セミナー・イベント

第9回新任教員研修セミナー

実施報告

期間 2019年9月2日(月)~4日(水)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
共催 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩

参加状況 : 29名(14校)

駿河台大学(7)、中央大学・明星大学(各3)、大阪物療大学・沖縄県立看護大学・高知県立大学・国士舘大学・防衛大学校(各2)、沖縄国際大学・上野学園大学・園田学園女子大学・多摩大学・前橋工科大学・ものつくり大学(各1)

趣旨

アクティブ・ラーニング、その導入から深化へ
 近年の日本の大学教育では、たしかな知識や技能を身につけるとともに、分野や立場の違いを超えて協働することのできる知性を育むことが求められています。また、激しい変化の時代を豊かに生き、社会に貢献していく能力の基盤となるような、学び続ける姿勢や力を培う教育も切実に希求されています。こうしたかつてないほどの期待と要求に応えるべく、多くの大学に導入されたのがアクティブ・ラーニングであることは言うまでもありません。しかし、そうした学びを引き出していくべきわたしたち大学教員の理解やスキルは必ずしも十分ではない、というのが実感ではないでしょうか。
 アクティブ・ラーニングは、導入から量的な拡大という段階を経て、今まさに質的深化が問われる時代へと突入しています。そうした深化に資するために、本セミナーでは、アクティブ・ラーニングを円滑かつ効果的に実施する上で不可欠な相互理解や人間関係の構築に始まり、発達障害などの困難を抱えた学生への対応に至るまで、アクティブ・ラーニングの基礎、理論、様々な実例などを3日間にわたって体験的に学び、参加者がそれぞれ担当している授業を質的に深化させる機会を提供します。
 大学セミナーハウスは、大学教員相互の交流を図ることによってわが国の大学教育の向上・発展に寄与することを目的としており、今年度も学術・文化・産業ネットワーク多摩との共催で国公私立大学の枠を越えた合宿形式の新任教員研修セミナーを企画しました。 
 

【開会式】

 今年で第9回目を迎えた新任教員研修セミナーは、まだまだ残暑が続く中開催されましたが、全国から多くの大学教員の方々にご参加いただきました。
 始めにこのセミナーの協賛をいただいております公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩会長の小川哲生様より開会の挨拶がありました。ご自身が明星大学の学長を務めた経験を持つ会長の「研究」「教育」「管理」「社会貢献」が教員には必要という言葉に、参加者のうなずきと笑みが見られました。
 続いて、運営委員長の菊地滋夫先生から趣旨説明がありました。中教審で議論されていることを例に挙げ、「予測不能な変化の激しい時代には、『生涯学び続け、主体的に考える力の育成』が重要なことを説明されました。そして、授業の中で主体的に考える力の育成、アクティブ・ラーニングが年々拡大し浸透してきているが、アクティブ・ラーニングは今後ますますその質的深化が問われる時代へと推移していると現状を紹介するとともに本セミナーの趣旨を説明されました。
 

開会の挨拶をされる 小川哲生会長
ソフトな語り口は、参加者を和ませます

『アクティブ・ラーニング、その導入から深化へ』趣旨説明をされる 菊地滋夫運営委員長

【セッション1】
アクティブ・ラーニングに向けた関係性作り
SPAファシリテータ 佐藤順子氏

参加者同士が「学びの場」をつくる

初対面の参加者にも笑顔がこぼれます

 セミナーの第1日は、SPA(Seminar house Project Adventure)プログラムからスタートしました。このプログラムは参加者自らが学習者になることによって、アクティブ・ラーニングを実践していく上での必要な要素を考え、体験してもらうことが目的であります。SPAファシリテータの佐藤順子氏が参加者の様子を瞬時に読み取り、巧みに参加者を引き込んでゆく、これにより初対面の参加者の距離が一気に縮まり、いたるところで笑顔のコミュニケーションが見られ、今回のセミナーの学びの場が作り出されました。
 参加者からは「誘導の仕方が巧みで、大変参考になった。また、他の参加者と話すきっかけとなりALの利点を体感でき、大変良かった」「アイスブレイクは楽しかった。ゲームを通して関係性作りは、とても迅速に進んだと感じた」との感想が寄せられました。

