第43回 大学職員セミナー
「新たなリスクに挑む⼤学マネジメント ―具体的事例から考える―」
実施報告
期日 | 2022年11月5日(土) |
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会場 | Zoomミーティングルーム |
主催 | 公益財団法人大学セミナーハウス |
協賛 | 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩 |
後援 | 大学コンソーシアム八王子 |
参加状況 7校 8名 社会人1名 合計9名
社会人(1名)
開催趣旨
しばしばあります。誠意ある対応は当然のこととして、社会的・道義的責任を負う場合には、実
効性ある組織的対応を⾏うことが必要となります。なかには、⼤学が加害者となり法律上の賠償
責任を負う場合や、さらには⼤学の役職員が刑事上、⾏政上の責任を負うことも考えられます。
もちろん事故・事件に備えたリスクマネジメントは、⼤学経営上の重要課題としてすでに定着
しています。ところが近年になり、⼤学は新たな巨⼤リスクに直⾯することになりました。⽪⾁
なことに、教育研究活動を活性化・⾼度化するうえで原動⼒となる社会連携活動やICTの発展等
が、不可避的に、新たなリスクを呼び込むことになったのです。損害賠償や懲戒処分を伴う重⼤
事故はすでに起きており、今後さらに増加することが危惧されています。現⾏のリスクマネジメ
ントシステムのスコープの拡張という喫緊の課題に応えるために、まず新たなリスクの詳細につ
いて知識を得ることが必要でしょう。これが本セミナーの第⼀の⽬的です。
第⼆に、リスクマネジメントの強化に向けてすでに膨⼤な資源が投⼊されている⼀⽅で、依然
として同様の事故・事件が繰り返され、⼤きな損害が発⽣しています。リスクについて⼗分な知
識が蓄積され、防⽌に向けた組織的取組みも制度化されているにもかかわらずです。なぜなので
しょうか。事例の検討を通じて⾒えてきたのが、制度設計そのものではなく、運⽤の段階で⼤き
な問題が⽣じているのではないか、という事情です。制度を成果に繋げることのできないマネジ
メントの機能不全、という問題が、リスクマネジメントの領域でも起きているのでないか。おそ
らく、直接の担当者だけではなく関連する全職員が、リスクマネジメントの当事者として知識と
⾃覚を持って⾏動することが、問題解決に向けた鍵となるはずです。古くて新しい、マネジメン
トの機能不全という問題の克服に向けて理解を深めていくことが、本セミナーの第⼆の⽬的とな
ります。
第三の⽬的は、リスクマネジメントの難しさの本質を理解することです。リスク社会論が教え
る通り、今⽇、社会の不安定化と科学技術の発展が相まって、解決が困難な多くの社会問題が引
き起こされています。⼤学で多発する事故・事件も、もちろんその⼀部です。本質的な難しさを
理解することにより、事故・事件の防⽌に向けた効果的で粘り強い取組みへの道がひらけてくる
のです。
開会式
大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶
大学セミナーハウスの数ある主催セミナーの中でも長い実績を誇るこの「大学職員セミナー」もその一つであり、企画委員長の立教大学神山正之さまを始め5人の委員の方々の熱意に支えられて、今年もオンラインの形で行えますことを主催者として誠にうれしく、感謝申し上げます。また今年も公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩の協賛、大学コンソーシアム八王子の後援を頂戴しましたこと、厚く御礼いたします。
さて、今年のテーマは「新たなリスクに挑む大学マネージメントー具体的事例から考えるー」であります。基調講演としてまず国大協サービス取締役副社長兼事業部長の藤井昌雄さまの現在実際に存在している大学関連のリスク、管理・経営から学生、教職員の不祥事、各種ハラスメントなど大学内の情報、当事者同士のコミュニケーション、そこから生ずる理解あるいは誤解等々の事例を挙げていただき、大事なのはことが起きてからではなく事前に筋の通った予防策を講じてゆくことの大切さについて語っていただきました上、もう一つの基調講演として筑波大学准教授の加藤毅(たけし)先生には具体的にリスク管理論、リスク社会論などの問題の整理、マネージメントのあり方について取り上げていただく予定でおります。
最近の大学マネージメントリスクで最大のものといえば誰もが思いつくのが日本大学理事長に関する事件ありましょう。このようなケースをどう予防しかつ社会正義に基づいて予防あるいは解決するか、興味深いお話が効けるのではないでしょうか。
オンラインではありますが基調講演をお聞きになったうえで一人ひとりの参加者の皆さんがご自分の仕事に生かしてくださることを期待して、私のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。
