憲法を学問する Ⅱ
実施報告
期間 | 2017年11月11日(土)~12日(日) |
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場所 | 大学セミナーハウス |
主催 | 公益財団法人大学セミナーハウス |
参加状況 :47名(18大学)
中央大学(8)、九州大学(3)、東京大学・早稲田大学(各2)、東洋大学・国際基督教大学・首都大学東京・上智大学・帝京大学・日本大学・立命館大学・関西大学・京都大学・清泉女学院大学・千葉大学・同志社大学・福島大学・立教大学(各1)
趣旨
「憲法を本格的に勉強してみようと思うのですが、どういう本を読んだらよいのでしょうか?」―― 一般市民向けのセミナーで、そういう質問を受けるとき、思わず考え込んでしまう。
メディアで提供されるのは、断片的な憲法解説ばかり。現政権下で憲法問題が政治的争点となっている以上、主権者の1人として、自分なりに納得がゆく程度までは勉強し、プロパガンダにだまされない批判的な眼を養いたいが、どうすればよいのか。そういう市民や学生の「本気」に応えるには、どの本も帯に短しタスキに長し。憲法70周年という記念の年だけに、憲法関連の出版は活発に行われているものの、これを読めば大丈夫、という本が見当たらない。或る憲法学の泰斗が「入りやすく、大成しがたい」という至言を残しているように、憲法は、最もなじみのある法であるにもかかわらず、実は非常に勉強しにくいのである。
「大成しがたい」分野であるのは、研究者にとっては大いなる魅力だ。ようやく一山越えたと思ったら、その先には、知的好奇心をそそる新たな研究課題が待ち受けているのだから。しかし、いくら勉強してもキリがないというのは、一般の学習者にとっては困りものである。果てのない分野であればこそ、とにかく勘所をつかむのが先決であるが、そのためには、まず研究者になって、10年単位で研究対象に沈潜する必要があるとは。ああ、なんてこと!
そうしたなか、昨年度、大学セミナーハウスの発案により、一般の市民や学生が、研究者と直接に交流し、ともに学び考える合宿が企画され、幸いにして好評を博することができた。そして、続編を期待する多くの参加者の声に背中を押される形で、本年度は読書の秋に、第2弾をおおくりする運びとなった。
講師には、戦後憲法学のレジェンド・樋口陽一教授をはじめとして、各世代を代表する憲法研究者たちが揃った。前回は憲法を理論的に考察することに力をいれたので、それを現実の社会に即して掘り下げようと、今回の合宿では、実際に事件となった「判例」を検討の素材とすることに決まった。「憲法判例を読むこと」をめぐる樋口陽一/蟻川恒正の師弟対論に加えて、4つの分科会における講義・討論や参加者の報告を交えた、盛りだくさんの内容である。内容に新味を盛るための工夫としては、各講師が分科会でとりあげる判例や主題の選択に際して、すでにまとまった研究を発表している分野をあえて避けるよう、申し合わせをした。かねて関心をもってきたものの、これまであまり執筆してこなかった分野について、参加者とともに新鮮な気持ちで取り組んでみよう、というわけである。
各分科会への参加は、残念ながら、抽選による割当ての形によらざるを得ない。けれども、機械的に割り振りを行った昨年の合宿への反省から、今年は第一希望を優先的に割り当てるなど、少しでもご希望に近い分科会に参加できるよう、工夫を加えてみたい。もちろん、講堂での全体会において、他の分科会の講師・参加者とも交流する場が、昨年同様積極的に設けられているほか、分科会での議論を共有するために、各講師が自ら要旨を報告するパートが新設されている。
とかく政治的・党派的な文脈で扱われがちな憲法。これを「学問する」とはどういうことか。大学生・大学院生のみならず一般市民にも門戸を開いて、講師たちとともにじっくりと考える機会にしたい。
メディアで提供されるのは、断片的な憲法解説ばかり。現政権下で憲法問題が政治的争点となっている以上、主権者の1人として、自分なりに納得がゆく程度までは勉強し、プロパガンダにだまされない批判的な眼を養いたいが、どうすればよいのか。そういう市民や学生の「本気」に応えるには、どの本も帯に短しタスキに長し。憲法70周年という記念の年だけに、憲法関連の出版は活発に行われているものの、これを読めば大丈夫、という本が見当たらない。或る憲法学の泰斗が「入りやすく、大成しがたい」という至言を残しているように、憲法は、最もなじみのある法であるにもかかわらず、実は非常に勉強しにくいのである。
「大成しがたい」分野であるのは、研究者にとっては大いなる魅力だ。ようやく一山越えたと思ったら、その先には、知的好奇心をそそる新たな研究課題が待ち受けているのだから。しかし、いくら勉強してもキリがないというのは、一般の学習者にとっては困りものである。果てのない分野であればこそ、とにかく勘所をつかむのが先決であるが、そのためには、まず研究者になって、10年単位で研究対象に沈潜する必要があるとは。ああ、なんてこと!