【セッション2】
相互理解を深め、人間関係を築くコミュニケーション・ワーク
東京女子医科大学看護学部准教授 諏訪茂樹氏

「多様性が活きる学び」とは。

 【セッション2】では、諏訪茂樹先生の 相互理解を深め、人間関係を築くコミュニケーション・ワークのプログラムを参加者に体験してもらいました。
 社会経験の乏しさから人間関係を上手く築くことができず、ソーシャルスキルがないためにトラブルにつながりがちな新入生に対して、仲間づくりをサポートし、新しい環境への適応を促すためには、どのようにコミュニケーション能力を身につけてもらうのがよいのか。新入生を対象に実施している「自己表現と相互理解を促す」「自己理解と他者理解を深める」「多様性を受け入れる」などのコミュニケーション・ワークの手法を体験しました。
 参加者からは「授業でグループワークが多く、協力してすすめなければいけない中で、関係性を良好にするためにも、相手に興味をもち、知ることは授業を進めていくためにも重要である。今回の交流の進め方は、とても参考になりました。「セッション1を理解するためのノウハウをいただけました。」「すぐに応用できる手法で、早速後期から使います。」との感想が寄せられました。 

【セッション3】
大学生の育った環境、受けてきた教育―「高大接続」の視点から―
東京農工大学グローバル教育院教授 藤井恒人氏

“ゆとり世代”とは、その育ってきた環境と受けてきた教育とは

「高大接続改革」のポイントとは何か

 セミナー2日目、【セッション3】では藤井恒人先生に、大学生の育った環境、受けてきた教育ー「高大接続」の視点ーから、2020年からの新しい入試制度の内容と問題点を取り上げ、これからの大学教員が留意すべきことは何かをお話いただきました。携帯電話を利用して、Googleフォームアンケートに回答する体験型のワークもありました。また、お話の中で『保護者の意識』について取り上げられていたのが印象的でした。
 参加者からは、「学生を理解することで、指導内容へ(授業)具体的な展開ができそうです。また一方向の講義にならないと思いました。」「今までの教育制度と今後の教育制度というものを理解できました。」「大変勉強になりました。学生の育った環境・社会的背景を踏まえて、授業に活かしたいと思います。」など、自分の授業でも導入できる確信が得られたとの感想がありました。

【セッション4】
アクティブ・ラーニングの理論と実際
明星大学明星教育センター特任准教授 福山佑樹氏

なぜ今、アクティブ・ラーニングなのか。


 【セッション4】は、福山佑樹先生による「アクティブ・ラーニングの理論と実際」です。ここでは、アクティブラーニングの基礎理論からお話いただき、これを授業にどのように導入していくのか、参加者の皆様に具体的な実践方法と時間配分の方法を体験していただきました。
 参加者からは「アクティブラーニングの定義が、明確になりました。」

ALの実践を通して、方法を学ぶ

「とても分かりやすかったです。ALとは? から なぜALなのかというところが、理解できました。」「ALの方法論と具体的な方法について学習できて参考になった。」など、体験の感想が寄せられました。

【セッション5】
アクティブ・ラーニングを機能させるための半期の授業設計・1コマの授業計画
芝浦工業大学教育イノベーション推進センター教授 榊原暢久氏

授業設計をすることの意義とは

時間設定と到達目標も大切

 【セッション5】では榊原暢久先生による 、アクティブ・ラーニングを機能させるためのワークショップです。
学生が授業の到達目標に達するようにALを機能させるには、事前の授業設計が必要だと、榊原先生は話されます。今回の参加者は、3時間半という限られた時間で『半期の授業設計』と『1コマの授業設計』の作成を体験しました。
『半期の授業設計』部分では、授業の到達目標をどのように確認するのか、その評価方法、授業方法、授業外学修課題について考えるかを、『1コマの授業設計』部分では、発問を取り入れた1コマの授業構成を考える方法をご指導いただきました。
 参加者からは「具体的な手法について知ることができ、初学者としては大変有難いと感じた。」「到達目標を学生に知らせることの重要性など理解できました。授業デザインのワークシート記入も、とても勉強になりました。」「今後の授業設計に大いに参考になり、学びが多かった。もっと早く知りたかった。」など、自分自身の授業設計に役立ったとの感想が寄せられました。

【セッション6】
多様性が活きる学びを目指して
明星大学副学長・人文学部教授 菊地滋夫氏

なぜ、今アクティブ・ラーニングが必要なのか

 2日目最後は、【セッション6】 菊地滋夫先生の「多様性が活きる学びを目指して」です。
アクティブ・ラーニングがなぜ求められるのか、そしてどのように対応していくのかを、ご自身の経験を元に、BRD方式の導入(授業時間内に完成させる小レポートの積み重ねを軸とした授業)、タンザニア・ザンジバルでのフィールドワークの経験などのお話を通して、AL導入の経緯を導かれました。

 

