セミナー・イベント

第3回国際教養セミナー
曲がり角のアメリカ

実施報告

期間 2009年11月14日(土)~15日(日)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 財団法人大学セミナーハウス
参加状況 33名(20校) 青山学院・中央(各3)、筑波・一橋(各2)、愛媛・茨城・玉川・慶応義塾・国際基督教・首都大学東京・神戸・聖心女子・大妻女子・東京女子・京都・千葉商科・早稲田・名古屋市立・明治(各1)、社会人(6)、聴講(3)

企画委員

<委員長>東京大学大学院総合文化研究科附属アメリカ太平洋地域研究センター長/教授古矢 旬氏
神田外語大学外国語学部准教授 花澤 聖子氏
日仏会館副理事長・元中央大学学長 鈴木 康司氏

趣旨

 第二次世界大戦終結後、長く世界政治・経済に君臨してきた覇権国家アメリカは、「9.11事件」を境として内外で大きな困難に直面しつつある。事件をきっかけとするアフガニスタンとイラクへの軍事介入は、当初のもくろみと異なり長期化している。この二つの戦争は、21世紀アメリカ外交にとって大きな足かせとなってきたばかりか、合衆国財政にも過大な負担を強いてきた。国内では、1990年代の「ニュー・エコノミー」によってもたらされた繁栄を謳歌していたはずのアメリカ経済は、ITバブルと住宅バブルのあいつぐ破綻により、現在は一転して深刻な金融危機と不況のさなかにある。
本講座は、アメリカが当面するこれら内外の危機がどこに源を発するのかを問うと共に、2008年大統領選挙によって登場したオバマ民主党政権による最初の10ヶ月間の危機対処策の成否を検討することを目的とする。それによって現下の危機を、単にブッシュ政権の失政に収斂させてすます短期的な見方を超え、むしろそれらがアメリカおよび世界の政治経済の長く深い文脈に由来することが明らかにされるであろう。(企画委員長・古矢 旬氏)

基調講演

オバマ政権の成果と課題
東京大学教授 久保文明 氏
 オバマ政権成立の意味とともに、政権の基本的に性格について考察したうえで、その成果と課題について分析する。内政・外交双方において、オバマ大統領はきわめて野心的な変革を多数目指している。これはアメリカ政界の常識に反する政権運営である。はたしてそれは成功するのであろうか。危機の時代の政治の論理は、平常時とどのように違うのであろうか。人種問題に対する影響などについても触れてみたい。

内政・外交双方において、オバマ大統領はきわめて野心的な変革を多数目指している。これはアメリカ政界の常識に反する政権運営であるが、その成果と課題について講演する久保文明氏。

セクション演習

A.ファンダメンタリストはどこから来て、どこへ行くのか
東京女子大学教授 小檜山ルイ氏
ブッシュ政権の強力な支持基盤の一つがファンダメンタリストであったことはよく知られている。ファンダメンタリストは特殊な信仰を持つ変わり者だという印象が一般的に強いが、もし、本当に彼らがごく特殊であるなら、政権基盤を支えるほどの政治力を持つはずがない。本セクションでは、ファンダメンタリストの来歴を学ぶことで、その主張がアメリカ社会の伝統にどのように結びついているかを考察するとともに、多様な集団の団結と協力を説くオバマ政権下でのファンダメンタリストの位置について検討してみる。
B.イデオロギー対立の構造と行方
慶応義塾大学准教授 岡山 裕氏
1980年代から、アメリカでは共和党が保守、民主党がリベラルという形のイデオロギー対立が顕著になっており、現在の経済危機への対策をめぐってもそれが影を落としています。では、そもそもアメリカにおける「保守」や「リベラル」とはどういう考え方なのでしょうか。また、オバマ政権でもこの対立は続くのでしょうか?アメリカの政党政治の特徴にも触れながら、考えてみたいと思います。
C.オバマ外交の十ヶ月
立教大学教授 佐々木卓也氏
前政権の大いなる負の遺産を引き継いで船出したオバマ政権。ここでは外交に焦点をあて、G・W・ブッシュ外交と比較しながら、ちょうど発足以来十ヶ月たったオバマ政権の外交を議論しましょう。まず外交の基調について説明し、次いで具体的な案件であるイラク・アフガニスタン、国際テロ、核軍縮・拡散、さらには同盟国、中ロ、そして敵対関係にある国々に対する政策を考察します。
D.アメリカ・ナショナリズムの行方
東京大学教授 古矢 旬氏
21世紀に入ってから、アメリカ合衆国の国民社会は二度大きく方向転換を遂げたようにみえる。一度目は、ジョージ・W・ブッシュ政権の登場後、とりわけ同時多発テロ「9・11事件」以後、国家安全保障上の危機とアフガン・イラク戦争を梃子として、世論の求心化がはかられた時である。90年代の多文化主義的なアメリカ理解は影を潜め、対外的にも覇権主義的な強権的外交が目立った時期でもあった。二度目は、いうまでもなく昨年の大統領選挙をきっかけとする変化である。このセミナーが明らかにしてゆくように、オバマ大統領の登場は、政治経済、対外関係、イデオロギー、文化など多くの分野における革新に弾みをつけたといってよい。本セクションでは、変転する21世紀のアメリカ・ナショナリズム像をアメリカ史の長い伝統に照らして理解することを目指したい。

