セミナー・イベント

世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲ
―with/postコロナの中国と世界―

実施報告

【趣旨】

 この講座では、コロナとともにある、またはコロナ後の中国について、その世界との関わりを踏まえて考察することを目的とする。中国は共産党成立百周年を契機に全面小康社会が実現したとし、経済政策の面で「双つの循環」政策をとり、共同富裕と呼ばれる政策目標を設定している。対外的には、2049年の中華人民共和国の百年に際してアメリカに追いつくという目標を設定し、外交、軍事両面で積極的な政策を採用しながらも、現段階では気候変動などでアメリカとの協力を模索し、またCPTPPに参加申請をするなど自由貿易を支える姿勢を示している。このように、中国のことはある意味でわかりにくい面があるし、またコロナ下、あるいはコロナ前後で状況は急速に変化している。日本と中国との関係も、「新時代」という共通の言葉を踏まえて、どのように構想されていくのか。この講座では、こうした状況を踏まえて、「四つの大きな問い」を設定し、それを中心にしたグループ討論などを通じて、中国に迫る手がかりを得ることを目指す。(川島真企画委員長)

実施概要

 世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲセミナーは昨年コロナ禍により休止でしたが、今年はZoomを用いたオンラインで開催いたしました。
 このセミナーは2018年、グルーバルアカデミーセミナーとして立ち上げ、開催し始めました。企画委員長の川島真先生が書かれた第1回目の開催趣旨の中に、「19世紀以来のデモクラシーと自由貿易に疑義が唱えられ、また欧州の地域統合も大きな課題に直面しています。そうした中で中国は世界第2位の経済大国に躍進し、昨今には新たな地域、世界秩序構想を提起しています。アメリカが従来通りの役割を果たせなくなる中、東アジアに住むわたしたちも、中国について、またこの地域の将来について真剣に考えなければなりません。このセミナーでは、その中国を内政、外交、経済、社会から考察し、日本の中国への関わり方をあらためて考えたいと思います」と書かれ、このセミナーの狙いをはっきりしています。そして、2019年の2回目、また今年3回目のセミナーの内容はまさにその通りに進行してきました。
 
一次資料を手係に現実の中国を分析し中国を学問する親中」か「反中」かではなく、本質の中国を見つめ、今の中国とどのように関わっていくかを考える、というのがこのセミナーの特徴です。

開会式
大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶

「世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲ」セミナー 大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶

大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶

鈴木館長挨拶全文
  皆さんおはようございます。
  昨年度はコロナ禍の真最中ともいうべき社会情勢のために残念ながらこのセミナーを休まざるを得ない結果となりましたが、今年度は講師の先生がたや関係者の皆さんの熱心なご努力によってオンラインセミナーの形ではありますが、開催できましたことを、主催者として心から嬉しく思っております。
 今回も企画委員長の川島真(かわしましん)先生をはじめ、小嶋華津子(こじまかずこ)先生、金野純(こんのじゅん)先生、森路未央(もりろみを)先生と素晴らしい講師のかたがたがお集まりくださり、実に興味深いテーマが掲げられております。
 前回はちょうど香港の民主勢力が中国政府の強硬な姿勢によってまさに押しつぶされようとしている直前に開かれたと記憶しております。その後の香港、あるいは中国政府の政策をみておりますと、明らかに国際連合の掲げる戦後の立憲民主主義と多様な民族文化の尊重とは全く違った方向へと進んでいるかのようであります。中国にはアメリカの掲げる民主主義とは異なった民主への道がある、そしてそれを指導するのは共産党による独裁政権であると国内外に宣言しつつ超大国への道を驀進するかのようであります。
  しかもその上コロナウィルスによる世界的危機を克服するには中国の強権的な対処の仕方こそが有効であるというかのごとき厳しい規制をかけていることは皆さんもご存じのとおりです。これに対抗するアメリカの批判には全く動じない態度をとっておりますが、果たしてこのやり方が今後も世界的に認められるのか否か、中国にとってメリットよりもデメリットが増してくるのではないか、自ら戦争の危機をあおるようなことはないのか、習近平がかつての毛沢東のような独裁者として君臨し続けるのか、先の見通しは容易なものとは思えません。今日はオンラインを通じてではありますが、講師の先生方のお考えをじっくりと拝聴し、参加者それぞれの方の糧として今後の指針としていただければ誠に幸いです。どうぞ充実した一日をお過ごしください。ありがとうございました。

