セミナー・イベント

憲法を学問するⅥ
 「転換期の国際憲法?」

実施報告

期間 2022年10月1(土)~2日(日)
開催方法 会場参加とオンライン参加によるハイブリッド方式で開催
会場:大学セミナーハウス(東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス

参加状況

会場参加:学生 7校 15名、社会人 13名  計 28名
オンライン参加:学生 2校 2名、社会人 8名  計10名
合計 38名

東京大学(9)、早稲田大学(2)、中央大学(2)、
千葉大学・一橋大学・日本大学・上智大学(各1)、社会人(21)

開催趣旨

 複数の国にまたがる私人間の法律問題を規律するルールを、国際私法といいます。しかし、そうした国際私法的規定は、世界市民法としてではなく、各国の私法上に現れるのが、国際社会の現状です。国際社会の緊密化とともに、次第に国際的な公序が発達してきたとはいえ、国際私法の統一性は、いまなお各国の国家法どうしの「調和」に依存しています。
 同様にして、複数の国にまたがる、軍事・外交あるいは人権・環境などに関する憲法的ルールを国際憲法と呼ぶとすれば、その主要な存在形式(いわゆる法源)は、依然として各国の国家法としての憲法です。国際立憲主義のスローガンにもかかわらず、国際憲法は、各国憲法どうしのハーモナイゼーションに期待せざるを得ません(参照、ボリス・ミルキヌ=ゲツェヴィチ[小田滋・樋口陽一訳]『憲法の国際化』有信堂)。「全世界の国民が、平和のうちに生存する権利を有すること」を確認した前文や、将来の「調和」を展望し平和な国際社会のファースト・ペンギンたらんと志した9条や、かつて君主が独占した外交権の民主化を実現した69条や73条は、日本国憲法における国際憲法的規定の代表です。
 2022年2月24日、ロシアのウクライナへの侵攻により国際憲法上の調和が破壊され、グローバリズムの夢も雲散霧消したかに見えるなかで、日本を含む各国の国際憲法的規定の運命は、いま世界史の荒波に大きく揺さぶられています。今年の「憲法を学問するⅥ」は、そこにフォーカスして、憲法と憲法学の過去・現在・未来を、みなさんとともに考えます。
(「憲法を学問する」企画委員長 石川健治)

樋口陽一先生特別講義:インタビュー動画を事前配信

石川健治先生と樋口陽一先生

石川健治先生がインタビュアーとなり憲法学の泰斗・樋口陽一先生に「国際憲法というコトバと私のかかわり」「1953-57の東北大学法学部学生としての好運-小田滋の国際法と祖川武夫の外交史-」「偉大な師でありながらかつ慈父であった祖川武夫」などについて語っていただいた1時間半の動画です。参加申込者にはセミナー開催前に視聴していただきました。
視聴した方から次のような感想が寄せられています。
樋口先生の直近のお話が聴けるだけでも大変な機会でした。ご自身の学問に大きく影響した祖川武夫との関係性などを語られたのを聴けたのは貴重で、その後の会場参加の分科会などの理解に大いにつながりました」、「本当の学問のあり方を感じることができました。世代を超えて残る理論というのは、このように形成されるものだということを認識できました」、「貴重なオーラルヒストリーでした」

開会の挨拶
大学セミナーハウス館長 鈴木康司

大学セミナーハウス
鈴木康司館長

 ご参加の皆さん今日は。早いもので当大学セミナーハウス50周年記念行事として始まりましたこの意義深いセミナーも、コロナ禍という災いによって途中一度、中止した年もありましたが、オンラインを利用して、できる限り実現しようという講師の先生方の強い意志に励まされて昨年は開催できました。さらに今年は対面型のセミナーでじかに講師と参加者が向き合えるよう、コロナに対する予防措置を徹底したうえハイブリッド形式を取り入れて行うことに踏み切らせていただきました。
今年のテーマはチラシにも掲げてありますように、「転換期の国際憲法?」というものであります。そのチラシの中での企画委員長石川先生のご説明通り、「複数の国にまたがる私人間の法律問題を規律するルールを国際司法」と呼ぶとして、その一方「複数の国にまたがる、軍事、外交、人権、環境など」憲法的ルールをもし「国際憲法」と呼べればその主要な存在形式は各国の憲法ということになります。国際立憲主義といえば民主主義を掲げる国にとって理想的な体系といえる気がいたしますが、第二次世界大戦以後、世界の現実に合わせてこれを実現しようと試みたのは、やはり国連でしょうか。しかしご承知のように英語でUNITED NATIONSすなわち国際連合軍であった第二次大戦の勝ち組米・英・仏・ソ連・中国の5か国が安全保障理事会で各々拒否権を持つという特権を確保した結果、発足当初から中途半端な形でしか、国際正義が発揮されることがなかったのは事実でありましょう。今日のロシアによるウクライナ侵略の状況を見れば一目瞭然であります。
しかし、だからといって憲法を深く学問する方々にとって、この事態に手をこまねいていてはなるまいと存じます。私どもは石川先生主導のもと、仙台にお住いの樋口陽一先生の仕事場に伺って、お二人の対談を録画させていただきました。比較憲法学の第一人者樋口先生がどのような発言をされたか、またタイトルの「憲法を学問する」が「憲法を学ぶ」でも「憲法研究」でもない理由は何か、樋口先生の思いに共鳴された愛弟子の石川先生が今回のセミナーを機会に皆さんに伝えて下さると確信しております。
コロナ禍は依然として収まっておりませんがこうして対面でゼミが行われる機会に参加してくださいました皆さんが、心から良かったと思われてお帰りになるのを祈っております。ありがとうございました。

