セミナー・イベント

第12回新任教員研修セミナー

実施報告

期間 2022年8月29日(月)~31日(水)
場所 Zoomミーティングルーム
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
共催 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩

参加状況 : 8校(13名)

沖縄県立看護大学(3名)、国士舘大学(2名)、前橋工科大学(2名)、大阪物療大学(2名)、
中央大学(1名)、ものつくり大学(1名)、防衛大学校(1名)、南九州大学(1名)

開催趣旨

ポストコロナのアクティブ・ラーニング
 コロナ禍は日本の高等教育に過去最大級のインパクトを与えました。遠隔授業の実施に伴って、いわゆる「課題地獄」など特有の問題も生まれ、学生と教員の心身を疲弊させましたが、その一方で、予習や復習、課題への取り組みといった授業時間外の学習の重要性は改めて確認されました。また、各種調査により、多くの場合、学習意欲の高い学生には遠隔授業の方が有効であることも見えてきました。遠隔授業によって学習データがデジタル化され、振り返りや協同的な学びへの活用にも道が開かれました。
 しかし、徐々に対面授業が再開されると、遠隔授業では容易に再現できない豊かなコミュニケーションが、学生たちの学びと成長に不可欠であることも再認識されるようになりました。コロナ禍が始まった頃から囁かれていたことですが、遠隔と対面のそれぞれの良さを適切に組み合わせた新たな学びを実現する授業の構築が求められています。その方向性は各大学の特色や方針にもよりますが、教員による創意工夫の余地は小さくありません。
 第12回新任教員研修セミナーでは、ポストコロナを見据えて、これからの時代に相応しいアクティブ・ラーニング型授業のあり方を探ります。コロナ禍が始まる前から試行錯誤しながら長年にわたってアクティブ・ラーニング型授業を実践・研究してきた講師陣と、まさにコロナ期の最中に大学教員になった参加者が、互いの知恵と経験を共有しながら、熱い対話を通して、新たな高等教育の創造に向けて歩みを進める3日間です。
 大学セミナーハウスは、大学教員相互の交流を図ることによってわが国の大学教育の向上・発展に寄与することを目的としており、今年度も学術・文化・産業ネットワーク多摩との共催で国公私立大学の枠を越えた本セミナーを企画しました。(運営委員長 菊地 滋夫)
 

【開会式】
挨拶・趣旨説明
新任教員研修セミナー運営委員長 菊地滋夫

事前オンデマンド講演:「ポストコロナのアクティブ・ラーニング~多様性が活きる学びを目指して~」についての意見・質問等を共有
菊地 滋夫 (明星大学学長補佐・人文学部教授)

  今年で12回目を迎えた新任教員研修セミナーは、まだまだ残暑が続く中開催されました。初めは対面での開催予定でしたが、コロナ感染状況を鑑み、8月8日対面とオンラインでのハイフレックス形式での開催に変更、8月23日時点で全てオンラインでの開催に最終決定いたしました。このような状況の中、全国より8大学13名の方にご参加いただきました。
 始めに、運営委員長の菊地滋夫先生から、
「発表者の授業における失敗の歴史を振り返るとともに、試行錯誤しながら取り組んできたアクティブ・ラーニング型授業を紹介し、その過程で気づかされた「多様な学生が助け合い、支え合いながら、能動的に授業に参加すること」の意義について、現代の高等教育の課題を踏まえて論じる。また、コロナ期におけるいくつかの実践例を共有し、ポスト・コロナの時代における学びのあり方を参加者のみなさんと検討する手がかりとしたい」との趣旨説明がありました。
 続いて、事前に参加者にオンデマンド配信した『講演:ポスト・コロナのアクティブ・ラーニング〜 多様性が活きる学びを目指して ~』についてのお話をされました。
(参加者の方からは、事前に視聴後のコメントと質問をいただいておりました。)