そうしたなか、昨年度、大学セミナーハウスの発案により、一般の市民や学生が、研究者と直接に交流し、ともに学び考える合宿が企画され、幸いにして好評を博することができた。そして、続編を期待する多くの参加者の声に背中を押される形で、本年度は読書の秋に、第2弾をおおくりする運びとなった。
講師には、戦後憲法学のレジェンド・樋口陽一教授をはじめとして、各世代を代表する憲法研究者たちが揃った。前回は憲法を理論的に考察することに力をいれたので、それを現実の社会に即して掘り下げようと、今回の合宿では、実際に事件となった「判例」を検討の素材とすることに決まった。「憲法判例を読むこと」をめぐる樋口陽一/蟻川恒正の師弟対論に加えて、4つの分科会における講義・討論や参加者の報告を交えた、盛りだくさんの内容である。内容に新味を盛るための工夫としては、各講師が分科会でとりあげる判例や主題の選択に際して、すでにまとまった研究を発表している分野をあえて避けるよう、申し合わせをした。かねて関心をもってきたものの、これまであまり執筆してこなかった分野について、参加者とともに新鮮な気持ちで取り組んでみよう、というわけである。
各分科会への参加は、残念ながら、抽選による割当ての形によらざるを得ない。けれども、機械的に割り振りを行った昨年の合宿への反省から、今年は第一希望を優先的に割り当てるなど、少しでもご希望に近い分科会に参加できるよう、工夫を加えてみたい。もちろん、講堂での全体会において、他の分科会の講師・参加者とも交流する場が、昨年同様積極的に設けられているほか、分科会での議論を共有するために、各講師が自ら要旨を報告するパートが新設されている。
とかく政治的・党派的な文脈で扱われがちな憲法。これを「学問する」とはどういうことか。大学生・大学院生のみならず一般市民にも門戸を開いて、講師たちとともにじっくりと考える機会にしたい。
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昨年に続く今回の憲法セミナーは、北は福島大学から南は九州大学まで全国から18大学・29名の大学生と高校生1名、さらに高校教員・公務員、弁護士、某大学前学長、出版社、企業などから社会人が17名参加。文字通り学生や市民が研究者と直接に交流し、ともに学び考えるセミナーとなった。セミナーは、樋口陽一氏(東京大学名誉教授・東北大学名誉教授)と蟻川恒正氏(日本大学院法務研究科教授 )の対論からスタート。分科会の講師4人によるパネル・ディスカッションを挟んで、4つの分科会に分かれて議論した。
第1分科会「家族と個人」は石川健治氏(東京大学法学部教授)、第2分科会「経済の自由と公正」は蟻川恒正氏、第3分科会「文化と国家」は宍戸常寿氏(東京大学法学部教授、第4分科会「内心の自由」は木村草太氏(首都大学東京法学系教授)が研究者の立場から問題提起したうえで、その問題提起に学生と社会人が加わり三つ巴の議論が展開された。
参加者のアンケートを見ると「憲法判例を批判的に読む方法が理解できた」、「多角的に物事を見ることができた」、「色々な論点、多様なバックグラウンドを持った方が参加しており、法律家の観点だけでなく一般の方の意見を聞くことができたことが特によかった」「日頃は接触が少ない社会人の方とも憲法について議論でき、改めて一般常識が大切だと思った」などの感想が寄せられた。
とかく政治的・党派的な文脈で扱われがちな憲法だが、「憲法を学問する」ことの重要性が浮き彫りにされたセミナーであった。