セミナー・イベント

憲法を学問する Ⅳ
-近代立憲主義とポスト現代国家-

実施報告

期間 2019年11月30日(土)~12月1日(日)
場所 大学セミナーハウス(東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス

参加状況 :49名(11大学)

東京大学(8)、東京大学大学院(7)、慶應義塾大学・国際基督教大学・日本大学・中央大学大学院(各2)、中央大学・東京外国語大学・一橋大学・放送大学・早稲田大学・京都大学大学院・日本大学大学院・北海道大学大学院・早稲田大学大学院(各1)、社会人(17)

趣旨

 最もなじみがあるにもかかわらず、実は非常に勉強しにくい法である憲法。学校や報道を通じてすでに知っている気でいても、「もっと突込んで、憲法のほんとうの意味を正しく理解しようという段になると、にわかにおそろしくむずかしくなる」(清宮四郎)のです。そこで、大学セミナーハウスの発案により、一般の市民や学生が、第一線の研究者と直接に交流し、ともに学び考える合宿セミナーが企画されました。それが「憲法を学問する」です。2016年6月に行われた記念すべき第1回セミナーの内容は、樋口陽一・石川健治・蟻川恒正・宍戸常寿・木村草太『憲法を学問する』として、今年の憲法記念日に有斐閣から公刊されています。
 そして、続編を期待する多くの参加者の声に背中を押していただき、今年も「憲法を学問するⅣ」を開催する運びとなりました。これまでの「学説」・「判例」・「人と事件」をテーマとして、学界のレジェンド樋口陽一先生を中心に語り合ってきた前3回とは異なり、今次のセミナーでは、来たるべきポスト現代の憲法状況に対して、日本国憲法の掲げる近代立憲主義はいかに立ち向かうべきかを、われわれ講師4人が参加者とともに考えていきます。
 そのために、これから議論の軸になると思われる、4つの論点が精選されました。講師はそれぞれ、既発表の著書論文とできるだけ重ならないテーマを選ぶようにしましたので、ここでしか聴けない議論が展開されるはずです。一見抽象度の高い問題設定のようですが、いわゆる「改憲」の論点を、より広い視野から考えるためには、不可欠のものばかりです。参加者の方々には、分科会や夕食・フリートークの時間に、ふだん感じている率直な疑問や、生活実感に基づく具体的な問題を、どんどん出していただきたいと思います。
「近代立憲主義とポスト現代国家」ときいて、よく似た題名の本を思い浮かべた方、呈示された4つの主題にピンときた方、フ~ンと思っただけの方、みなさん大歓迎です。多くの方々の積極的なご参加を期待してやみません。

開会の挨拶

大学セミナーハウス館長 鈴木康司

大学セミナーハウス 鈴木康司館長

 当セミナーハウスが力を入れております主催セミナーの目玉ともいうべき、「憲法を学問する そのⅣ」にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。早いものでこのセミナーも先生方、参加者の皆様のご厚意に支えられて、4回目を数えることができました。4年前、比較憲法の第一人者、樋口陽一先生とその愛弟子でおられる石川,蟻川、宍戸、木村の4先生のご賛同のもとに始まりましたセミナーが、今年は有斐閣による第一回目セミナーの書籍化も手伝ってか、去年より一層多くの方々にお集りいただいたことに心から感謝申し上げます。
 今年のテーマは「立憲主義とポスト現代国家」でありますが、そのキーワードは石川先生がチラシにお書きくださいました「来るべきポスト現代の憲法状況に対して、日本国憲法の掲げる近代立憲主義はいかに立ち向かうべきか」という言葉ではないかと私は思っております。
 ご承知のように憲法第99条には国務大臣をはじめ公務員はすべて憲法を遵守しなければならないと規定されているにもかかわらず、現政権は自衛隊の海外派遣に象徴されるように、現憲法に抵触する恐れのある法律を成立させ、また国民統合の象徴である天皇の譲位や即位を利用して、まるでかつての天皇制国家を復元するかのような政治的意味を加えた儀式やパレードを行ったのみならず、天皇即位を祝うパレードであるのに、首相自身、乗っている車の窓を開け沿道の人々に手を振るなどまるで自分が主役であるかのように振る舞うなど、主権在民、立憲民主制国家である我が国の総理大臣とは到底思えない非常識な行為を平然と行っております。
 これらの行為を政治的側面から糾弾することはいくらでもできますが、このセミナーではそうではなく、学問的にこのような行為が現憲法の精神からいかに隔たっているかを明らかにすると共に、改めて現憲法の原則を確認し理解するのが重要と考えます。石川先生のお言葉が直接何を意味しているか伺ってはおりませんが、私のように戦後民主主義で精神形成を行った人間にはその様に受け取れます。
 今年は、樋口先生が自由参加されると伺っています。どの時点でお見えになるかは定かではありませんが、きっと皆さまの前に元気なお顔をお見せくださるものと期待しております。今日と明日、充実したセミナーを皆様お過ごし下さり、よき収穫を得てお帰りくださることを願って、私のご挨拶といたします。
 