 参加者からは「学⽣が⾃分が書いたレポートを授業でみんなの前で発表してもらい討議するという内容に変更したところ,学⽣は他の学⽣のレポートに集中して興味深く聞いているようだった。私にとって授業法を改善する良い機会になった。」「学⽣の学ぶ意欲に刺激を与え学ぶことの喜びを感じさせることのできる授業のできる教員になりたい。授業外の課題と授業での学びを連動させるために、授業の構想を⽴てることがまず必要だと感じている。」などの感想が寄せられました。

【セッション1】
アクティブ・ラーニングに向けた関係性作り
SPAファシリテータ 佐藤順子氏
※オンラインに変更した為、中止になりました。

【セッション2】
人間関係を取り戻す体験型アクティブ・ラーニング
諏訪茂樹(東京女子医科大学統合教育学修センター准教授)

 【セッション2】では、諏訪茂樹先生の 相互理解を深め、人間関係を取り戻すコミュニケーション・ワークのプログラムを参加者に体験してもらいました。

 諏訪先生には「大学での新しい仲間との出会いは、大人として成長する貴重な機会となる。ところが、コロナ禍でオンライン授業が増えた結果、仲間と出会う機会が著しく減り、学生たちは孤立した。ポストコロナの時代には、学生同士が出会い、交流する場を積極的に再生することが望まれる。導入教育などの課外教育において、対面及びオンラインで学生の仲間づくりを支援し、新しい環境への適応を促す体験型アクティブ・ラーニングの方法を紹介する」との主旨のもとお話いただきました。
 参加者からは「体験型アクティブラーンニングを実際に体験してみて、楽しかったです。学生の気持ちがわかりました。」「学生が安心してディスカッションできる場づくりのヒントをいただけました。また、先生の話し方や人柄を踏まえ、講義における講師の醸し出す雰囲気の大切さも学びました。」などの感想が寄せられました。 

【セッション3】
大学生の育った環境、受けてきた教育―「高大接続」の視点から―
藤井恒人(東京農工大学グローバル教育院教授)

 セミナー2日目、
【セッション3】では藤井恒人先生に、“Z世代”の彼らが育った環境、受けてきた教育を、世相の移り変わり、学習指導要領の変遷、入試制度の多様化など様々な角度から概観し、大学教員が接する際に留意すべき点は何かをお話いただきました。
また、ハイブリッド授業への学生参加の工夫なども取り上げていただきました。
 参加者からは、「大学生の状況が理解できた。機材を紹介頂いて特に参考になった。」「相対している学生の育った環境がよくわかり、自分との世代間ギャップがはっきりしました。今後臆する所無く話すことができそうです。」「息子がちょうどこの世代なので納得できることが多かったです。」「オンライン講義を実施する上での具体的なHow toは参考になりました。また、学生の親を含めた講義は非常に興味深い内容でした。」との感想がありました。

【セッション4】
アクティブ・ラーニングの理論と実際
福山佑樹(関西学院大学ライティングセンター准教授)

【セッション4】は、福山佑樹先生による「アクティブ・ラーニングの理論と実際」です。

「アクティブ・ラーニング (AL) は高等教育において定着してきていたが、新型コロナ禍において一方向的なオンデマンド授業なども増加した。高等教育を一方向的な授業に逆戻りさせないためには、ALが求められるようになった背景など、その基本的な考え方を理解し、必要性を再確認することが重要である」とアクティブラーニングの基礎理論からお話いただきました。
 これを授業にどのように導入していくのか、AL の理論と文理それぞれの実践例を紹介し、さらにポストコロナ時代の授業に効果的にALを取り入れるためのヒントをご提供いただき、参加者の皆様に体験していただきました。
 参加者からは「実際にアクティブラーニングを取り入れた場合の状況について学ぶことができた。「自分の講義にも取り入れたい参考になる話が多かったです。」「すぐに実践できる知識だったかと思いました。理論的背景などを知ることで今取り組んでいる教育内容の意味付けにもなりました。」など、体験の感想が寄せられました。

【セッション5】
参加型社会へ向けた教育とは何か?
田原真人(IAF JAPAN 理事、参加型社会学会会長、デジタルファシリテーター)