【基調講演1】
テーマ | ⼤学が直⾯している新たなリスクとわかっていても減らない事故 |
講演者 | 藤井昌雄 (国⼤協サービス取締役副社⻑兼事業部⻑) |
次に典型的な事例群を取り上げ、事故・事件に⾄る経緯や発⽣後に必要となる対応等の詳細、そこで⽣する損害額等について理解を深めていきます(ミクロ分析)。これらの分析の結果をふまえ、最後に、リスクマネジメントの体制および運⽤上の問題、顕在化した事故・事件の原因や予兆、事故・事件の有効な防⽌策とその実現のために必要な資源などについて試論を展開します。
【基調講演2】
テーマ | リスク管理論とリスク社会論に学ぶマネジメント |
講演者 | 加藤毅 (筑波⼤学⼤学研究センター准教授) |
事故・事件に備えたリスクマネジメントの機能不全を克服するための体系的知識がリスク管理論です。あるべき基本的考え⽅や、リスクの発⾒⽅法や測定枠組み、対応パターンやコントロールプロセスなどについて、事例に即して理解を深めていきます。
他⽅、リスク社会論が主張するように、社会の不安定化と科学技術の発展が相まって、解決困難な多くの新たな社会問題が引き起こされています。⼤学で多発する事故・事件も、もちろんその⼀部です。講演では、リスク社会論により解き明かされる問題の難しさについて改めて整理した上で、そこでのマネジメントのあり⽅について議論を深めていきます。わかっていながらも防⽌することが難しい、その理由を理解することによって、実効性のある粘り強いマネジメントの取組みが可能となるはずです。
【グループワーク】
参加者の皆さんに経歴、および、参加の動機や目的について語っていただきました。
「リスクはとても重要なテーマなので参加した」「昨年第42回の”大学マネジメントを変革するDX”に参加し勉強になったので、今年も参加した」等の熱心な声も聞かれました。
自己紹介のあとは、3つのグループに分かれてグループワークを行いました。
各グループをファシリテータとして企画委員1~2名が担当しました。また、基調講演を行っていただいた藤井昌雄氏と加藤毅氏が20分づつ3つのグループを回り、講演の質疑応答を含めグループワークに参加いただきました。
テーマ:リスクマネジメントの現状と課題
具体的には、以下のテーマについて議論しました。
- リスクマネジメントの体制や運⽤上の問題
- 顕在化した事故・事件の原因や予兆
- 事故・事件の有効な防⽌策と実現のために必要な資源
Aグループ
Bグループ
Cグループ
【各グループ報告】
Aグループ
事務職はトラブルに対して何ができるかというとが大切だという話が出た。「体制づくり」は事務職員でないとできないし、「草の根・浸透させる活動」も事務職員の役割であろうということになった。しかし、事務職間だけではなく、教師へのアプローチが焦点になった。
加藤毅氏からお話を聞いたところ、研究室が閉鎖されていることがリスクではないかとのこと。研究室に入るという行為が一つのやり方として考えられる。教師の部屋に入るために「火災防止目的で清掃をする」等で研究室に外部の目が入ることでリスクの回避になるのではないか。教師からの「忙しい」との反論に対して「掃除費用」で火事が防止でき、「トラブル発生時の被害額」を数字で説明することにより納得してもらえるのではないか、というようなことを話した。
Bグループ
学生募集という点は大きなリスクマネジメントが必要な部分であり、これを大学としてどう考えるかという話題が出た。
新しいリスクに対し各員がしっかりとした知識を持って対応を行うのは難しいので、知識をもった専門家に頼っていいのではないか。職員という立場では、全体をマネジメントし、どこに相談すればいいか、どこを巻き込むべきかを統括する立場でいるべきではないかとの意見をいただいた。
具体的には、以下のような話題が出された。
・キャンパス内で私的な喧嘩が発生した際の補償について、保護者から大学が裁定してほしいとの要望があるが、私的なものは当事者間で解決すべき問題ではないか
・トラブルに対する「未然防止」をどこまで追求すべきかと「事後対応」のバランスという意見も出た
・個人・プライバシー関連のトラブルが発生した場合、学内でも具体的な内容を共有できず一部の人間しか知らず、結果のみの共有にとどまってしまうため、同様のトラブルが生じてしまう。そのような共有の難しさがある
Cグループ
各学校で起きていることの紹介という点では、リスクの範囲は多岐に渡るため、新たな事象へのリスク対応には限度がある。専門家に任せるべきところは専門家に任せた方がいいという話題が出た。
対応行動を変えるためには、意識を変える必要がある。教職員や学生に啓蒙活動を行うということになる。正常性バイアスのコントロールはどうしたらいいかということを個人的に考えている。同じ土俵上に立ってリスクをコントロールするということは組織として課題があるということを日常的に思っている。
【総括】
