セミナー・イベント

第40回大学職員セミナー
大学を牽引する職員を目指して--大学とスポーツを考えるⅡ--

 実施報告 

期間 2019年9月20日(金)~21日(土) 1泊2日
場所 大学セミナーハウス(東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
協賛 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩
後援 大学コンソーシアム八王子

■参加状況 :13名・9校

中央大学(5名)、亜細亜大学・青森大学・京都産業大学・甲南大学・法政大学・防衛大学校・名城大学・明治学院大学(各1名)
                                                  

■趣旨

 東京オリンピック2020を目前にして、「スポーツ」への注目度がより高まりをみせている中、自校のブランディング強化策として重点化を行う大学や、スポーツアドミニストレーション組織の整備に取り組む大学、「スポーツマネジメント」を教育プログラムに積極的に活用しようと考える大学等「スポーツ」と「大学」の関わりはより密接になっています。
 また、日本版NCAAと言われる「一般社団法人大学スポーツ協会」(“UNIVAS”)が設置され、大学スポーツを取り巻く環境が変わろうとしています。このタイミングに本セミナーでは、私たち大学で働く立場で立ち返って、大学スポーツの意味、意義を考えてみる機会を持ちたいと思います。大学におけるスポーツ競技団体(所謂"体育会")は課外活動団体として位置付けられ、その予算や安全管理、指導者養成は部に任されている大学が未だ多いと思います。大学におけるスポーツの意義や、大学と部の関係を明示している大学は少ないのが実情でしょう。あらためて「大学」と「スポーツ」のありかたを見つめ直し、大学職員としてどのように関わっていくべきか、スポーツの持つ「健全性」や「素晴らしさ」をどのように大学の活動に結びつけていくかを考えたいと思います。
 第39回セミナー(7月5日開催 於 法政大学)を「大学とスポーツ」の関係性について見直す契機と位置づけ、第40回の当セミナーはこのテーマをより掘り下げ、「スポーツ振興の社会的意義」を大学スポーツの現場で起きている課題を踏まえ、考えていきたいと思います。
 

■開会式

 まだまだ暑さが残る中、第40回大学職員セミナーは今年も開催されました。
開催に当たりましては公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩の協賛と大学コンソーシアム八王子の後援をいただいております。
 開会初めに、大学セミナーハウスの鈴木康司館長から次の挨拶がありました。