 

講師によるパネルディスカッション  - 分科会へのプロローグとして -


憲法を学問するⅣ 講師

パネルディスカッションの様子

 講師によるパネルディスカッションでは、冒頭に石川委員長から今回のセミナーの開催趣旨の説明がありました。
 続いて第1分科会「国際紛争の平和的解決と憲法」、第2分科会「戦争・武力行使と憲法」、第3分科会「憲法と国際法の関係」、第4分科会「統治行為としての経済政策」それぞれについて各講師から論点説明があり、今回のテーマ 「転換期の国際憲法?」について講師間で議論が展開されました。
 参加者の方からは、次のような感想が寄せられました。
「それぞれの先生の問題意識を,石川先生が上手に展開してくださったので,とても興味深くお話を伺えました」、「国際憲法について各講師がキーワードをあげてコメントして良い導入になった」、「学会の中心におられる先生方のお話を伺えることは、本当に貴重な機会となりました」、「4名の先生が揃うことはこの時だけです」

憲法を学問するⅣ 石川健治先生

第1分科会講師    石川健治先生

憲法を学問するⅣ 蟻川恒正先生

第2分科会講師    蟻川恒正先生

憲法を学問するⅣ 宍戸常寿先生

第3分科会講師    宍戸常寿先生

憲法を学問するⅣ 木村草太先生

第4分科会講師    木村草太先生


【分科会】

分科会は1日目2時間半、2日目1時間半、合わせて4時間をを使って、4人の講師の下で各テーマを論じていただきました。
参加者の方からは、次のような感想が寄せられました。
「始めはトピック相互の関係がわからなかったのですが、最後まで受講したところ、一貫した流れになっていることがわかり、面白かったです」、「憲法の素人でも理解する機会を与えて頂き、とてもありがたかったです」、「先生の知に触れただけでも大変に刺激を受けました」

第1分科会「国際紛争の平和的解決と憲法」
石川 健治(東京大学法学部教授)

憲法を学問するⅣ 第1分科会

第1分科会

 昨年の「憲法を学問するⅤ」でとりあげた樋口陽一『憲法』は、その索引に「国際憲法」の語が登場する例外的なテキストである。同名の原題をもつ仏文著書を、後の国際司法裁判所裁判官、小田滋と共訳した体験がその背景にあるのは、いうまでもない。しかし、それ以上に、戦前は京城帝国大学、戦後は東北大学で活躍した国際法学者・祖川武夫が、樋口にとっての学問上のメンターであり続けた事実が、昨年も指摘された樋口憲法学と国際法学との親和性を示唆している(参照、祖川武夫論文集『国際法と戦争違法化――その論理構造と歴史性』[信山社、2004 年])。
 祖川は、戦前は国際法学者、戦後は世界的な国際政治学者として活躍したハンス・モーゲンソーの研究から入り、国際紛争の平和的解決の制度を、国際政治の現実との緊張関係において追究した人である。国連憲章における集団的自衛権の観念や、日米安保条約・日韓基本条約に対しても、批判的な検討を加えた。この祖川が樋口に与えた学問上の影響の探求を通して、標題の主題に迫ろうというのが、第1分科会の狙いである。
 

第2分科会「戦争・武力行使と憲法」
蟻川 恒正 ( 日本大学大学院法務研究科教授)

憲法を学問するⅣ 第2分科会

第2分科会

 一国の政治過程における窮極の事態というべき戦争の開始は、先行する国際紛争にどれだけ切迫性があるかにかかわらず、国際問題としての側面と同時に国内問題としての側面をも有している。
 むしろ現代の戦争は、対外的側面と対内的側面とが接合する事象として捉えるのでなければ、その構造的本質を見誤るおそれがある。1931 年以降 15 年にわたって続けられた日本の対外侵略は、この両側面の結合がもたらした破滅的帰結である(今日のロシアによるウクライナ侵攻にも同じ結合が看取される)。
 現代の戦争についてのこうした把握を憲法論の地平に引き直すと、いかなることがいえるであろうか。例えばこのような事柄について、皆さんとともに考えていきたい。
 

第3分科会「憲法と国際法の関係」
宍戸常寿 ( 東京大学法学部教授 )