パネルディスカッション
近代立憲主義とポスト現代国家
- 分科会へのプロローグ -

憲法を学問するⅣ 講師

分科会へのプロローグ

 この後に、4つのテーマに沿って分科会で論じていただく前に、セミナー全体の趣旨「近代立憲主義とポスト現代国家」と4つのテーマ「競争と価値」「アルゴリズムと個人」「グローバルとローカル」「象徴と代表」の結びつきを各講師の先生にお話いただきました。
 参加者の方からは、「セミナー全体の問題意識や他の分科会の方針が分かった点が良かった。」「四人の登壇者の先生が、それぞれ存分に発揮されていたので大変面白かったです。」などの感想が寄せられました。

憲法を学問するⅣ 石川健治先生

第1分科会講師  石川健治先生

憲法を学問するⅣ 蟻川恒正先生

第2分科会講師  蟻川恒正先生

憲法を学問するⅣ 宍戸常寿先生

第3分科会講師  宍戸常寿先生

憲法を学問するⅣ 木村草太先生

第4分科会講師  木村草太先生

第1分科会「競争と価値」
石川 健治(東京大学法学部教授)

憲法を学問するⅣ 第1分科会

 グローバル化した現代社会においては、他者と競争するのが当然であり、その結果として生じた勝ち組・負け組の区別も、競争に勝ち残れなかった者の自己責任・自業自得として受け容れられているようです。競争原理の下で、構造的「弱者」に対する生活保護までが、競争を免れた「既得権」として目の敵にされる一方で、競争によってますます利益を得るはずの「勝ち組」が、既得権益の破壊を叫んで、選挙などで「負け組」の支持を集める、という倒錯した現象も目立ちます。そうした競争社会は、憲法とどういう関係にあるのか?競争を通じた効率性の追求と、憲法的価値との関係は? 参加者のみなさんとともに考えたいと思います。
 

憲法を学問するⅣ 第1分科会

憲法を学問するⅣ 第1分科会

第2分科会「アルゴリズムと個人」
蟻川 恒正 ( 日本大学大学院法務研究科教授)

憲法を学問するⅣ 第2分科会

 今日、AI(人工知能)の利用が高まっています。AI の判断はアルゴリズム(問題解決の手順)が導く最適解と考えられがちですが、AI にも偏見があり、差別を生むことがあります。なぜAI による決定を受け入れなければならないかという問題もあります。権力と個人という憲法学の古典的問題は、アルゴリズムと個人という問題に形を変えて、再吟味を必要としています。近代立憲主義とAI 社会の間で視線を往復させながら、皆さんと議論できるのを楽しみにしています。
 

憲法を学問するⅣ 第2分科会

憲法を学問するⅣ 第2分科会

第3分科会「グローバルとローカル」
宍戸常寿 ( 東京大学法学部教授 )

憲法を学問するⅣ 第3分科会

 近代立憲主義の歴史は、国民国家の形成と変容の歴史でもありました。国家という現象は、現在、国際社会のネットワークの中に絡み取られ、様々な機能や文脈に分化しています。地理的な生活空間である地域も、人口減少や世代構成の変化により、再編を迫られています。グローバル化とローカル化によって、国家と憲法は、いわば挟み撃ちになっている格好です。こうした現代的課題と立憲主義の関係について、皆さんと議論したいと思います。
 

憲法を学問するⅣ 第3分科会

憲法を学問するⅣ 第3分科会

第4分科会「象徴と代表」
木村 草太 ( 首都大学東京法学系教授)

憲法を学問するⅣ 第4分科会

 戦後第一世代に属するある憲法学者は、「代表」について、イデオロギーと理念の対比という観点から分析しています。イデオロギーとは、現実を隠蔽する表象と定義されます。憲法学において、「イデオロギー批判」は重要なキーワードであり続けてきました。このことを踏まえ、日本国そして日本国民統合の「象徴」について考えてみましょう。この分科会では、多くの人が意識の外に置きがちな「ある憲法問題」の解答を探ることを目標とします。

 

憲法を学問するⅣ 第4分科会

憲法を学問するⅣ 第4分科会


憲法を学問するⅣ 分科会報告

分科会報告

 1日目に分科会Ⅰ、2日目に分科会Ⅱにて、それぞれ1時間30分計3時間を使って、4人の講師の下で各テーマを論じていただきました。最後に報告会で内容をまとめていただきました。

