セミナー・イベント

第10回新任教員研修セミナー
アクティブ・ラーニング、その導入から深化へ― オンラインでも学び続けるチャレンジ

実施報告

 コロナ感染が広がるなかでの苦渋の決断ですが、第10回新任教員研修セミナーはWeb会議システムZoomを用いたオンラインセミナーに変更し、2泊3日の日程を2日(8月31日~9月1日)に短縮して開催いたしました。全国15大学から36名の先生が参加されました。オンラインでも対面セミナーと同効果を獲得したく、参加者に十分満足していただけるような内容にしたい、という気持ちで7セッションご担当の講師先生方が様々な工夫をしていただきました。その結果、セミナー終了後に参加者からは「アクティブ・ラーニングについて広く学べた。初日はアクティブ・ラーニングそのものや背後の要因について学べ、2日目ではいかに実践していくかが学べたので、頭にも入りやすい流れだった。また、参加者の先生方からも様々なアドバイスを頂けたので、新米教員である私には大変有意義であった。おそらく授業のやり方に関してbestな方法は無いと考えられるが、アクティブ・ラーニングを取り入れることでbetterな方法に磨き上げていくことができるだろうと感じたので、今後の授業にはアクティブ・ラーニングの手法を積極的に取り入れていきたい」などのメッセージをいただきました。
 ここにおいて、当セミナープログラムの順で次の通り報告いたします。
 

期間 2020年8月31日(月)~9月1日(火)
場所 ZOOMミーティングルーム
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
共催 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩

参加状況 : 36名(15校)

愛知東邦大学1名、 沖縄県立看護大学5名、沖縄国際大学2名、駒澤大学1名、弘前医療福祉大学1名、国士館大学3名、駿河台大学5名、前橋工科大学1名、創価大学7名、大阪物療大学2名、中央大学1名、東洋大学1名、日本薬科大学1名、防衛大学校2名、明星大学2名、ものつくり大学1名

【開催趣旨】

 近年の日本の大学教育では、たしかな知識や技能を身につけるとともに、分野や立場の違いを超えて協働することのできる知性を育むことが求められています。また、激しい変化の時代を豊かに生き、社会に貢献していく能力の基盤となるような、学び続ける姿勢や力を培う教育も切実に希求されています。こうしたかつてないほどの期待と要求に応えるべく、多くの大学に導入されたのがアクティブ・ラーニングであることは言うまでもありません。しかし、そうした学びを引き出していくべきわたしたち大学教員の理解やスキルは必ずしも十分ではない、というのが実感ではないでしょうか。
 アクティブ・ラーニングは、導入から量的な拡大という段階を経て、今まさに質的深化が問われる時代へと突入しています。そうした深化に資するために、本セミナーでは、アクティブ・ラーニングを円滑かつ効果的に実施する上で不可欠な相互理解や人間関係の構築に始まり、発達障害などの困難を抱えた学生への対応に至るまで、アクティブ・ラーニングの基礎、理論、様々な実例などを体験的に学び、参加者がそれぞれ担当している授業を質的に深化させる機会を提供します。
 そして、言うまでもなく、今回のコロナ禍により、高等教育は多くの困難に直面しています。その中で、学生たちの学びを止めないように、大学教員は様々な工夫をして授業を行なっています。しかしながら、「オンラインでのアクティブ・ラーニングは難しい」「資料の準備や課題の添削に追われて倒れそう」「学生の反応が見えない」「成績評価をどうしたら良いのか」「ICT環境が十分でない学生への対応はどうするべきか」「オンライン授業に関する支援部署がない」など、教員の悩みは尽きません。そこで、今回で第10回目となる本セミナーでは、「アクティブ・ラーニング、その導入から深化へ ― オンラインでも学び続けるチャレンジ ー」をテーマに焦点を合わせていきます。
 大学セミナーハウスは、大学教員相互の交流を図ることによってわが国の大学教育の向上・発展に寄与することを目的としており、今年度も学術・文化・産業ネットワーク多摩との共催で国公私立大学の枠を越えたオンラインセミナー形式の新任教員研修セミナーを企画しました。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。(新任教員研修セミナー企画委員長 菊地滋夫)
 

【開会・趣旨説明】8月31日

運営委員長菊地滋夫先生から開催の趣旨を説明して頂ききました。

【セッション1】8月31日
オンラインで相互理解を深め、人間関係を築くコミュニケーション・ワーク
諏訪茂樹(東京女子医科大学看護学部准教授)

