セミナー・イベント

古田武彦記念古代史セミナー2022

セミナー実施報告

期間 2022年11月12日(土)~13日(日)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1) ・
Zoomミーティングルーム
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
共催 多元的古代研究会 東海古代研究会 東京古田会 古田史学の会
参加状況 62名(会場参加者38名・オンライン参加者24名)

【趣 旨】「聖徳太子」と「日出づる処の天子」の時代

荻上紘一実行委員長 

 「古田武彦記念古代史セミナー」は、卑弥呼の時代(3世紀)、倭の五王の時代(5世紀)と続き今回が5回目となります。今回は「聖徳太子」と「日出づる処の天子」の時代(7世紀)に焦点を当てることにしました。
 「聖徳太子」は、1930年以来1986年まで、7回(百円札4回、千円札、五千円札、一万円札各1回)に亘り高額紙幣の顔として、日本人の懐を暖かくしてくれる「有難い存在」であり続けました。その「聖徳太子」は、冠位十二階や十七条憲法を定めるなどの偉大な業績を残す一方で、遣隋使に託した国書に「日出づる処の天子書を日没する処の天子に致す恙無きや」と書いて煬帝を激怒させたという話もよく知られています。しかし、「日出づる処の天子・・・」と書かれた国書に関する記述が正史である『日本書紀』に見られないのはどうしたことでしょう。相手を怒らせたからでしょうか。
  一方、(百衲本)『隋書』俀国伝には、「俀王姓阿毎字多利思北孤號阿輩雞彌」が隋に使者を遣わし、国書には「日出處天子致書日没處天子無恙云云」と書かれていたと記されています。「(百衲本)『隋書』俀国伝に「俀王姓阿毎字多利思北孤號阿輩雞彌」と記されている人物」=「聖徳太子」であれば話は簡単ですが、両者の属性を比較すれば一致しないものばかりです。一般に、2人が同一人物であることを証明するのは非常に難しいのですが、異なる人物であることの証明は簡単です。一致しない属性が一つでもあれば同一人物ではありません。それどころか、「聖徳太子」に関しては、存在すら疑われている有様です。
 物語として古代を語るのは夢がありこの上なく楽しいのですが、古代史学においては科学的な「史実」の確認が基本であり、その作業は客観的且つevidence-basedでなければなりません。今回のセミナーでは「聖徳太子」と「(百衲本)『隋書』俀国伝に「俀王姓阿毎字多利思北孤號阿輩雞彌」と記されている人物」に焦点を当てることにより、7世紀の真実の歴史に迫りたいと思います。
 今回のセミナーは、嘗て50年以上に亘って日本人の懐を暖め続けてくれた「聖徳太子」が架空の人物であるという大山誠一先生による「衝撃的な」研究成果をお聴きすることから始めたいと考えました。
 このセミナーでは、大山先生の特別講演をお聴きした上で、古田先生の古代史学の研究方法を再確認しながら、「日出づる処の天子」の時代のevidence-based historyについて建設的な議論が盛り上がることを期待しています。
 このセミナーは、研究者のみならず、古代史に関心を持つ全ての人を歓迎します。このセミナーが、若い人々が真実の古代を覗く窓になれば幸いです。
 このセミナーは、大学セミナーハウスと多元的古代研究会、東海古代研究会、東京古田会及び古田史学の会が共同で開催します。
実行委員長 荻上紘一

【開会の挨拶】

大学セミナーハウス館長・鈴木康司

古田武彦記念古代史セミナー

大学セミナーハウス
鈴木康司館長

 昨年に引き続き、今年も荻上実行委員長はじめ8名の委員の方々の熱意と実行力に支えられて、古田武彦記念古代史セミナーがハイブリッド形式で開催できましたことを、主催者として心から感謝いたします。また、共催の形でいつも変わらない御支持を賜ります多元的古代研究会、東海古代研究会、東京古田会、古田史学の会に厚く御礼申し上げます。
 さて今年も例年同様大変興味深いサブタイトル『「聖徳太子」と「日出づる処の天子」』がついております。私は戦争中に小学生でいやというほど軍国教育を叩き込まれましたので日本の歴史についても聖徳太子の業績について教科書を通じて教わりました。その中でも特にこのサブタイトルの言葉、聖徳太子が隋の煬帝(ようだい)に送ったという国書は印象的でありました。今考えれば「大言壮語」で外交辞令に反するこのような言葉は「井の中の蛙大海を知らず」と言われても仕方なく相手に不快感を与えるに違いありませんが、当時の軍国少年としては聖徳太子という人はずいぶん偉い人だったのだなという感想しか持ちませんでした。
 しかし、今回のセミナーを機に多少の知識をと参考資料を拝見してみますと、この言葉は『隋書』に載ってはいるもののそれより84年もあとの天皇家の権威付け歴史書『日本書紀』には載っておらず、何より驚きましたのは、この大言壮語をした天子の名前は「多利思北孤(たりしほこ)」と記されていることでした。皆様方と違って古代史には門外漢の私は初めてこのことを知り、一体なんでこんなことが不問に付されていたのか全く理解できませんでした。さらに聖徳太子は女帝である推古天皇の皇太子であることは知っておりましたから、多利思北孤という別名で天子を名乗るのも無理があるだろうと思った次第です。さらに古田先生の資料によれば、この天子の妻は「きみ」という名前だそうで、阿蘇山がある地域だとあります。そうなると私のような素人から見てもこの「多利思北孤」は聖徳太子でもないしまして女帝の推古天皇であるはずがないと思います。そこから導き出されるのは大和朝廷とは別に九州に厳然たる一大勢力がありその指導者も天子と名乗っていたのだろうという結論になるわけで、そうなりますと小学生の時に習った聖徳太子の話はどこからどこまでが本当の話か、今回のセミナーでそのヒントを与えていただければ誠に幸いと存じます。
 今日はまず中部大学名誉教授大山誠一先生のご講演を皮切りにたっぷりと古代史のロマンと新発見に浸る時間が待ち受けております。どうぞごゆっくりお楽しみください。

