セミナー・イベント

第9回 EUセミナー
「EUの連帯とコロナ危機」

実施報告

昨年度のEUセミナーはコロナの影響により非開催で今年はオンラインで開催することになりました。EUセミナーは毎年2泊3日で開催してきたものですが、今年は2日間で開催しました。時間的に短縮しましたが、プログラムは例年とおりの内容でした。1日目は講師先生方のパネルディスカッション、EU各分野の研究を専門とする先生がそれぞれの視点で見解を述べられました。その後、駐日欧州代表部副代表・公使Mr.Haitze Siemers氏は「EUと日本・アジアの関係」をテーマに特別講演をいただきました。参加者は、講師先生のお話とEU公使ハイツエ氏の講演を聞いたうえ、分科会討論に入り、2日目の最終会においてセミナーの収穫をみんなの前で発表しました。EUセミナーは2日間で共同研究、知の共有のプロセスを経て欧州地域の全体像がみえるセミナーです。特に恒例の駐日欧州代表部からの特別講演は参加者にとって、最新のEU状況を知ることができると同時に、代表部の方に直接質問ができることも大変良い経験になります。
日 程 2021年9月25日(土)~26日(日)
開催形式 Zoomを用いたオンラインセミナー
会 場 Zoomミーティングルーム
主 催 公益財団法人大学セミナーハウス
後 援 駐日欧州連合代表部

開催趣旨

新型コロナウィルスの感染が世界を席巻しました。医学の発達した今世紀、これほどの広範な感染拡大は想像もできなかったことです。ウィルスの猛威を前にnew normalという新たな言葉まで生まれました。それは日常生活から国際秩序に至るまでの価値観や行動様式の変化をもたらすかもしれません。そうした中でのBREXITは予定通りに進むのか。欧州経済の立ち直りのカギはどこにあるのか。そして欧州統合はどこに向かうのか。EUの連帯が試されます。
(EUセミナー企画委員長 渡邊啓貴)

開会式  9/25

大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶

大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶

鈴木館長挨拶全文
ご参加の皆様、おはようございます。セミナーハウス館長の鈴木です。
現代世界政治の中枢をなしている三大政治圏、即ちアメリカ、中国、EUを当セミナーハウスでは数年前からグローバルアカデミーセミナーと名付けて取り上げてまいりました。残念ながら世界中を巻き込んだコロナ禍のために、対面によるセミナー開催が極めて困難となり、昨年はこのセミナーも中止のやむなきに至りましたが、今年は、実行委員長の渡辺啓貴(ひろたか)先生はじめ、委員、講師の先生方の熱心なご努力のおかげをもちまして、Zoomを用いたオンラインセミナーとして実現することができました。先生方に深く感謝いたします。
さて、過去数年にわたり、前アメリカ大統領トランプのアメリカ第一政策が原因で極めて悪くなったEUとアメリカの関係も、バイデン大統領の登場によりパリ協定復帰その他の措置で徐々に回復しつつあるように見えました、アメリカ対ヨーロッパの関係もコロナ危機がもたらす影響で問題が山積するとはいえ、EU参加国との間は改善されつつあるようにも見えましたが、まだまだ予期しない問題が生じるようです。
昨今ではフランスとオーストラリアの間に結ばれた原子力潜水艦建造契約に関するアメリカの割り込みにフランスがアメリカに猛反発し、大統領同士が会談をするという事態が生じております。これなどEUと直接関係はないかもしれませんが、今後のEU参加国対アメリカ、あるいはEU離脱国イギリスなどに微妙な影を落とすのではないかと私などは考えてしまいます。いずれにせよ現在世界が抱えている諸問題は地球温暖化にせよ、コロナ禍による経済対策にせよ、どれもEUだけでは解決不可能なものばかりです。
EU参加国の結束によりこれらの難問を解決してゆくにはどうすればよいか、先生方のご研究の成果はもとよりEU副代表のハイツェ・ジーメルス公使のお話も極めて興味深いものがあります。どうかご参加の皆さん、実り多い成果を得てくださいますようにお祈りしてご挨拶といたします。