多様な集団の団結と協力を説くオバマ政権下でのファンダメンタリストの位置について、映像を交えながら解明する小檜山ルイ氏

そもそもアメリカにおける「保守」や「リベラル」とはどういう考え方なのか、オバマ政権でもこの対立は続くのか・・・イデオロギー対立の構造と行方をデーターを駆使して分析する岡山裕氏。

G・W・ブッシュ外交と比較しながら、十ヶ月たったオバマ政権の外交をめぐって講義する佐々木卓也氏

変転する21世紀のアメリカ・ナショナリズム像をアメリカ史の長い伝統に照らして鋭く分析する古矢旬氏

セミナーに参加して

様々な角度から地域研究をすることで、やっと理解の第一歩を踏み出せる
玉川大学文学部2年 今田桃子
私は玉川大学の文学部で、人間学に関することがらを学んでいます。人間学は、anthropology=人類学とも訳されますが、私が普段勉強している人間学は、もっと概念的な『人間』をテーマにしているので、哲学の要素も含むことがあります。私が今回このセミナーに参加したのは、自分自身の内側に内側に入り込む大学の講義の過程で、もっと外側のこと(例えばアメリカ経済)についても学んでみたいという思いが出てきたからです。
 私達のセクションで議論に上がったことは、次の通りです。
 一日目はDセクションとの共同セッションだったので、『ファンダメンタリズム』や『政教分離』について復習、整理をした後に、『ネオコンサーバティブ(新保守主義)』と『ロックの社会契約説』について、古矢先生から補足説明を伺いました。また、オバマ大統領と宗教についてのお話がありました。内面の自由とは、社会的なリベラリズムとは何なのかに詳しく触れることができたと思います。
 二日目は、Aセクションの四名と小檜山先生とで、『コミュニタリアン』の整理を行った後、独立革命以後の『古典的リベラリズム(リバタリアニズム)』と『女の理論(宗教・道徳・相互依存)』についての概要を話し合いました。女性とアメリカ社会の関わりについて、とても興味深い意見を聞くことができたと感じています。
 