【特別講演】「日本古代史と聖徳太子」 大山誠一先生

 七世紀までの日本古代史の研究は、日本書紀を肯定的に評価するか、厳密な史料批判を求めるかで立場が分かれる。坂本太郎以来の前者では、六世紀末に突然中国的素養豊かな聖徳太子が登場し日本の行く末を示す。太子没後、その理想を継いだ中大兄と中臣鎌足らが反対派の蘇我入鹿を滅ぼして大化改新を断行する。その後、七〇一年に大宝律令が編纂されて中国的律令国家が完成すると説かれる。しかし、津田左右吉以来の書紀に対する懐疑的立場も健在である。特に、中国との交流がなかった時代に、不世出の偉人の聖徳太子が登場するというのは学問的ではあるまい。それに、大化改新詔は大宝令の知識で作られたものであり、当時の日本が律令国家を目指していたかも疑問である。書紀の虚構性は明らかである。とすれば、古代の真実はその虚構そのものの解明にあると言えよう。

大山誠一先生プロフィール:
1944年、東京都生まれ。1975年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。1999年、博士(文学)。中部大学名誉教授。専攻は日本古代政治史。
主な著書に『古代国家と大化改新』(吉川弘文館、1988年)、『長屋王家木簡と奈良朝政治史』(吉川弘文館、1993年)、『〈聖徳太子〉の誕生』(吉川弘文館、1999年)、『日本古代の外交と地方行政』(吉川弘文館、1999年)、『聖徳太子の真実』(編著、平凡社、2003年)、『天孫降臨の夢』(NHKブックス、2009年)、『日本書紀の謎と聖徳太子』(編著、平凡社、2011年)、『神話と天皇』(平凡社、2017年)など。

【記念撮影】

大山先生を囲んで、記念撮影

【講 演】

 古田武彦先生が他界された後も先生に学んだ方々が各地で研究を継続されています。
今年度は、昨年度の「倭の五王」の時代(5世紀)に続き、「聖徳太子」と「日出づる処の天子」の時代を取り上げました。
 大山誠一先生の特別講演をお聴きし、古田先生の業績に基づく論点整理を大越邦生氏により再確認した上で、「聖徳太子」と「日出づる処の天子」の時代について建設的な議論が盛り上がることを期待し、6名の方に講演をお願いしました。

 第1日目に、大山誠一先生の特別講演「日本古代史と聖徳太子」と、大越邦生氏の論点整理 「そうだったのか『出づる処の天子』」を、第2日目に、セッションを2つに分け【セッションⅠ】『隋書』を徹底して読む、【セッションⅡ】日本の文献を徹底して読む としました。
セッションⅠの初めには大墨伸明氏による【問題提起】、セッションⅡの初めには橘髙修氏による【問題提起】で各セッションのテーマを明確にした上で、各氏に講演をしていただきました。

 その詳細は、発表原稿(各講演タイトルをクリックすると表示されるPDFファイル)をご覧ください

特別講演司会 大墨伸明氏

【論点整理】大越邦生氏

【古田武彦氏の業績に基づく論点整理】 

【セッションⅠ】 『隋書』を徹底して読む………司会 和田昌美・中村忠夫  

大墨伸明氏

榛葉順一氏

服部静尚氏

【セッションⅡ】 日本の文献を徹底して読む………司会 冨川ケイ子・和田昌美

橘高修氏

合田洋一氏

セッションⅡ司会 冨川ケイ子氏・和田昌美氏

谷川清隆氏

中村通敏氏

大下隆司氏

【情報交換会】…………司会 西坂久和

 今年度は、会場参加とオンライン参加の皆様で、第1日目夕食後に情報交換会の場を設けました。

 初参加の方を中心に、ご紹介とコメントをいただき、皆様楽しんでいただけたようでした。
 

古田武彦記念古代史セミナー

【閉会】

 今年度は、特別講演に大山誠一先生をお招きし貴重なお話を聴いていただきました。そして、古田武彦先生の研究業績について改めて確認し活発な研究交流が行われました。
 最後に、
荻上紘一実行委員長から総評と来年度に向けてのお話をいただき閉会となりました。

 当セミナーの開催に当たって事前の企画立案から当日の司会進行及び講演まで務めていただいた8名の実行委員の方々に感謝申し上げます。
 今年度も、会場参加とオンライン参加のハイブリットセミナーという形で開催させていただき、全国から多くの方々にご参加いただきました。ご参加の皆様に心より御礼申し上げます。
 また、「古田武彦記念古代史セミナー」は来年も開催を予定していますので、是非ともご参加ください。

実行委員会

【実行委員長】
 荻上 紘一
【実行委員】 
 大越  邦生
   大墨  伸明
 橘高 修
 畑田 寿一
 西坂   久和
 冨川 ケイ子
 和田   昌美

開催状況

お問い合わせ

公益財団法人 大学セミナーハウス・セミナー事業部
 TEL:042-676-8512(直)FAX:042-676-1220(代)
 E-mail:seminar@seminarhouse.or.jp
 URL:https://iush.jp/
 〒192-0372 東京都八王子市下柚木1987-1