昨年度より、講師としてお迎えした 田原真人先生には、【セッション5】として参加型社会へ向けた教育とは何か?」というテーマでお話いただきました。
Miro(ミロ)という、複数人で離れた場所からもコラボレーションしながら共同作業ができるオンラインホワイトボードを使用して、先生の考える新しい発想の「コト」を中心に据えた社会と教育についてのお話もありました。
 参加者からは「刺激になったという点で良かった。」「難しい内容でついて行くのがやっとでした。フォアグラ型講義は私は実際に学生に施しています。学生が自由に発言できる講義に興味がわきました。」「 内容が盛りだくさんで理解が追い付きませんでした。取り扱う概念も多いうえ、オリジナルな言葉も多かったのも理解が追い付かないことに影響しているように思えました。今取り組んでいることが興味深かったため、そこにフォーカスしていただきたかったです。」「今後教育の世界がどのような形に変化していくのかを考えて行く上で、貴重な視点を得ることができた。できれば、2コマ設定だとより深く学べたように感じています。刺激的な講義であった。」などの感想が寄せられました。

【コーヒーブレイク】
振り返りと休憩

 2日目はセッションも多く、ここで【セッション3】から【セッション5】までの振り返りと、質問の時間を40分間設けました。他に【多目的ルーム】での参加者交流や休憩用の部屋も設けました。
【セッション3】藤井恒人先生
【セッション4】福山佑樹先生
【セッション5】田原真人先生
【多目的ルーム1】参加者交流・休憩
【多目的ルーム2】参加者交流・休憩

【セッション6】
「半期の授業設計~アクティブラーニングを機能させるために最初にすること」
榊原暢久(芝浦工業大学教育イノベーション推進センター教授)

 【セッション6】では榊原暢久先生による 、アクティブ・ラーニングを機能させるためのワークショップです。
授業でアクティブラーニングを機能させるには、事前の授業設計が必要だと、榊原先生は話されます。
 半期の授業設計をする際には、授業の到達目標を最初に確認し、その評価方法、授業方法、授業外学修課題についてどのように考えるかをご指導いただきました。
また参加者の方には、簡単に取り入れることのできるアクティブラーニングも体験頂きました。
 参加者からは「改善のやりかたや意味、基になる考え方が明確で大変参考になった。」「教育に関する専門的な授業を受けていないので、非常に参考になりました。自分でも調べて学びを深めたいと思う講義でした。」「授業と評価の領域について、大きな不安を感じていたため、具体的な事例にそって学ぶことができてよかった。」「90/20/8の法則に気を配って授業をしてみたいと思います。」などの感想が寄せられました。
 

【セッション7】
対面授業とオンデマンド授業の組み合わせ方の可能性
伏木田稚子(東京都立大学大学教育センター准教授)

 セミナー3日目、【セッション7】は伏木田稚子先生より、「授業形式が多面化する中で、オンデマンド授業と対面授業の組み合わせは、新たな学び方をもたらすと考えられる。例えば、オンデマンドで事前学習を、対面では個別指導やグループワークを取り入れることで、反転授業のよさを活かせるだろうか」について、実践を交えてお話いただきました。
 1) スライドに音声を記録した動画教材の作成・提供、2) 反転授業における動画教材の活用、3) 教材に関連した課題の設定と評価について、をセッションの中で体験していただきました。
 参加者からは「具体的に授業のイメージをつかむことができてよかった。」「知識の部分はあらかじめ、オンデマンドなどを使って事前学習させ、講義中にグループワークなどを中心に組み立ててみようと思います。」「オンデマンドは学校側の理解が必要なところもありますが,可能であれば取り入れてみたい授業方法でした」「内容はもちろん、発言内容へのフィードバックや資料の見やすさなど参考になることが多かったです。」「オンデマンド授業の要件について理解できてよかった。」などの感想が寄せられました。
 

【セッション8】
困難を抱える学生の理解のために―with/afterコロナ時代の学生支援―
村山光子(明星大学発達支援研究センター) 