要旨:大学での新しい仲間との出会いは、生涯の友を得る貴重な機会となる。しかし、社会経験の乏しさから人間関係を上手く築けず、深入りし過ぎてトラブルになったり、孤立してしまったりする学生もいる。キャンパスでの交流が難しい場合でも、学生の仲間づくりをサポートし、新しい環境への適応を促すコミュニケーション・ワークを紹介する。

【セッション2】8月31日
大学生の育った環境、受けてきた教育―「高大接続」の視点から―
藤井恒人(東京農工大学グローバル教育院教授)

要旨:今年の大学1〜4年生の多くは1998年〜2002年生まれである。いわゆる“脱ゆとり世代”の彼らが育った環境、受けてきた教育をまず概観する。次に学習指導要領の変遷、入試制度の多様化などを踏まえながら、大学教員が接する学生、保護者の特徴を共有し、留意すべき事を参加者のみなさんといっしょに考えたい。

【セッション3】8月31日
アクティブ・ラーニングの理論と実際
福山佑樹(関西学院大学ライティングセンター准教授)

要旨:アクティブラーニング(AL)は高等教育において定着してきているが、効果的に実施するためにはALが求められるようになった背景など、その基本的な考え方を理解することが大切になる。本セッションでは、理論に加えて、実践例を紹介し、対面授業・オンライン授業でALを効果的に取り入れるためのヒントを提供する。

【セッション4】9月1日
アクティブ・ラーニングを機能させるための半期の授業設計・1コマの授業計画
榊原暢久(芝浦工業大学教育イノベーション推進センター教授)

要旨:オンラインで学生が授業の到達目標に達するようにアクティブ・ラーニングを機能させるには、事前の授業設計が必要である。半期の授業設計部分では、授業の到達目標を確認し、その評価方法、授業方法、授業外学修課題について考える。

【セッション5】9月1日
多様性が活きる学びを目指して
菊地滋夫(明星大学学長補佐・人文学部教授)

要旨:発表者が経験した授業における失敗の歴史を振り返り、試行錯誤しながら取り組んできたアクティブ・ラーニング型授業を紹介する。そして、その過程で気づかされた「多様な学生が助け合い、支え合いながら、能動的に授業に参加すること」の意義について、今日の高等教育の課題を踏まえて論じる。今年度前期の実践例も合わせて紹介する。

【セッション6】9月1日
今日からはじめるアクティブ・ラーニングの実践準備
伏木田稚子(東京都立大学 大学教育センター准教授)

要旨:学生がオンラインでよりよく学べる環境を整えるために、どのようなアクティブ・ラーニング (AL) を実践すればよいのか。ここでは、これまでのセッションの内容を振り返りながら、自身の授業にALを取り入れるとしたら、a) 何の学習テーマに関して、b) どのタイミングで、c) どのような活動を設定できそうかについて具体的に考えてみたい。

【セッション7】9月1日
困難を抱える学生の理解のために―合理的配慮を踏まえて―
村山光子(明星学苑府中校事務長)

要旨:2019年度の高等教育機関進学率は82.6%と過去最高となっている。進学率の高まりとともに多様な学生が大学等へ入学する中、特に発達障害を中心とする困難を抱えた学生への対応について、オンライン授業で留意すべき点にも触れながら、2016年4月に施行された障害者差別解消法および合理的配慮の視点から参加者の皆さまとともに検討・共有したい。

【閉会・館長閉会の挨拶】9月1日

 参加者の皆さま、世界全体がコロナウィルスによる前代未聞の災害に見舞われているさなか、異例な形のオンラインセミナーではありましたが、委員長の菊池先生をはじめ、運営委員の先生方の並々ならぬご努力のおかげで、無事に開かれましたことを、主催者のひとりとして心から御礼申し上げます。
本来ならば大学セミナーハウスが開催するセミナーは、大学の壁を取り払い、講師の先生方と参加者が一堂に会し、寝食を共にして語り合い、学ぶことを目的としていますが、コロナという災いはそのようなセミナーを開けない打撃を我々に与えました。
 この災いはまた、各大学についても同様の事態を引き起こしました。しかし、ワクチンが開発されるのを徒に待つことができないのは言うまでもありません。各大学において様々な工夫がなされ、学生諸君の勉学意欲をそぐことなく、かつ、健康を損なうことなく過ごすための措置が取られました。このオンラインによるアクティヴラーニングの可能性を探るセミナーもまたそのような試みでありました。
 幸い、講師の先生方の熱意溢れるセッションや情報交換などが果実となって、参加者の方々の今後の学生指導に生かされれば、まことにうれしい限りです。来年に向けてコロナウィルスが克服され、安心して新任教員の方々に参加していただけるよう祈りつつ、閉会のご挨拶に代えさせていただきます。ありがとうございました。