■大学セミナーハウス 鈴木康司館長挨拶

開会の挨拶をする鈴木康司館長

【鈴木館長挨拶全文】
今年度2回目になる当セミナーハウス主催の大学職員セミナー開会のご挨拶をさせて頂きます。毎年、7月に法政大学常務理事近藤清之様のご厚意により法政大学のボワッソナードタワーを利用させて頂いておりますが2回目はいつも前回のテーマを深化させてより一層進んだ議論を交わしていただくために、講師やパネラーもまた優秀な方々をお招きしております。
いつもながら公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩の協賛、大学コンソーシアム八王子の後援をいただき感謝申し上げます。今年は「大学を牽引する職員を目指して」と題し、サブタイトルに「大学とスポーツを考える」と掲げました。このサブタイトルはなにも2020年にオリンピックが東京で開かれるからことさらにつけたわけではございません。文科省の傘下にあるスポーツ庁の長官鈴木大地氏が昨年暮れから今年にかけて華々しく打ち上げた日本版NCAAと呼ばれる「一般社団法人大学スポーツ協会」UNIVASの構想と設置が日本の大学全体に及ぼした影響と見通しについて私なりに考えますと、果たして長官はこれまで日本の大学スポーツを支え、発展させてきたのは誰か、またどんな大きな問題を大学スポーツは抱えているか、よく理解しないまま設置したのではないかという懸念を禁じ得ないからであります。本日の基調講演をしてくださいます筑波大学の山田晋三先生のお話で分かるようにNCAAはアメリカ全大学の半分以上が参加している大組織で、その中に人気スポーツをほとんど取り込んだものです。重要なのはスポーツと学業を両立させるために厳密なルール作りを行い、優秀な選手には奨学金や授業料援助を行いますが、その反面学期ごとに成績が基準に達しない学生には出場停止、奨学金はく奪などの厳しい措置が取られます。これは学生スポーツをあくまでも教育の一環ととらえているからにほかなりません。
翻って日本ではどうでしょうか、私は国公立大学での実情は知りませんが、日本の大学スポーツは、これまで、旧東京教育大学現在の筑波大学を除き、有力私立大学がほとんど支え、学生の自治活動として発展してきたといっても過言ではないと思います。
私立大学それぞれ独自に伝統的なやり方があるにせよ、あくまでも学生の自治活動ですからそれは個々の学生の自己責任とみなされ、たとえ成績が振るわなくても4年間は活動が可能で、その後、卒業ができないまま大学を離れるケースが間々あります。さらに自治活動ですから運動部OBによる援助活動や指導も大きな要素をしめます。もし仮にこれらの学生スポーツが教育の一環であるというなら、教職員さらに理事会などが全責任を持ってこれに携わるべきでありましょう。しかし、実情はかけ離れております。私自身の経験をお話すれば、かつて現役時代、中央大学の学長として学内規則により、学生のスポーツ・文化両面にわたる活動を保証するという形で学友会の会長を務めました。これはあくまでも側面から学生を援助するという形で学生やOBの自治活動を規制するものではありません。
しかしながら、大学での学生スポーツは自治活動かそれとも教育の問題か、突き詰めて考えると非常に大きな問題です。最近スポーツ庁があまり大きな声を出さなくなったのはこの問題が一筋縄ではいかないことに気づいたからではないかとさえ思うほどです。
多くの私立大学で現在行われているスポーツ推薦入学一つを取り上げてみてもそうです。本来、自治活動であれば入学した学生が自己責任でスポーツに打ち込むものであり、教育機関である大学がスポーツで個人を取るのは筋が通らないといわれても仕方ありません。それでも、私立大学の誰もが当たり前のように受け入れております。また伝統のある運動部ほどOB会の力が強く、部の運営や財政に関与しており、貧乏な部のOBには財政的に支えてくださる方々もおられますが、人気スポーツに関してはとかく噂のたつ場合もなきにしもありません。
さらに職員の中にはかつての名選手が母校に残り、学生指導にいそしんでくれるにもかかわらず、体育の教員が部の指導にあたることがあまりないのは、学生スポーツが教育問題ではないからでしょうか。この問題はおそらく日本中の大学の有識者が集まって、議論を重ね、当事者である教員、職員、法人理事会などが一致して新しい組織を考えない限り、文科省の一声ぐらいで解決することではないと私は考えます。しかし、誰かが声を上げなければならないとすれば、少しでもこういう機会を作って問題提起するのは決して無駄ではないはずです。参加してくださった皆さんの数は多くなくても、大いに意義のあるセミナーとしたい、それがわたしどもの願いです。講師、パネラーの先生方どうかよろしくお願いいたします。
 

■セミナーの目的と進行

近藤清之企画委員長

 このセミナーの企画委員の紹介後、企画委員長の法政大学常務理事 近藤清之氏より、グループディスカッションでの議論・発表を中心に、事例報告・ 講演や情報交換会を通して、以下を実現することを目的とするとの説明がありました。
●大学の抱えている課題の検討を通して職員の役割を考える。
●課題解決能力とプレゼンテーション力を涵養する。
●ヒューマンネットワークを構築する。
● 他大学の取り組みや大学を取り巻く環境の最新情報を得る。

