滋夫

【セッションA】
アクティブ・ラーニングに向けた関係性作り
SPAファシリテータ 佐藤順子

佐藤順子氏

アクティブラーニングに向けた関係性作りのため、アイスブレイクとしていくつかのゲームを行いました。
特に受講生の中で好評だったのは「ゴジラが来たぞ!」
ゴジラ役の佐藤先生がゴジラのテーマに合わせて、一つだけ空いた椅子にゆっくり移動。受講生は、その席をゴジラに取られないよう他の椅子から順に移動します。今日初対面のメンバー同士で声を掛け合い、作戦を立てて、1分間ゴジラに椅子を取られないよう頑張りました。終わった時には、共通の目的に取り組む「仲間」になっているようでした。

アンケート結果では、「ゴジラ終了時のグループの一体感に驚きと感動がありました」「よいアイスブレイクになりました。研修室の空気が一気に変わりました」等の感嘆の声を多数いただきました。

ゴジラ、スタート!

一つ目の椅子は守れそう...

ゴジラは次の目標へ

やっぱりゴジラに取られてしまいました。

【課題発表とディスカッション1】
コロナ禍を経て拡張(拡大)されたアクティブ・ラーニング
田原真人(IAF JAPAN 理事、参加型社会学会理事、デジタルファシリテーター)

田原真人氏

床に書かれた線の位置には年が紐づけられています。代表者がその頃を思い描きながら自分の人生を語ります。対立構造にある過去の自分に言いたいこと、過去のその立場での想いを、参加したメンバーが代弁して思考を掘り下げました。

アンケートでは、「どうすれば新たな方向性が生み出せるのか、考え直す機会になりました」「身体を実際に動かしながらライフコースを説明する、ロールプレイングをすることの面白さ、大切さを体感しました」などの声がありました。

未分化で参加型思考だった状態から専門家・具体化・断片化することで具体化思考へと移行

足元の白い線に沿って、個人の経緯を語りました

過去の立場に対して語り掛けます。過去の位置にはメンバーが立ち、その立場になりきって想いを想像して語り合います。

他の参加者は、回りで見ていますが、徐々に役割を振られて参加することも。

この回は、いつのまにか半分以上が参加する状態になりました。

【課題発表とディスカッション2】
大学生の育った環境、受けてきた教育−「高大接続」の視点から−
藤井恒人(東京農工大学グローバル教育院教授)

藤井恒人氏

様々なデータを使って、高大接続の実際と問題点を明示し、参加者と課題共有しました。
教育行政の変遷と学生の学力の変化について、時代の変化とデジタル化、またその影響による学生の特徴についても解き明かしました。

アンケートでは、「学ぶことも多く、テンポのよいセッションで、楽しくできました」「他の大学の先生方もいろいろ悩んでいるのだということが知れたことも良かったです」等の声がありました。

合宿セミナーの夜は情報交換会で交流を深めました

【セッションB】
多様性と共生・協働のための体験型アクティブラーニング
諏訪茂樹(東京女子医科大学統合教育学習センター准教授)

諏訪茂樹氏

体験学習の方法を紹介し、ワークで実際に体験しました。
3択問題を個人で回答後にグループで納得できる解を導くワークでは、正解数を増やすための話し合いの方法を体験を通して学びました。

アンケートでは、「あらゆる学びにALが取り入れられることに気づき、感動しました。」「新しい体験学習の実施方法を入手できました」等のご意見をいただいています。

【課題発表とディスカッション3】
アクティブ・ラーニングの理論と実際
福山佑樹(関西学院大学ライティングセンター教授)

福山佑樹氏

自分が担当する講義の1コマをイメージし、その内容に取り入れたいアクティブ・ラーニング活動と変更後の授業案を個人ワークで作成。その後、同じグループのメンバーと一緒に自由に提案しあうワークを行いました。

アンケートでは、「ALを取り入れる理由を考える機会になった」「アクティブ・ラーニング的な講義を、受ける側として体験できたことが良かったです」等の声がありました。

【課題発表とディスカッション4】
対面授業とオンデマンド授業の組み合わせ方の可能性
福山佑樹(関西学院大学ライティングセンター教授)

福山佑樹氏

「対面授業とオンデマンド授業の組み合わせを考える」をテーマに、1科目の授業全体の中に、どの回でどのようなオンデマンド講義を取り入れるのが良いのかについて個人ワークで検討し、グループ内でアイデアを出し合いました。

アンケートでは、「自他のグループ発表から、オンライン/対面のメリット・デメリットを踏まえ、各授業回の目的・内容から向き不向きを図で整理しようと思いました」というご意見の他、「若干課題が重かった」「付箋に貼っていくというやり方が、やや難しい」という声もありました。