【参加者からのメッセージ】

❖今後、教授法を学べる多くの示唆に富んだ技法や思想を学べました。知識の教授より能動的な主体的学習者を育てることが、より明確になりました。教育はサービス業だというのが経営学部教員の思想にありますが、顧客満足のためにさらに多くの先生たちからの学びを今後とも生かしていきたいと思います。全体としての設計に何の疑問もありません。オンライン開催していただき、ありがとうございました。
 
❖全体を通して、ブレイクアウトセッションでの、他の先生方との意見交換が大変有意義でした。 コロナ禍で主催者の皆様もプログラムの変更、対応が大変であったことと思います。有難うございました。
 
❖アクティブ・ラーニングについて広く学べた。初日はアクティブ・ラーニングそのものや背後の要因について学べ、2日目ではいかに実践していくかが学べたので、頭にも入りやすい流れだった。また、参加者の先生方からも様々なアドバイスを頂けたので、新米教員である私には大変有意義であった。おそらく授業のやり方に関してbestな方法は無いと考えられるが、アクティブ・ラーニングを取り入れることでbetterな方法に磨き上げていくことができるだろうと感じたので、今後の授業にはアクティブ・ラーニングの手法を積極的に取り入れていきたい。
 
❖大変勉強になり、企画の皆さまや参加の皆さまに感謝しており、満足しているのですが、やはりオンラインですと、長い時間は疲れるものだなとも感じました。対面だと全然違うのだと思いますが。
❖2日間にわたって、多様な切り口からアクティブ・ラーニングに関して学ぶことができまして、とても有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
 
❖理系ではアクティブ・ラーニングの取入れは難しいと思っていたが、たくさん取り入れようとするのではなく、ごく一部分でもよいので、出来る範囲で取り入れようという気持ちになった。講師の先生から参考書や公開ページをご提供いただけたので、このセミナー期間だけでなく、今後実際にアクティブ・ラーニングを計画する際に参照ができそうで、実践につながるため非常にありがたい。グループワークはランダムに構成されることが多かったが、例えば、歴や専門などで分類してワークすることで、同じような背景から生じている問題を共有して、話し合いができる場がもう少しあれば良かったと思った。
 
❖講義のセッションはどれも興味深いものであった。反面,一番不満であったのは受講者同士の時間が3~10分がほとんどで,消化不良な感じであった。オンライン下で致し方ないとは思うが,しゃべりだすと止まらない教員の特性を考え今後の時間調整を願いたい。
 
❖他大学の先生方との意見交換はめったにない機会であり、有意義かつ貴重な時間となりました。多少のトラブルはありましたが、講師の先生方及び事務局の皆さんのご尽力でとても充実した研修でした。ありがとうございました。
 
❖アクティブラーニングについて、その必要性から様々な具体的手法まで紹介があり学びが大きかった。学生の学習力向上へむけた今後の自分の授業法への展望が開けた。
 
❖オンラインセミナーとすることで、オンライン講義における学生の立場が体験できたことが非常に有意義だったと考えます。その一方でオンラインでは時間とコミュニケーション手段に制限があり、もっと議論を深めたかったと思う場面もありました。 今後対面のセミナーが再開された場合においても、講師と受講生がオンラインでやり取りするなど、オンライン講義の特性を学生の立場で体験できるセッションを残していただくとよいのではないかと思いました。
 
❖アクティブラーニングを出来ていなかったと思っていた自分が、実は、ある場面では実施できていたことを確認できてよかった。
 

新任教員研修セミナー運営委員

(委員長) 明星大学学長補佐・人文学部教授 菊地滋夫氏
      東京女子医科大学看護学部准教授 諏訪茂樹氏
      関西学院大学ライティングセンター准教授 福山佑樹氏
      東京農工大学グローバル教育院教授 藤井恒人氏
                東京都立大学大学教育センター准教授 伏木田稚子氏

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