憲法を学問するⅣ 第3分科会

第3分科会

 日本の憲法史を振り返ればわかるとおり、一国の立憲的憲法は、国際法秩序を離れて理解することができません。憲法と国際法の理論的関係は、日本国憲法の制定をどのように理解するかにも関わってきました。さらには国際法の変化は、憲法の運用や解釈を、ついには憲法典をも変えていくかもしれません。様々な二国間・多国間の枠組が形成され、国際公益が実現される過程と、一国の政治プロセスを規律する憲法とがどのように関わるのか。国際人権法や SDGs のような国際的な規範の生成は、日本国憲法と果たして順接の関係にあるのか。こうした点を、東西冷戦終結から 30 年、グローバル化が曲がり角にあるとされる 2022 年の時点で議論してみたいと思います。
 

第4分科会「統治行為としての経済政策」
木村 草太 ( 東京都立大学法学部教授)

憲法を学問するⅣ 第4分科会

第4分科会

 現今の状況の中で、「政治に対する法的統制はできるだけ少ない方がよい」という主張が見られる。また、「政治に対する法的統制は不可能だ」という議論も見られる。この分科会では、「国民意識」に言及するいくつかの判決、統治行為に関する憲法理論を検討し、経済政策や国際経済秩序の形成が、一国の統治構造の中でどのように位置づけられるかを検討してみたい。
樋口陽一「比較憲法論から見た日本の裁判官制度像」、「〈批判的峻別論〉の可能性」、宍戸常寿「統治行為論について」、
蟻川恒正「『婚姻の自由』のパラドクス」、石川健治「憲法・経済・秩序」の各論考が特に参照される。
 

【フリートーク】

フリートークの様子

 初日の夕食後に行われた「フリートーク」は、最初にオンライン参加者と講師の方々との質疑応答から始まりました。
フリートークは、会場参加者が4人の講師と直接会話ができる特別な時間となりました。参加者が自由に着席した4つのテーブルを4人の講師が回り、参加者の経験やバックグランドを超えた自由闊達な交流を図ることができました。

オンライン参加者と講師の先生方との質疑応答

宍戸先生を囲んで

木村先生を囲んで

蟻川先生を囲んで

石川先生を囲んで

【分科会報告】

 2日目に行われた分科会報告は、2日間4時間にわたる議論の成果を各分科会から発表していただきました。
参加者の方からは、次のような感想が寄せられました。
「自分の理解とはまた違った視点で理解されていることを知ることができて新鮮でした」、「報告の内容が良くまとまっていたので、理解できました」、「他の分科会の参加者がそれぞれどのようなことを考えたかがよく分かる報告でした」、「現役の学生による熱のこもった報告に感銘を受けました」

第1分科会報告 石川先生

第2分科会 代表3名による報告

第3分科会 代表2名による報告

第4分科会報告 木村先生

【総括討論・質疑応答】

総括討論・質疑応答

 2日目、このセミナー最後のプログラムは【総括討論・質疑応答】です。
分科会報告を踏まえて、総括討論と質疑応答を行いましたが、参加者からの積極的な質疑が続き、熱く盛り上がりました。
質疑応答の後、企画委員長の石川健治先生より総評とご挨拶をいただき終了となりました。
 参加者の方からは、次のような感想が寄せられました。
「質疑応答から、少し抽象化して、関連する論点についてもご意見をお伺いできたことが良かったと思います」「2日間という短い時間でしたが、密度の濃い時間でした。法を学ぶ者として少し進歩できたように思います」、「法を学んだことのない素人にも、雲の上の人たちと触れる機会を得られるのはとても貴重な価値のある時間でした」

参加者から質問が続きました

【閉会】

 最後に、大学セミナーハウス外村専務理事より閉会の挨拶があり、講師の先生方を囲んで記念撮影をさせていただき、閉会となりました。
 2日間のセミナーを通して、参加者の方から様々な感想をいただきました。
「このような会を継続していることは、先生方、ご関係の方々のご労力があると思われます。本当にありがとうございます」「全体を通じて4教授の掛け合いがとてもエキサイティングでした」など

 全国から多くの方々にご参加いただきありがとうございました。
また、セミナーの企画から運営までご尽力いただき、2日間にわたって熱心に参加者と向き合っていただいた4人の講師の先生方と特別講義をご提供いただいた樋口先生に心より感謝申し上げます。

憲法を学問するⅣ 全体写真(樋口陽一先生を囲んで)

会場参加者とオンライン参加者と講師の先生方で記念撮影

憲法を学問するⅥ  企画委員会

<委員長> 石川 健治 東京大学法学部教授  
<委 員> 蟻川 恒正 日本大学大学院法務研究科教授  
       宍戸 常寿 東京大学法学部教授  
               木村 草太 東京都立大学法学部教授  
<特別講座>樋口 陽一 東京大学・東北大学名誉教授  
 

開催状況

お問い合わせ

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 TEL:042-677-0141(直)FAX:042-676-1220(代)
 E-mail:seminar@seminarhouse.or.jp
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