大久保陽造企画委員

青木加奈子企画委員

加藤毅企画委員

黒田絵里香企画委員

■事前レポート発表・意見交換                    

  下記の3つの課題について、参加者の方に事前レポート(A4・1枚程度)を提出していただいておりました。これを『第40回大学職員事前レポート集』として、参加者の方にお配りしました。
【課題1】あなたが考える「大学職員が果たすべき役割」とはどういうものかご説明ください。
昨今、様々な報告、答申等で大学職員に求める能力が謳われています。一方、皆さんが所属する部署は様々で、それぞれのステークホルダーが存在します。そして人事異動もあり、数年で仕事も変わっていきます。そうした状況で、大学の中で大学職員が果たすべき役割について考えてみたいと思います。ここでは、皆さんの経緯から、あるいは皆さんが考える「大学職員が果たすべき役割」について率直なご意見を記載してください。(メインレポート1)
【課題2】大学におけるスポーツはスポーツ競技団体(所謂「体育会」)だけでなく、様々な場面で展開をしています。授業科目としての体育、学生の健康指導、サークル等の正課外活動 等々が代表的な事例でしょう。こうした様々な形態で展開するスポーツは、それぞれが微妙にあるいは強く競技スポーツとも関連づいているのではないでしょうか。
メインレポート2では、競技スポーツに限らず、皆さんの大学おけるスポーツ活動事例、スポーツをとりまく環境についてご報告ください(メインレポート2)
【課題3】あなたの大学の誇れる点を3項目ご紹介ください(あなたの大学自慢ベスト3)。教員の活躍、職員の活躍、学生の活躍等々内容は問いません。(自己紹介用)

■基調講演 米国NCAAの仕組みと課題に学ぶ

    筑波大学アスレチックデパートメン副アスレチックディレクター
                           山田晋三

ご講演中の山田晋三先生

 事前レポートの発表の中で、このセミナーの目的を意識し意見交換をしていただいた後に、山田晋三先生の基調講演へと続きます。
講演では、米国NCAAの仕組みと課題の事例を紹介し、筑波大学におけるスポーツ改革の取り組みなども織り交ぜながら、大学スポーツマネジメントのあるべき姿について述べていただきました。
 参加者からは、「NCAAについて、深く理解することができました。お話も楽しく時間を忘れて楽しませていただきました。」、「具体的な課題と今後の方針を聞くことが出来た。」、「米国及び筑波大学の先進事例について、前提となる考え方も含めて知ることができ、とても良い機会となりました。」など、新しい発見があり大変参考のなったという感想が多く届きました。
 

■グループディスカッション1

 ここでは、各参加者の事前レポートの発表の後、同一課題の下にディスカッションをしていただきました。
課題の内容は以下の通りです。
【課題】
「グループ構成員の各大学におけるスポーツ振興上の問題点・課題を抽出し、その打開策を検討しなさい。また、その中で職員の果たすべき役割について併せて纏めること。」
①グループ構成員の各大学の事例を共有すること。
②発表については、検討した全大学の事例についてでも、任意の大学の事例を選択してもいずれでも差し支えない。
③発表については、全員で分担して行うこと。
④職員の果たすべき役割について明確なものにすること
 

山田先生もディスカッションの輪の中へ

山田晋三先生を囲んで記念撮影

■<特別企画>パネル・ディスカッション
  大学スポーツ指導者として、大学職員として

中央大学募金推進事務局部長:陸上競技部前総監督 木下澄雄
法政大学保健体育市谷保健体育センター次長:フェンシング部コーチ 増田昌幸
東海大学スポーツ教育センター学園スポーツ振興課長:バスケットボール部統括コーチ 木村真人

 各大学において職員を牽引するリーダーポジションで活躍する各氏を招き、それぞれの経験や現状を踏まえ、大きな転換期を迎えている大学とスポーツの関わりを議論し、参加者の皆さんと一緒に考えていただきました。
参加者からは,「他大学の事例は興味深かった。」、「支援金額など知ることができて有難かった。」、「各大学での事例について、本音を交えた率直な意見を聞くことができ、今後の業務の糧となるものだと思います。」との感想が寄せられました。

法政大学増田昌幸氏:東海大学木村真人氏

中央大学木下澄雄氏(左)

■情報交換会

 夕食後に会場を移し、20時より『情報交換会』が始まりました。パネリストの方々ももお忙しい中ご出席くださり、参加者の皆様に囲まれ歓談されていらっしゃいました。
 

■中間報告

 第2日目、前日の基調講演・グループディスカッションを踏まえたうえで、次のグループディスカッション2をどのように進めていくかをまとめて、方針を報告していただきました。

 

■グループディスカッション2

 3グループに分かれた参加者が、前日のグループディスカッションに続き課題を踏まえて議論しました。
その結果、参加者からは「他大学の状況、事情等聞くことができ良かった。」、「そもそもなぜ大学でスポーツを行うべきか、という根本的な課題について向き合う機会になりました。」、「ディスカッション中の委員の方々からのサポートをいただけると、もっと議論が深まる気がする。」、「スポーツというテーマに関わるステークホルダーが多いことなど、とても難しいテーマでしたが、それだけに深く考えることのできる良い機会だったと思います。」との感想が寄せられました。