【ハーベスト(集合知の共有)】

最後に円形に椅子を並べ、順に①自分の「パワフルな問い」、②研修の感想を発表しました。

また、各講師からのチェックアウトの言葉をいただきました。

諏訪先生
 デジタルの導入により、益々学生の自由時間が少なくなるのには賛成できません。
フランスの学生には3か月の夏休みがありますから、バックパッカーになって世界中をまわれる。私の所にもフランスの学生がホームステイしながら日本全国をまわりました。時間の問題だけではないにしても、そういう体験が今の日本の学生にはできません。オンデマンドをうまく取り入れ、自由な時間を増やすことも大切だと思っています。

福山先生
 オンデマンド授業の導入ありきのワークを行いましたが、必ず入れなさいという趣旨ではなく、自分が教室で教えること、教えないこと、動画で補足的に見てもらったらいいことを考え直すきっかけにしてもらえたら良いと思っています。

藤井先生
 YouTubeを学生は毎日1~2時間見ている。見ないオンデマンド教材というのは、実は、教材の方に問題があるのかもしれないなと思っています。次にこのような機会をいただけたら、学生が見たくなるオンデマンド教材とはどういったものかを考えてみたいなと思っています。

菊地先生
 大学はこれから後期の授業が始まりますね。それまでに頭の中を整理しないといけないこともあると思いますが、「まずはやってみよう」という声を忘れずに、ぜひチャレンジしてみてください。ご参加の先生方は、これまでになかったような新たな可能性を手にしかけているのかもしれないのだと思います。
 オンデマンド講義とオンラインセミナー、そして二日間のこのセミナーがみなさまの力になってくれることを祈っています。

田原先生
 リアルは、イベントで、オンラインはつながり続けるプロセスなんです。教員セミナーはイベントじゃないですか。つながり続けることでプロセスになるんですね。今回関係性ができたので、皆、困っていることを共有して集合知に触れられたと思うんですね。
 帰っちゃうと集合知から離れて一人で頑張んなくちゃいけないっていうことなんだけど、オンラインで繋がり続けられることができれば、日常的にこの集合知に触れながら、一人一人がチャレンジできる。
第1レベルの集合知とは、自分が持っているものを皆テーブルの上に出し合って、そこから学ぶこと。
第2レベルの集合知とは、自分一人だとそもそも考えなかったけれども、いろんな人がいて、いろんな人がやろうと思ったら手伝ってくれるような関係性があるからこそ考えることができることがあって、関係性があるとクリエイティビティーが広がる。19名の広がったクリエイティビティーをそれぞれ出し合うと、第二レベルの集合知になる。
第2レベルの集合知を体験し、これを学生にやらせるにはどうしたらいいのかという「問い」が出て、そこから教育の革命がおこるのではないかと思っている。どうやったら、その教育の革命がおこるのかというのが僕の大きな問いです。

 

【閉会式】

菊池滋夫運営委員長

皆さまお疲れさまでした。
僕もパワフルな問いを一つ考えました。やってみようと思うんですね。オンデマンド授業。
僕はやったことないんです。反転授業はもう3年やっていますけれども、オンデマンドにチャレンジしたいと思いました。
それがどういう結果・効果をもたらすのか、もたらさないのか、悩むよりもまずはやってみようと。そこから得られるもの、うまくいかなかったことを皆と振り返って、また、学生たちにも助けてもらいながらフィードバックしてもらって、もっと良い授業を作っていこうと思いました。
 僕うろうろしていたんですが、波多野先生と、嘉陽田先生とリンダ先生のところで「まず、やってみよう」と聞こえてきたんですよね。それにはすごく背中を押されました。僕もやります。
 あちこち失敗してボロボロになると思うんですけども、そのことも併せて皆さんに共有したいと思います。最後のコメントで聞かせていただいた、「これからも共有したい」という皆さんの思いを嬉しく思います。
 あとで事務局の外村さんからご案内があると思うのですが、そのための準備もしておりますので、その中でもやってみて「あ~ここはうまくいかなかった」「ここは良かった」とか共有させていただければと思います。
 これからもどうぞよろしくお願いします。

【記念撮影】
皆様、一か月間お疲れ様でした。

合宿セミナーショートムービー(2日間を振り返って)

新任教員研修セミナー運営委員

<委員長>
菊地 滋夫(明星大学学長補佐・人文学部教授)
<委員>
諏訪 茂樹(東京女子医科大学統合教育学修センター准教授)
福山 佑樹(関西学院大学ライティングセンター教授)
藤井 恒人(東京農工大学グローバル教育院教授)
田原 真人(IAF JAPAN 理事、参加型社会学会理事、デジタルファシリテーター)

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