渡邊企画委員長趣旨説明

講師提題講演 9/25

提題講演は講師先生全員がそれぞれ自己紹介、専門分野における最新の見解を述べてくださいました。

田中素香先生

小久保康之先生

福田耕治先生

武田健先生

渡邊啓貴先生

蓮見 雄先生

中西優美子先生

太田瑞希子先生

特別講演 9/25 「EUと日本・アジアの関係(EU-Japan/Asia Relations)」

駐日欧州連合代表部副代表・公使ハイツエ・ジーメルス氏

テーマ EUと日本・アジアの関係(EU-Japan/Asia Relations)
講演者 駐日欧州連合代表部副代表・公使 Mr. Haitze Siemers(ハイツエ・ジーメルス)氏
同時通訳 鬼頭真理様

分科会討論 9/25~9/26

分科会討論は、EUの経済政策、EU連帯と感染症政策とガバナンスの変容、EUと国際秩序、欧州グリーンディール、の四つのテーマをめぐり、四つの分科会に分けて議論しました。分科会討論において参加者は、先生の指導の下、問題意識・テーマを定め、資料を読み、議論し、理解した内容をまとめて全体会で発表します。分科会討論は2日間のEUセミナーの中で一番長い時間で行われるもので、短期間での共同研究を実現します。参加者同士は、議論のテーマを定め、資料を読み、結論をまとめ、共同で作業します。今年の分科会はオンラインですべて作業を行いますが、1日目は深夜まで行うグループがあり、2日目早朝視点を整理し始めたグループもありました。中間報告と最終報告の各自のプレゼン内容は素晴らしいものです。
 

<第1分科会>

 
テーマ
コロナ危機とEUの経済政策
指導講師
田中 素香(中央大学経済研究所客員研究員・東北大学名誉教授)
太田 瑞希子(日本大学経済学部准教授)

第1分科会中間報告

第1分科会最終報告

主旨:EU加盟国の新型コロナ危機のダメージは21年春時点でもなお厳しい。経済は大きく落ち込み、財政赤字も膨らんでいる。EUは昨年7500億ユーロ(約100兆円)の復興基金(RRF)の創設を決めた。欧州委員会が公債を発行して資金を調達して加盟国に配分しグリーン化・デジタル化で経済構造を変革し、併せて格差縮小などにも挑戦しながら経済復興をはかる計画である。第1分科会では、新型コロナ危機以降のEU経済と復興の経済政策を考察する。加盟国を個別に取り上げると共に、過去10年余りのEU統合の歩みに照らして現状の意味を認識するようにしたい。
発表内容ポイント:欧州復興基金のこれまでとこれから(①対コロナのEU財政支出計画、②MFFと欧州復興基金の違い、③欧州復興基金(次世代EU)について、④異なる加盟国が欧州復興基金に合意した歴史的意義、⑤復興基金で描くロードマップ、⑥共同債とタクソノミーについて)

<第2分科会>

テーマ
EUの連帯と感染症政策とガバナンスの変容
指導講師
福田 耕治(早稲田大学政治経済学術院教授)
武田 健(青山学院大学国際政治経済学部准教授)

第2分科会中間報告

第2分科会最終報告

主旨:本分科会は、EUの保健・医療・公衆衛生政策と越境感染症問題に焦点を当てる。新型コロナウィルスの感染の広がりを受け、EUは加盟各国のヘルスケアシステムへのサポート、域外からのEU市民の帰還支援、ワクチンの開発支援や輸出体制の整備、越境感染予防のための政策などに着手した。域外に向けても、途上国に対する医療上の人員、物資、資金の提供、ワクチンの広範な供給のための国際的な枠組みであるCOVAXへの協力も行っている。本分科会では、EUのそれらの対応策がこれまでにどれほどの効果を見せているのかを考察する。そしてEUはこの危機をどのように乗り越えていくことができるのかを考察したい。
発表内容ポイント:コロナウイルス感染症が拡大する中でEUの連帯、また世界の連帯のためのEUの存在意義とは①EUと加盟国の感染症症政策、②感染症制御の欧州ガバナンス、③EU連帯と世界

<第3分科会>

テーマ

コロナ危機後のEUと国際秩序

指導講師

小久保康之先生(東洋英和女学院大学国際社会学部教授)
渡邊 啓貴先生(帝京大学法学部教授、東京外国語大学名誉教授)