例えば、アメリカにおいてキリスト教会と女性とは、深い関係性があります。家庭という有機体を考えるとき、男性と女性の関係が、宗教上の思想と結びついて処理されることが多くある(あった)ようです。その例が、人工妊娠中絶の問題でしょう。かつてキリスト者は、『女の身体は誰の物なのか』に論点を置くことが主流でした。このことは1920年、女性の選挙権獲得によって、いわゆるリベラリズムな運動と関連し始めます。1960年のフェミニズム運動以降は、リベラルと保守といった風に二分化、反発にも発展したようです。
このことから次にテーマに上がったのが、『女が財布を握り始めたのはいつからか?』について。これは、特に日本とアメリカの女性観の違いが論点に上がりました。
これが発展して、聖書にある『創世記』についても話し合うことになります。一夫一婦制と民主主義の結びつきについて、『神(聖なるもの)』についてのテーマにも飛躍しました。
これらを受けて私が感じたことは、ある地域・国家を理解しようとするとき、たった一つの視点からでは、それら全てを理解することは到底不可能だということです。社会や経済からだけでなく、歴史、宗教、文化、またジェンダーといった様々な角度から地域研究をすることで、やっと理解の第一歩を踏み出せる、その程度なのだと感じました。私自身、もっと勉強しなければ、という意欲を生み出せたこと、そして様々な年代・環境で学ばれてきた方とセクションを共有できたことは、貴重な体験であるとともに、とても有意義なものであったと思っています。
岡山准教授「イデオロギー対立の構造と行方」のセクションに参加して
川辺寛子
 参加者 韓国の留学生(一橋大)劉さん 論題「諺からみた日・韓社会通念の差ー´出る杭は打たれる`を例としてー」でコンクールで銀賞に。アメリカ学会員の糸多宗人さんは実業の世界で半導体をめぐる日米貿易摩擦なども経験。川辺は世界史を担当してきた退職教師で、直接研究者の声を知りたいと参加。経験・背景も異なる3人が、先生を囲み、疑問を投げかけながらお話を伺った。 
劉さんは、テコンドーの2段で、国際試合を通じてナショナリズムについて考えてきた。これから、この研究をどう進めたらよいか、アドバイスを求めるところから韓国・朝鮮のナショナリズムを中心に話が展開した。劉さんの話のポイントをあげると、
☆ テコンドーの技にまで歴史上の民族抵抗の指導者の名が付けられているほどに強い民 族感情がある。例えば安重根、李舜臣。
☆ 日本については、まだ、自由にそのまま話せない。パソコン上で攻撃を受けたりする。 ☆中国と冊封体制にあったことを日本に来て初めて知った。
 ☆日本の若い人が韓国の歴史を全く教えられてないことも驚いた。
 ☆10年前に鳩山首相の演説を有楽町で聞き、何か惹きつけられるものを感じた。
その後、韓国になぜキリスト教徒が多いのか、の問いに、日本は世界で一番キリスト教徒が拡がらなかった、という指摘を先生から受け、理由を考えた。劉さんから韓国の場合、19世紀末から、中国・ロシア・日本に囲まれたなかで、アメリカが1番頼りになった。アメリカに留学することで農民・商人は階級を上げることができた。日本の場合、自然信仰、八百万の神を信仰。生きる厳しさがなかったことが一神教が根づかなかったことだろうか、という意見もでた。グローバル社会を生き抜くにはという話題になり、英語力とパソコン・端末操作力によって情報格差が生まれている、という指摘を受けた。韓国では、書店はほとんどなくなっている一方高齢者もパソコンを使っている。最先端の端末を持つとワシントン・ポストの記事を時差の関係もあって、発売される前に読むことができる。本も持ち歩かずに本を読むことができる。一方、情報の受け売り、ただ取り出してレポートを書く学生、それを見抜くソフトの普及もある。むしろ情報を咀嚼する、生の体験等が必要とされているのではないか、との意見があった。
 翌日11月15日(日)9:30~:30
前夜のメンバーに中国・西安出身の留学生(首都大学東京)で法律を勉強している 顧丹丹さんが加わって始まった。まず、顧さんから「共和党と民主党のリベラルはどう違うか」という質問が出された。岡山先生から、以下のような説明があった。
 ☆1861年から100年位はリンカーンのつくった北部・共和党・連邦派が中心だった。今のリベラルに近い。民主党は南部ですごい保守、地方主義。
 ☆1896年には民主党と共和党の支持週州ははっきりする。
☆ 20年位(1933~53?)選挙で共和党は負けてばかりいたので保守派の結集を図る。
 ☆1964年、民主党が人種隔離政策を廃止してから、共和党は保守のみリベラルはいない。
☆1980頃から共和党は南部に増えていった。現在は共和党は南部、民主党は北部が支持州になっている。
 ☆最近のニューヨークに近い州の補選での動きをみると、候補者は、ゴリゴリの保守派とリベラルな共和党(同性愛を権利として認める)と民主党と3人が立った。同性愛について論争をしているうちに、共和党の候補者が降りて民主党を支持して、民主党が勝利したということがあった。
「同性愛をめぐる論争、又リベラルとはどういうことか」
・思想としてのリベラルは属性(性・富・学歴・人種)で人間を区別しない。また、・寛容=トレランスとは自分にとってイヤなものでも、在ってもかまわない、とすること。
 ・同性愛を州の憲法では認めている場合、連邦政府としてどうするか、という問題がある。ブッシュは認めなかったが、オバマは選挙の時は認めると表明。ワシントンD・Cでは、認める団体とのみ契約を受け付ける。カトリック教会はどうするか、問題になっている。アメリカの場合、10人に1人位いるのではないか。軍隊の中では、don't ask, don't tellできたが、クリントンは公おおやけにしようとして反発を受けた。韓国の軍隊でも自分の経験では、4~5人会った。結婚を認めることは又、相続権を認めることになる。
・日本は中絶が選挙の争点にならないのは何故か?中国の一人っ子政策に対する人々の思い・反発はどうか、ということも、問題にあがった。
「アフガンは軍事的に解決するしかないか」