入試は、どの大学も同じ形式なので同様のトラブルが発生する可能性がある。個人情報・プライバシーにかかわる場合、共有することが難しいという悩みが出た。信頼できる人の間では、そういった情報を共有することで「間違いのない対策」または、「発生時の判断」の参考になる。ここまでの対応でいいのか、もっと残務処理が必要なのか、比較的各大学で同じようなリスクが生じることがありえるので、そこが共有できることは大事だと思う。
これから生じることの未然防止、発生してしまった場合には参考情報として共有できるような体制が作れるといいと考えている。基調講演1藤井昌雄氏からの事例紹介は件数も多く参考になるので読み込んで参考にしていただきたい。
【全体写真】
【参加者アンケート紹介】
- 多くの事例から損失の大きさについて学ぶことができた。全学で意識を高める必要があると感じた。
- 大学関係のニュースの「量」と「種類」の多さを共有いただき、そのリスク対策の必要性を実感することができました。人的資源の限られた大学においては、「点(個人/1つの課)」で対応することが多くなるかと推察しますが、「面」で事にあたることができる「組織づくり」こそが肝要かと考えます。教示いただいたことを実践に結び付けるべく動いて参りたいと思います。
- 事例は、報道等により「あのことかな?」と想像したが、件数や金額での数値を明示していただいたことで、評価ができるようになり、興味深かったです。
[基調講演2について]
- 盛りだくさんの内容でついていけなかった。事前にレジュメをいただけると良かった。
- リスクの定義について、「事故や事件、不祥事の防止」という面と、「新しい取り組みによる付加価値の創出」につながる面の表裏一体について知ることができ、あわせて、それぞれの不確実性のコントロールに肝がある点を理解することができました。また、その解法としてのフレームワークも共有いただいたことで、本学ならではのマネジメントについて講じていくことができるようになったと思います。システムとして出来上がるまでは時間を要するとは思いますが、全学的な取り組みにしていけるよう動いていきたいと思います。
- リスク測定のマトリクスの図が、業務上ちょうどほしいタイミングでいただけたので、とてもよかったです
- リスクを体系的に学ぶことができた、希少な講演だったと思います。
[グループワークについて]
- 他大学の方の状況を伺えて有意義だった。自分が準備不足だったことが悔やまれる。
- 他大学の過去実績、取り組み内容をうかがい知ることができ、有意義な情報交換の場となりました。他方、今回は参加人数が少なかったので、グループに分割せずに進行した方がより多くの情報に触れることができたようにも思いました。
- 皆様の管理体制や抱える問題など、多くを共有していただき、ありがとうございました。
- 高度に専門的な知識を要するような事象については、弁護士の方に頼らざるを得ないとは認識しているものの、そこまでいかない学生を立て直したり、一番良い着地点を探す方法を、職員も並行して考えていかなければならないと思います。
- グループワークの時間配分と人数について、次年度に向け検討をお願いします。
- 各校の共通する問題意識や、事例を伺うことができ、心強かったです。
[総合評価]
- 短時間でしたが充実した内容だった。参加者が多いと取り組み等参考にできる部分が増えたのではないかと思う。グループワークは緊張したが、ファシリテーターの方のおかげでいろいろと伺えてよかった。
- はじめての参加でしたので、大変有意義な時間となりました。次回同じテーマで実施される場合は、(ヒントに飢えておりますので)対策について「より具体的な事例」をご紹介いただける時間が欲しいと思います。
- グループワークの充実を図ることで、より良いセミナーになると思います。
- 参加者数が、想像していたよりも、少数だったことに驚きました。開催日程の問題なのか、避けて通っている問題なのか、既に対応は万全ということなのか…
[他にどのような課題を取り上げてほしいと思うか]
- リスクに対する全学の意識を高める方策(取組)等について、検討する機会を設けていただきたい。
- 学内での情報共有の方法について、ご教示いただけると助かります。シェアツールは様々なあるのですが、なかなかフローができず、苦慮しています。ご一考頂けますようお願いします。
- 大学における社会連携事業、事務職員の人材育成プラン、学費以外の事業収入の可能性
*ここに掲載している内容はアンケートの一部です。
【大学職員セミナー企画委員】
神山 正之(立教大学入学センター)
<委員>
青木 加奈子(共愛学園前橋国際大学短期大学部事務局)
加藤 毅 (筑波大学大学研究センター准教授)
黒田 絵里香(慶應義塾塾監局総務部課長・協生環境推進室事務長)
田中 一平(法政大学学務部次長)
渡邊 正樹(中央大学学事部企画課課長)
お問い合わせ
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