第3分科会中間報告

第3分科会最終報告

主旨:コロナ危機は国際秩序にどのような影響をもたらすのであろうか。各国が自国防衛に走り、国際協調の流れは押し留められるのか。いち早く感染終息を宣言している中国は新たな国際秩序の中でどう振る舞うのであろうか。経済活動への影響は、国際秩序にどのような力関係の変容をもたらすのであろうか。そのようなコロナ危機の中で、EUは内部の連帯を維持し、国際社会への影響力を保持していけるのか。皆さんと議論したいと思います。
発表内容ポイント:①EUと域外国の関係、②インド太平洋戦略、③難民・移民

<第4分科会>

テーマ 欧州グリーンディール
指導講師 蓮見 雄先生(立教大学経済学部教授)
中西優美子(一橋大学大学院法学研究科教授) 

第4分科会中間報告

第4分科会最終報告

主旨:欧州グリーンディールは、2050年までに温室効果ガス排出ゼロを目指す気候変動政策であると同時に、EUの産業構造を転換し、グリーン、デジタル、サーキュラー・エコノミーという新たな成長分野における発展を目指す成長戦略でもある。今や、欧州グリーンディールは、復興戦略の中核に位置づけられており、欧州グリーンディールに焦点を当てながら、EUの将来について考えてみたい。
発表内容ポイント:①欧州グリーディール概要、②再生可能エネルギー、③新産業戦略(サーキュラー・エコノミー、産学官連携にもとづく「意向経路」の共創、欧州グリーンディールの影響を受ける産業や労働者を支援する「公正な移行」)、④スマート・モビリティ戦略とEV、⑤移行のための資金調達復興基金、サステナブル・ファイナンス、⑥Open Strategic Autonomyによって、持続可能性のルールをグローバル・スタンダートにするための国際協力:その一例としての日EUグリーンアライアンス、⑦市民の参加、協力:欧州気候協約、グリーン消費誓約、リノベーション・ウェーブ

閉会式 9/26

大学セミナーハウス荻上紘一理事長閉会挨拶

参加してくださった学生の皆さん、ありがとうございました。企画立案から実施までずっとかかわって下さった先生方、今年もありがとうございました。
コロナということでなかなか通常のセミナーができない状況が続いておりますが、それでもなんとかこういう集まりを持ちたいということでオンラインで実施できるようなシステムを独自に開発をしておりますが、いろいろ不都合な点もあったかと思います。その点はお詫びしたいと思います。
私は毎年このセミナーを聞かせて頂いております。役目上ということではなく、個人的に毎年ここで議論される内容に関心がありますので今年も非常に興味をもって聞かせて頂きました。われわれ人間はいろいろな災難に直面しながら生きているわけですが、その多くは何等かの意味でローカルなものが多いと思います。しかしコロナは地球全体すべての人間にかかわるグローバルな災害でございまして、私どももその被害をいろいろな形で受けているわけですが、それに対してそれぞれの国でいろいろな形で対応していると思います。我が国の対応はうまくいっているのかうまくいっていないのか、いろいろご意見がわかれているのかもしれませんが、今回EUではどういう対応しているのかを中心に議論して頂いたわけで、ずいぶん我が国とは違う対応が行われていることを、改めて勉強することができました。コロナというものは病気ではありますが、単に医学の問題として片付くものではなく、あらゆることに関わりを持っているという意味では人間はたいへんな試練を受けているということを改めて今回も感じました。そういったことをテーマにして、議論し、それを整理して発表するということをやっていただいたわけですが、いま先生方や皆さんがおっしゃったように1泊2日ではなかなか無理だと思います。それからやはり対面して議論することと比べていろいろな意味での制約があろうかと思いますが、にもかかわらず、ずいぶんよくやって下さったと思います。議論してまとめてそれを発表するということは皆さんが社会に出てあらゆる場面で必要なことだと思います。ひょっとすれば、今回参加してくださった学生さんの中から将来我が国の総理大臣が出るかもしれない、総理大臣になれば特にプレゼンテーションというのは非常に重要だと思います。そういう意味でも短い時間ではありましたが、学生の皆さんにとって将来なんらかの形で生かされていくことを期待したいと思います。どうも今回もありがとうございました。



 

【参加状況】計56名

青山学院大学1名、白百合女子大学1名、都留文科大学1名、帝京大学11名、東洋英和女学院大学6名、日本大学14名、立教大学13名、早稲田大学9名

参加者アンケートについて

参加者の皆様から多くのメッセージを頂きました。心より御礼申し上げます。今後のセミナー運営に生かしていきたいと考えます。ありがとうございました。