 参加者からは「失敗がないと成長しないこと。先生も様々苦労させたことを改めて知れてよかった。」「アクティブ・ラーニングの導入までの過程が非常に参考になりました。学生の達成感の重要性を認識しました。」「様々な経験を経てたどりついた内容に、励まされました。たくさんのヒントがありました。」など、の感想が寄せられました。

【セッション7】
「わかる」を深め「考える」を育む反転授業の基本
首都大学東京大学教育センター准教授 伏木田稚子氏

アクティブ・ラーニング型の授業・「反転授業」とは


 セミナー3日目、【セッション7】は伏木田稚子先生より、「わかる」を深め「考える」を育む反転授業の基本を学び、それをどのように生かしていくかを、実践を交えてお話いただきました。
 反転授業とは、講義動画の視聴を中心とする事前学習と、対面での個別指導や双方向型の学習活動を組み合わせた手法で、このセッションでは、講義動画の作成を体験していただきました。

 

学習目標を明確化することが大切

 参加者からは「授業の内容が学びになったことはもちろん、反転授業について全くしらない状態で参加したので「そのテーマについて何もしらない学生に、60分で何をどの位考えられるのか」の分量を体験できました。」「反転授業の具体的ポイント(何を動画にするのか)が分かりました。」などの感想が寄せられました。

【セッション8】
困難を抱える学生の理解のために―合理的配慮を踏まえて―
明星大学次長・明星学苑府中校事務長 村山光子氏

困っている学生にどんな支援ができるか。

大学はどうあるべきか、考える


【セッション8】村山光子先生の、困難を抱える学生の理解のために―合理的配慮を踏まえて―では、障害のある学生の修学支援の在り方について討論しました。
 発達障害をもつ学生は、困った学生ではなく、困っている学生であり、「本人が変わること」には限界があり、周囲が変わることが必要だと、村山光子先生は話されます。では学生に対する誤解や差別、具体的にどのように学習支援したらよいか。それは「支援内容を関係者間で対話を重ね、調整し、合意に至るプロセスの蓄積」が「合理的配慮」ではないかと問題提起されました。これを踏まえて授業の中で実際にどんな対応に困難な学生がいるのか、どのように学習支援すればよいのか、具体的な場面での状況を踏まえながらグループで討論しました。
 

 参加者からは「現在、授業を担当している学生について、いろいろと考えることができました。」「同じグループの先生からたくさんのアイディアを頂き、早速実行する予定です。」「授業の設計で気になる点があったため、本内容をこのセミナーのセッションに含まれることは意義が大きいと考える。」などの感想が寄せられました。

【閉会式】

閉会の挨拶 鈴木康司館長

 初めに、大学セミナーハウス鈴木康司館長より、閉会の挨拶がありました。
(内容全文は下記リンクから)
 続いて、参加者の方に修了証の授与を行いました。


         修了証の授与

全員で記念撮影

運営委員長 菊地滋夫先生

最後に、新任教員研修セミナー運営委員長の菊地滋夫先生をはじめ委員の先生方お一人ずつからコメントをいただき、記念撮影の後、閉会となりました。運営委員の先生方には、企画立ち上げから、講師も務めていただき本当に感謝申し上げます。
 また、全国からご参加いただいた参加者の方からは、「一人での参加でとても不安でしたが、素敵な雰囲気の中で、多くのことを学ばせて頂きました。ぜひ実践していきたいです。」「とても楽しみに参加し、期待以上の内容でした。」「運営委員の先生方の知識やご経験、それらを惜しみなく参加者に分かち合って下さるマインドに圧倒されました。」「必要なスキルや考え方を授業を通して吸収 定着させ、自身も学生に負けないよう成長したい」など、多くの感想をいただきました。
このセミナーが、ご参加いただいた大学教員の方々の今後の一助になれば幸いです。

伏木田稚子先生

諏訪茂樹先生

福山佑樹先生

藤井恒人先生

新任教員研修セミナー運営委員

(委員長) 明星大学副学長・人文学部教授 菊地滋夫氏
      東京女子医科大学看護学部准教授 諏訪茂樹氏
      明星大学明星教育センター特任准教授 福山佑樹氏
      東京農工大学グローバル教育院教授 藤井恒人氏
                首都大学東京大学教育センター准教授 伏木田稚子氏

お問い合わせ

公益財団法人 大学セミナーハウス・セミナー事業部
 TEL:042-677-0141(直)FAX:042-676-1220(代)
 E-mail:seminar@seminarhouse.or.jp
 URL:https://iush.jp/
 〒192-0372 東京都八王子市下柚木1987-1