最後の【セッション8】は、村山光子先生の、困難を抱える学生の理解のために―with/afterコロナ時代の学生支援―です。
 「長引くコロナ禍において、大学生活に不安を抱える学生も多く、コロナ禍以降大学等の中退や休学者数は増加している。
休退学の理由には「学生生活不適応・修学意欲低下」が挙げられ、こうした学生の中には、近年増加傾向にある発達障害のある学生が多く含まれている。」と、村山先生は現状を話されます。
ではそのような学生に対して、具体的にどのように学習支援したらよいか。グループに分かれて、発達障害を中心とする困難を抱えた学生に必要な with/after コロナ時代の支援について検討を行い、大学卒業後の就職等進路選択を念頭においた支援について討論されました。
 

  参加者からは「今回セミナーで一番、拝聴したかったテーマでした。色々な精神発達障害の内容や支援状況、そして就職状況が詳しく知れました。ありがとうございます。こういった疾患はスペクトラムになっているので、判断基準難しいかと思いますが将来チェックリストのようなものを政府が作って自己分析させ、気づかせるというようなシステムができれば、教員の負担も減ると思います。」「困難を抱える学生に対する対応例がもっとあるとよりありがたかった。」「教員も専門家のアドバイスが得られる体制になるとよいのですが・・・。」「発達障害の定義等、基本的な知識を得ることができた。自分自身の知識が不足している領域であったため、これからさらに理解を深める時の基礎を学ぶことができた。」「非常に難しい問題だと思っております.学生カウンセラーに行くようにアドバイスしても行く学生はましな方で,抱え込む学生が多くいます.その後,学生間のトラブル,進級できない,退学になるかもということころで行動に移す学生や親が出てきます.後出しじゃんけんのように診断書を提出して,なんとかしてくれと言う状況も見受けられました.一般教養の授業の1つにあるといいかもしれませんね。」などの感想が寄せられました。

【閉会式】
 大学セミナーハウス館長挨拶
 運営委員のコメント
 記念撮影(全員でのスクリーンショット)

閉会の挨拶 鈴木康司館長

初めに、大学セミナーハウス鈴木康司館長より、閉会の挨拶がありました。
(内容全文は下記リンクから)

 

運営委員長 菊地滋夫先生

最後に、新任教員研修セミナー運営委員長の菊地滋夫先生からコメントをいただき、スクリーンショットでの記念撮影の後、閉会となりました。
 運営委員の先生方には、企画立ち上げから、当日の講師まで務めていただき本当に感謝申し上げます。
 また、全国からご参加いただいた参加者の方からは、「3日間ありがとうございました。様々な先生方と交流できてとても楽しかったです。」「アクティブラーニングについて大まかに学ぶことができた。一番の収穫は、ALが学習効果がたかまる魔法ではないということを学べたことである。メリットデメリットを踏まえたうえで取り入れる必要がある。教育効果だけではなく、学生への負担、自身の負担も踏まえた講義を設計したいと思いました。講師の皆様、事務局の方々、貴重な機会をありがとうございました。」「4月から大学に着任しましたが、それまで大学から離れていたため、近年の教育で用いられている手法や考え方を学べてとても参考になりました。可能な部分から、自分の講義で取り入れていきたいと思いました。」など、多くの感想をいただきました。
このセミナーが、ご参加いただいた大学教員の方々の今後の一助になれば幸いです。

【記念撮影】
皆様、3日間お疲れ様でした。

新任教員研修セミナー運営委員

<委員長>
菊地 滋夫(明星大学学長補佐・人文学部教授)
<委員>
諏訪 茂樹(東京女子医科大学統合教育学修センター准教授)
福山 佑樹(関西学院大学ライティングセンター准教授)
藤井 恒人(東京農工大学グローバル教育院教授)

お問い合わせ

公益財団法人 大学セミナーハウス・セミナー事業部
 TEL:042-677-0141(直)FAX:042-676-1220(代)
 E-mail:seminar@seminarhouse.or.jp
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