■総括討論

 「総括討論・発表」は、グループディスカッションの報告を踏まえた討論・発表を行いました。
 参加者からは「具体的な話もあり、大変参考になりました。本当にありがとうございました。」、「全体で議論する時間が欲しかった。質問だけでなく。」、「考えの足りなかった点についてコメントがいただけて参考になりました。」との感想が寄せられました。
 

発表中のAグループ

発表中のBグループ

発表中のCグループ

■講評

講評中の加藤毅企画委員

 各グループからの発表後、筑波大学大学研究センター准教授加藤氏より講評がありました。山田先生のご講演・パネルディスカッションと対比しながら、まとめていただきました。
<大学を牽引する職員を目指して>
 二日間にわたり、お疲れ様でした。今回の大学職員セミナーでは、「大学とスポーツ」といういま旬の、そして大変難しいテーマを取り上げました。基調講演では、ガバナンス主体としての大学あるいは大学団体が、Academics、Well-Being、そしてFairnessという3大原則に基づき、正課外で行われる競技スポーツのマネジメントに全責任を負って取り組むことの必要性。そしてそこで直面することになる本質的な難しさについて、豊富な事例を織り交ぜながらご講演をいただきました。続くシンポジウムでは、強豪大学におけるスポーツ振興の責任者にご登壇いただき、スポーツマネジメントの現場が置かれている大変な環境とそこでのタフな業務について、詳細なお話をお聞きすることができました。
 グループディスカッションに取り組んでくれた受講者の皆さんはおそらく、大学スポーツのマネジメントを取り巻く混乱した状況に、大いに頭を悩ませたはずです。マネジメント現場は、厳しい予算制約や山積する問題群、そして肥大化する周囲からの期待に晒され疲弊しています。先例から大きく逸脱することなく、多岐に渡って炎上している難題群を次々と解決する、いわゆる「火消し」で手一杯という厳しい状況にあります。その一方で、大学スポーツマネジメントのあり方について、抜本的な改革を行うことが必要な時期に来ていることもよくわかります。しかしながら、困難に屈することなくいまも続けられている現場での努力だけでは、あまりに高度な改革要求に対して応えきれるはずがないではないか。
 それにもかかわらずグループディスカッションでは、問題意識が絞り込まれ、建設的な打開策を求めて果敢な議論が展開されました。およそ解くことができないと思われる難しい問題状況から目を逸らさず、矛盾を乗り越えていく牽引力となること。 これこそ、経営環境がますます厳しくなるこれからの大学を牽引する職員に対して、最も強く求められている役割に他なりません。その予行演習の機会という視点からぜひ、今回のセミナーで学んだことを振り返ってみてください。担当業務が直面している難しい状況に正面から向き合い、地道な改善努力と問題理解の深化を継続することが、成長に向けた両輪となるはずです。

■閉会式

閉会の挨拶をする外村専務理事

  最後に大学セミナーハウスの外村幸雄専務理事より挨拶があり第40回大学職員セミナーは閉会いたしました。
参加者からは、「充実した濃い時間でした。」「平日開催にしてもらえると、一般職も出席しやすい。」「日帰りでもいいかも・・・・と思いました。」などの感想をいただきました。今後の開催の参考にさせていただきます。このセミナーが国公私立大学の壁を越えて、部署・年齢・立場など多様な参加者が意見交換する機会となりましたら幸いです。ご参加の皆様、ありがとうございした。

大学職員セミナー企画委員会

<委員長>法政大学常務理事 近藤 清之 
<委 員>高崎経済大学教育グループキャリア支援チーム 青木加奈子
       中央大学入学センター入学企画課課長 大久保陽造
     筑波大学大学研究センター准教授 加藤毅
     慶應義塾塾監局総務部課長・協生環境推進室事務長 黒田絵里香

開催状況

お問い合わせ

公益財団法人 大学セミナーハウス・セミナー事業部
 TEL:042-677-0141(直)FAX:042-676-1220(代)
 E-mail:seminar@seminarhouse.or.jp
 URL:https://iush.jp/
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