【基調講演】
テーマ:「With/Post コロナの中国と世界」
講演者: 川島 真(東京大学大学院教授・当セミナー企画委員長)

「世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲ」セミナー 基調講演

東京大学大学院教授・企画委員長川島真先生

【パネルディスカッション】

第1分科会講師 小嶋華津子先生

第2分科会講師 金野純先生

第3分科会講師 森路未央先生

第4分科会講師 川島真先生

下記四つの問いについてディスカッションされました。
問1(第1分科会)
習近平政権および共産党による統治は、ポストコロナ時代も盤石でしょうか?
問2(第2分科会)
中国共産党の社会統制にはいかなるメリット、デメリットがあるのか?
問3(第3分科会)
中国経済は持続的安定成長を実現できるか?
~ポストコロナ期のリスクと対応策~
問4(第4分科会)
中国の目指す国際秩序とは何か。それは世界から支持されるのか。

【分科会討論】

第1分科会

テーマ 習近平政権および共産党による統治は、ポストコロナ時代も盤石でしょうか?
担当講師 小嶋 華津子先生(慶應義塾大学教授)
第1分科会主旨
 
習近平政権は発足以降、党が前面に立って政府のあらゆる業務を代行する制度を構築してきました。また、複数の共産党指導者による集団指導ではなく、習近平個人に多くの権力を集中させたことも、習近平政権下の統治の特徴の一つです。こうした統治体制の下、中国共産党は、イデオロギー教育、法、テクノロジー、公安や軍などのツールを用いて、統治の強化を図ってきました。このような体制や統治のツールは、ポストコロナ時代を迎える習近平政権さらには中国共産党の統治の安定に寄与するのでしょうか、それとも不安定要因となるのでしょうか。皆さんとじっくり議論したいと思います。

第2分科会

テーマ 中国共産党の社会統制にはいかなるメリット、デメリットがあるのか?
担当講師 金野 純先生(学習院女子大学教授)
第2分科会主旨
 2021年、中国共産党は結党100年を迎えた。現在、中国共産党は党員9200万人以上を抱える世界最大の政党となり、今なお強力な一党独裁体制を維持している。その強権的ながらもスピーディーな政策実行能力は、中国におけるコロナウィルスの封じ込めに一定の効果を発揮したとされるが、他方で個々人の人権への配慮の欠如は民主主義社会の人々に違和感を感じさせること事実である。現在、中国共産党による社会統制は、デジタル技術の積極的な利用と一党独裁に有利な法規制の拡大によって、かなり強固なものとなっている。変化の激しい現代社会において、その社会統制の在り方にはどのようなメリット、そしてデメリットがあるのか。本分科会では中国共産党による社会統制を多面的に議論したいと考えている。

第3分科会

テーマ 中国経済は持続的安定成長を実現できるか?
~ポストコロナ期のリスクと対応策~

 
担当講師 森 路未央先生(大東文化大学准教授)
第3分科会主旨
 中国経済は2010年代以降の減速傾向に対して、新たな発展パターンへの転換、構造改革による安定成長を目指しました。しかしその最中にコロナが発生し、2020年のGDP成長率は2.3%まで低下しました。回復が期待された2021年は、全人代においても「内需拡大」「対外開放の推進」などで構成される「双循環」政策を掲げたものの、半導体の供給不足、自動車販売の減少など消費停滞、これまで不安視されていた金融や不動産のリスクが表面化しています。こうした現状から、中国経済はコロナにかかる不確実性を回避し、どのように持続的安定成長を実現させるのでしょうか。本分科会では中国経済の安定成長の持続性を焦点に、現状、リスク、対応策などについて皆さんと議論していきます。