 参加者からは、「時間が若干足りなかったように感じる。内容にはとても満足している。」「先生と濃い議論ができてよかった。」「意見(感想)を交換する時間がもう少し長くても良かったと思いました。」など、時間が短く感じられたようです。
 また、分科会報告については、「世代や出身地域・職業の異なる様々な方からの意見を伺うことができて、とても良い刺激を受けることができました。」「受講生による紹介という形式はよかったと思います。」「今まで四回セミナーに参加させていただきましたが、今回の分科会が一番議論が盛り上がったように感じました。やはり関心のある4つのテーマから参加者が自由に選択できることが大きいと思います。」との感想が寄せられました。

憲法を学問するⅣ 分科会報告

憲法を学問するⅣ 分科会報告

憲法を学問するⅣ 分科会報告

憲法を学問するⅣ 分科会報告

憲法を学問するⅣ 分科会報告

憲法を学問するⅣ 分科会報告

憲法を学問するⅣ 分科会報告

 初日の夕食後に行われた「フリートーク」は、分科会を中心とするプログラムの中で、4人の講師と直接話ができる特別の時間でありました。4人の講師がテーブル毎に分かれて、分科会を超えた参加者と自由討論。最初の1時間で、参加者が他のテーブルを入れ替わるという方法を取りましたが、そのあとは文字通りフリートークの場となりました。ただ、参加者49名に対して4人の講師で6テーブルであったため、なかなか希望する先生と話す機会が回ってこない方もあり、次回の改善点といたします。
 参加者からは、「先生方と、学問から大学生活など多岐に渡って話を伺うことができてよかったです。」「先生方と直接話ができるのはとてもよかった。無理な話ではあるが、4人の先生方の全員分のお話を聞きたいくらいだった。」との感想をいただきました。

総括討論・質疑応答

憲法を学問するⅣ 総括討論 樋口陽一先生

総括討論・質疑応答

 2日目午後、樋口陽一先生がセミナーにご参加くださいました。
分科会報告を踏まえて、総括討論と質疑応答を行いましたが、樋口先生のご登壇で熱気がさらに高まったようでした。

 参加者の方から「先生同士でのかなり深い議論を聞くことができ、とてもよかった。」「樋口先生がいらっしゃって、貴重なお話を伺えてとてもよかったです。」「樋口先生が登壇されてから、一気に議論の密度が高まったように感じました。」などの感想をいただきました。

 2時間あまりの後、企画委員長の石川健治先生より総評と挨拶をいただき終了となりました。

憲法を学問するⅣ  樋口陽一先生

樋口陽一先生

憲法を学問するⅣ 総括討論 樋口陽一先生

熱気溢れる会場

憲法を学問するⅣ 総括討論 石川健治先生

石川健治先生

憲法を学問するⅣ 総括討論 蟻川恒正先生

蟻川恒正先生

憲法を学問するⅣ 総括討論 宍戸常寿先生

宍戸常寿先生

憲法を学問するⅣ 総括討論 木村草太先生

木村草太先生

閉会

憲法を学問するⅣ 外村専務理事

大学セミナーハウス外村専務理事

 最後に、大学セミナーハウス外村専務理事より閉会の挨拶があり、講師の先生方を囲んで記念撮影をし閉会となりました。
 2日間のセミナーを通して、参加者の方から様々な感想をいただきました。「理解できたわけでは全くありませんが、知的好奇心を刺激されましたし、学問の奥深さに気づくことができました。」「今回初めて参加となりましたが、学問・人生面で学ぶことが多くありました。次回も参加したいと思います。」「知らなかった知識や視点を学べて、より一層向上心が上昇しました。」「毎回楽しく有意義に過ごさせていただきました。ありがとうございました。ぜひ来年も参加したいと思います。」

 全国から多くの方にご参加いただきありがとうございました。また、樋口先生をはじめ4人の講師の先生方本当にありがとうございました。時間も忘れ熱心に参加者と向き合っていただき感謝申し上げます。
これからも大学セミナーハウスが、今後の一助になれば幸いです。

憲法を学問するⅣ 全体写真(樋口陽一先生を囲んで)

講師の先生を囲んで記念撮影

憲法を学問するⅣ 企画委員


<委員長> 石川 健治 東京大学法学部教授  
<委 員> 蟻川 恒正 日本大学大学院法務研究科教授  
       宍戸 常寿 東京大学法学部教授  
               木村 草太 首都大学東京法学系教授  
<特別参加>樋口 陽一 東京大学・東北大学名誉教授  
 

開催状況

お問い合わせ

公益財団法人 大学セミナーハウス・セミナー事業部
 TEL:042-677-0141(直)FAX:042-676-1220(代)
 E-mail:seminar@seminarhouse.or.jp
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