・市民とタリバンとテロリストの3つのグループに分けて考える必要がある。
・大統領の腐敗に対する不信が拭えないでいる。
・テロリストをどう孤立させるか、が問題。
・外国兵に対する反発、パキスタンに逃げていることもあり、占領して終わりではない。又、広いアフガニスタンを全部掌握することは不可能。
「2050年に白人は少数派になるというが?」
・白人は64%から46%に、黒人は13%で変わらず、アジア系は4%から8%へ、ヒスパニックは15%から30%へ。が、白人にヒスパニックを入れると76%とな  る。白人といってもアングロサクソン・プロテスタント以外にスラブ系、アイルラン  ド系、カトリック・イタリア系は少数者として白人の中でも差別されてきた。
「アメリカにはヨーロッパのような社会民主主義的考え方はないのか」
・ヨーロッパの階級制度・君主制から離れ、アメリカをつくった自負がある。
  19世紀、ヨーロッパは格差が拡がり社会主義の考え方が拡がったが、アメリカは逆にカーネギーのような立志伝的タイプを称賛した。
「争点の公的医療保険制度問題の背景」
・人口の15%が無保険で85%は民間の保険に入っている。税の控除をするなどして企業としてグループ保険に入るように政府が誘導してきた。
・60年代から技術革新により医療費が高騰し保険料も高騰したので抵抗があり、民間の保険会社が競争して工夫を重ねてきたという経緯がある。影の福祉国家ともいわれ  る 
・市場は完全ではないが、それよりいいものがあるか、という考え方があり、企業組織の責任者=CEOが政府に入ることがかなりあり、政府・民間の人材交流がある。
「アメリカの政治意志の決まり方」
  アメリカの政治意志は、大統領のリーダーシップはあるが、議会など関門が多い。大統領は法律も出せない、個人では決まらない。
「銃規制はなぜ進まないか」
・周りがが持っているので自分だけ丸腰になるのはイヤという心理がある。民兵制度もあり、訓練もされる。
・日本の武器を持たない伝統は、秀吉の時の「刀狩り」で一斉に取り上げたことが大きいのではないか。
「もう一つの大国となった中国の現実について、留学生の顧さんから、聞きたい」
・見たくないほど問題はある。都市と農村の格差は拡大し、資本もとでがないと 都市に出てきてもなかなか豊かになれないので、事件もある。
・民族問題もいろいろあるが、“統一”が大事だと思う。
・今の政治の枠の中で、市場経済はすすむと思う。
・中国のテレビは、良いことばかり伝え、日本のテレビは悪いことばかり伝えているようにみえる。   
「ユダヤ・ロビーの影響力をどう考えたらよいか」
・アメリカの政治勢力のなかで、人口2%のユダヤ人が強いというが、確かに学歴・経済力・人脈などすぐれたものをもっている人がいる。
・心情として、ユダヤ人はかわいそうだ、という同情する気持ちがある。
・第2次世界大戦後、イギリスに変わってアメリカがイスラエルを応援してきた経緯がある。
・しかし、言論において、イスラエル支持に成功して