第4分科会

テーマ 中国の目指す国際秩序とは何か。それは世界から支持されるのか。
担当講師 川島 真先生(東京大学大学院教授)
第4分科会主旨
 習近平政権の下で中国はその対外関係を制度化した。まず、「党の領導」の下で対外政策も党の指導性を明確にした。また、政策面では新たな秩序形成を明確にし、新型国際関係という考えかたを提起した。中国はもはやあらたな「標準」を創出する存在になろうとしている。だが、自由貿易枠組みなど、既存の秩序に寄り添おうとする分野もあり、他方で国連の下にある組織での行動のように途上国にとって不利な部分を是正しようとしたり、あるいは先進国の作ったルールに反発する時もある。では、中国の想定している秩序はどのようなものなのだろうか。そして、世界はその秩序を受け入れられるのだろうか。その両面から中国の対外政策を考えてみたい。

【全体会】
知の共有(分科会議論結果発表)、講師コメント、総括

第1分科会

「世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲ」セミナー 第1分科会

第1分科会議論結果発表

第2分科会

「世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲ」セミナー 第2分科会

第2分科会議論結果発表

第3分科会

「世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲ」セミナー 第3分科会

第3分科会議論結果発表

第4分科会

「世界の中の中国と日本-現代中国理解Ⅲ」セミナー 第4分科会

第4分科会議論結果発表

【オンラインスクリーンショット写真】

【開催を終えて】

【セミナー参加者アンケートの紹介】

1、基調講演について
★中国についての具体的なお話のみならず、こうした国際情勢下で、社会人・院生・学部生など、世代・セクターを超えて議論することの意義もご説明いただき、大変勉強になりました。
★いつもながら川島先生のエッセンス満載のご講演、これだけでも新書1冊書けると思います。
★中国の概要を端的に説明されていて、非常にわかりやすかった。中国の各分野の概略が掴めてよかった。

2、分科会について
★議論が非常にハイレベルでついていくのも大変であったが、学ぶことが多かった。
★内容的には良かったと思うが、時間が短く、参加者同士のコミュニケーションも不十分な中、深く掘り下げることができなかったのが残念。
★取り纏めで院生の高橋さんが、テンポ良く気配りしながら纏めてくれました。又川島先生が絶妙な助け船を出して下さり、複眼的な興味深い発表に繋がりました。

3、分科会議論結果発表について
★みんなレベルが高く、本当に驚きました。そして素敵な留学生たちの講演を聞いて大変勉強になり、専門性が強かったです。自分にはまだ力不足だと感じ、より頑張りたいと思います!
★どの班もとても充実した議論がなされたことが伝わる発表会でした。また最後のコメントで講師の先生もおっしゃっていました通り、資料共有があると更に質疑応答もしやすくなるように感じました。
★リモートの日帰り開催でやむを得ないが、準備も相互検討も時間的に不足していた。

5、セミナー全体について
★視野が広げて、複眼的な見方で現代中国に対する理解を深めることができました。初めてこのようなセミナーに参加させて頂き、とても光栄です。パソコンの不具合でカメラが使用できず、飲み会を遠慮させて頂き、申し訳ございません。自分の専門知識不足でついていけない部分がありましたが、大変勉強になり、有意義な時間を過ごさせて頂きました。感謝を申し上げます。
★中国について様々な知見を得ることができ満足だった。
★習近平政権の批判が多かったが、その具体的根拠はあまり記憶にない。私達は、官僚ではないため、ニュースや新聞、文献、授業などで情報を収集することが重要だ。日本と中国は距離的に近いため、今後も調査する必要がある。

6、今後、どんなテーマを希望しますか
★今後は、引き続き各分科会のテーマをより深堀りできるようなテーマに希望致します。
★現在のロシアが目指すものは何か。旧ソ連圏では何が起きているのか。