セミナー・イベント

憲法を学問する Ⅲ

実施報告

期間 2018年10月6日(土)~7日(日)
場所 大学セミナーハウス
主催 公益財団法人大学セミナーハウス

参加状況 :38名(10大学)

東京大学(8)、一橋大学・東洋大学(各3)、早稲田大学(2)、慶應義塾大学・国際基督教大学・創価大学・同志社大学・法政大学・龍谷大学(各1)、高校(2)、社会人(16)

趣旨

 憲法を「学問する」と名づけたセミナーの三年目です。
 憲法についてのことに限りませんが、「法学」のする仕事にはいくつかの局面がありま す。現に”ある”法―「実定法」という言葉はその意味で使われます―を秩序立てて理解し記 述するという仕事は、基本の一つです。ところがその実定法はまた、立法府や裁判所や行 政機関がそれをどう使うか、「世論」によってどう受けとられるかによって、現実の政治や社会のあり方を、従ってその社会の歴史のありようを方向づけてゆきます。
 今回の対論・パネルディスカッションの標題は、そういう局面をとらえて、憲法学説が 戦後史の論点にどうかかわってきたか、考えてみようという意図が込められています。四つの分科会は、それを受けとめて分野ごとに議論を深めて行こうとするものです。

対論・パネルディスカッション
戦後史の論点に憲法学説はどうかかわってきたか
―靖国憲法訴訟の問題を中心に―

分科会

第1分科会・沖縄と外地
石川 健治(東京大学法学部教授)

 「外地」の帝国大学に奉職し、多民族国家としての帝国日本の秩序構造を、法学的に解明する立場にあった2人の憲法学者、清宮四郎(京城帝国大学)と中村哲(台北帝国大学)。彼らは、戦後の「沖縄」問題に接して、何を考え、あるいは考えなかったのか。それは、国民国家として再編された戦後日本の秩序構造を理解するために、つまりは現在の憲法と憲法学を理解するためには、欠かすことのできない論点です。
 

第2分科会・天皇と退位
蟻川 恒正(日本大学大学院法務研究科教授)

 来年に予定されている天皇の退位について憲法学の観点から考察します。天皇の退位は、日本国憲法の人権論と統治機構論が交錯する稀有な原理的問題であるとともに、自由、責任、公と私といった基本的諸概念が実定法制度の「解釈」を媒介として争われる法実践の現場でもあります。「脱出の権利」に論及した奥平康弘の議論を手がかりに、そこで取り上げられていない視点などを補いながら、参加者とともに問題の本質に迫りたいと思います。
 

第3分科会・冷戦と司法
宍戸 常寿(東京大学法学部教授)

 砂川事件では、駐留米軍の合憲性が争われました。最高裁は統治行為論によって憲法判断を避けましたが、この事件について最高裁長官が米国大使と議論していたことが明らかになりました。当時の被告人が裁判のやり直しを求めたり、集団的自衛権をめぐる論争で引用されたり、この60年前の事件は現在もなお生き続けています。これからの憲法を「学問」するためにも、「司法」が「冷戦」にどう向き合ったのか、皆さんと読み解きたいと思います。
 

第4分科会・解散権と憲法
木村 草太(首都大学東京法学系教授)

 この分科会では、「衆議院の解散権」をテーマに、憲法典がいかに政治を統制できるか、を考えます。近年、濫用気味の事例が多いとされる衆議院の解散について、議論が活性化しています。議会解散は、高度に政治的な行為であり、法による統制はいかにも困難であるように思います。これを憲法学はどう扱い、憲法典はどう統制しようとしてきたのか。これを考えるのが、この部会のテーマとなります。
 

 セミナー冒頭の対論・パネルディスカッションでは、憲法学説が戦後史の論点にどうかかわってきたか、考えてみることがねらいであるが、まず樋口陽一氏(東京大学名誉教授・東北大学名誉教授)が講演「政教分離と信教の自由―学問と政治/学問と裁判―」を行った。それを受けて分科会の講師4氏と鼎談形式で討論した。
 <鼎談その1>では「靖国懇と芦部信喜」をテーマに石川健治氏(東京大学法学部教授)と宍戸常寿(東京大学法学部教授)が、<鼎談その2>では「自衛官合祀訴訟と伊藤正己」をテーマに蟻川恒正氏(日本大学大学院法務研究科教授)と木村草太氏(首都大学東京法学系教授)が樋口氏と討論した。
樋口氏の講演では「芦部先生の人物像を深く話してくださり、この機会でもないと聞くことができないであろう貴重なお話を聞くことができた」、鼎談では「(各講師の)疑問がとても興味深く、新たな視点を持つことができた」との感想が寄せられた。

 2日間にわたる分科会討論では、「非常に分かりやすい説明をしてくださり、この機会でないと聞くことができないであろう貴重なお話を拝聴することができた」「議論を交えてさまざまな論点の検討ができた」「有名な判決だけにイメージで割り切って読んでしまっていたと気づかされた」など参加者にとって様々な知的な刺激が得られた。

 
 初日の夕食後に行われた「フリートーク」は、分科会を中心となるプログラムの中で議論している参加者にとっては至高の時間であった。5人の講師が5つのテーブルに分かれて分科会を超えた参加者と自由討論。最初の1時間は、15分ごとにテーブルを入れ替わるという方法をとったが、そのあとは文字通りフリートークの場となった。「テーブルを回る方式で先生への質問がしやすくありがたかった」「普段お会いする機会がない先生方とお話できてとても貴重な時間でした」との感想があった。

 3日間のセミナーを通して参加者から様々な感想が寄せられている。「分科会の内容も面白く、もっと詳しく知りたい」「(所属した分科会以外の)分科会についてもお話が聞けるのでありがたい」「素人の低レベルな質問にも真面目に応えていただき感謝します」「知的な刺激を受けることができました」「(参加者の)質問に対して丁寧に答えてくださった」「あっという間でした。読みたい本が増えて困ります」「難しい内容が多々あったものの、全体的には理解しやすかった。また、知的関心が高まったため本当に参加してよかった」など。
 「憲法を学問する」セミナーは来年も開催しますので、日本国憲法を広く深く学びたい方の参加をお待ちしています。