セミナー・イベント

第2回留学生論文コンクール受賞者座談会

実施報告

日 程 2022年5月27日(土)10:00~12:00
開催形式 Zoomを用いたオンラインセミナー
対象 留学生論文コンクール受賞者(過去受賞者4名、2022年度受賞者4名)
審査委員(鈴木康司館長、花澤聖子先生、孫国鳳先生)
事務局(外村幸雄専務:司会進行、長田裕子、小島眞奈美)
会 場 Zoomミーティングルーム
主催 公益財団法人 大学セミナーハウス

【開会挨拶(鈴木康司館長)】

 館長の鈴木でございます。審査委員お二人の先生、参加者の皆さん色々とご多忙中の所、参加いただきありがとうございます。留学生論文コンクールはずいぶんと長くやっておりますが、座談会は一昨年が最初でございました。その座談会の雰囲気が良く、初めてお顔を拝見しましたが、コンクールに参加してよかったというお話を伺いましたので、今年も開催させていただきました。
 まずは自己紹介ということで、私は、東京大学文学部仏文学科で学び、大学院博士課程の2年目にフランス政府の給費留学生として1960年に初めてフランスへ参りました。パリ大学文学部博士課程で勉強いたしました。帰国後、中央大学文学部の専任教員となり、40年間勤め、文学部長、学長等色々な仕事をさせていただきました。この間、1984年から2年間外務省の依頼によりパリ国際大学都市日本館館長をつとめました。中大を定年退職後10年間、東京日仏会館の副理事長を務めました。東京日仏会館は、日本の近代資本主義の父 渋沢栄一と在日フランス大使であった有名な文学者のポール・クローデルが設立した会館であります。退職後この大学セミナーハウスで10年館長としてお世話になりました。お世話になる以上はここで国際的な仕事があると良いなと思っていたところ、こういった論文コンクールを通じて色々な国の学生諸君とお付き合いができるということは非常に嬉しいことでした。
 国際交流の重要性を理解したのは初めて外国で暮らしたフランス生活でした。自分の国しか知らなかった若者が他国に出ることによって外から自分の国を客観的にみることができ、かつ肌の色や生活習慣、環境などが全く違った人たちの社会に暮らすことにより、文化や言語、習慣の違いにもかかわらず、地球に生まれて暮らす人間としてそれぞれ個性の違いはあっても理解しあえるし、また理解することによって共に生きることこそが国際平和の基本であると考えました。
 大学に就職後、中央大学ではイギリス、フランス、ドイツ、中国、台湾、アメリカなど多くの国の大学と交流協定を結んで留学生交換をおこないました。日仏会館でも在日フランス大使館の協力を得てフランスのいくつかの一流校の学生たちと日本の大学生たちの交流のスポンサー事業を始め、10年以上続きました。
 セミナーハウスの留学生論文コンクールもまた国際交流活動の一つとして、日本で学ぼうと決めた留学生諸君が言葉や文化の違いを乗り越えてグローバルな問題にどう対処すればよいか、国際的な協力についてどう考えているか、また日本語の論文を書く作業によって日本語の実力を示す機会を得て、将来の自分の国と日本の間の文化交流に役立つ基礎を養ってもらおうと考え、いわば先行投資、こちら側からそういう方に声を掛け、日本留学のお助けをすることで、文化交流の種まきのような期待を持っておこなったものでした。
 残念ながら、今年はコロナ災害や選考委員の個人的事情で論文コンクールを休止せざるを得ないのが残念ですが、昨年からはじめたコンクール受賞者による座談会が実り多く、参加者の善意に励まされたので、今年度もこのような形で行うことにしました。参加者の皆さんには座談会の暖かい雰囲気を味わって、今後の国際理解、交流に役立ててほしいと期待しています。どうぞ、それほど長い時間ではありませんが楽しいひと時を過ごしていただきたいと思います。

【審査委員挨拶】

花澤聖子先生

 神田外語大学アジア言語学科所属の花澤聖子と申します。留学生論文コンクールの立ち上げ、および第1回の頃から関わらせていただいております。私としてはありがたいことと思っております。
 私は学生時代に大学セミナーハウスに大変お世話になりました。大学共同セミナーに10回くらい参加させていただいたでしょうか。出身校は東京外国語大学です。後に大学セミナーハウス理事長・館長をされた中嶋嶺雄先生の授業を取り、ゼミ生となりました。中嶋嶺雄先生から素晴らしいところがあるので勉強に行ってはどうかとお勧めをいただき、色々な大学の方と交流したいと思い参加しました。自分の大学の先生以外の先生から教えをいただき、泊りがけで議論を行うというのはとても有意義な体験でした。複眼的な思考の大切さ、多角的な視点でものを見ることの大切さ、ステレオタイプから如何に脱却していくかを学びました。少しでもセミナーハウスにご恩返しできたらと思い、留学生論文コンクールの審査委員を引き受けさせていただきました。
 留学生論文コンクールには様々な意義があると思います。当時、企画が立ち上げられたときに「留学生は自国での体験と知識を持って日本にやってくる。留学されたからこそ気付く問題をたくさん持っているのではないか」と考えました。その思いを伝えるチャンスが無いのではないか、この企画はそういう意味でも素晴らしい企画だと思いました。日本にずっといる日本の学生とは異なる視点、留学生であるからこそ気付く問題・多角的な視点で論じられた素晴らしい論文に審査委員としてたくさん出会うことができました。私も刺激を受けることができたことに感謝しています。
 素晴らしい賞をいただくに値する論文を書かれた皆さんに、この経験を生かしグローバル人材となるべく努力を続けていただけることを願っています。
 論文とだけ向き合ってきたので、Zoomではありますが、本日対面でお顔をみて交流・歓談できるチャンスをいただけることに感謝しています。
 どうぞよろしくお願いいたします。

孫国鳳先生

 さきほど、館長と花澤先生から論文コンクールの目的・意義を話して頂きました。私のほうからはすこし裏話を紹介いたします。
 留学生論文コンクールは、セミナーハウスの留学生支援事業の一環として2009年から開催し、2022年度で13年目、2011年東日本大震災で一年中止をしていますのでトータルで12回開催しました。
 花澤先生とは東外大の同じゼミ生でした。留学生支援事業を展開しようとした際に色々先生に相談しました。一番親しく相談できる方でした。私自身の留学生の体験で感じたこともあり、留学生の発表の場、留学生自身の見識、自身の話したいこと、国際社会で感じたことなどを発表する場を提供するのが良いのではないか、評価を受けたら論文の書き方を改めるきっかけになるのではないかと考えました。先ほど館長から「種まき」という言葉がありましたが、とてもいい言葉だと思います。館長にも企画のヒント、意見を頂き、この事業を展開していくことになりました。
 1 回目は大勢の方が書いてくださいました。その中で本当に論文になっているものは一つもありませんでした。しかし、だんだん改善していき、レベルが上がっていきました。何回も参加してくださる方もいました。その方々の論文をすべて手元に持っていますが、読み返すとだんだんレベルが高まってきたことが分かります。普段感じたことを言いたいが発表する場がない中、グローバルイシューはなんでもいえる発表の場なので、毎年努力する方がいらっしゃいました。投稿までいかなくても書いてみて、「今年は投稿しません」と連絡をくださる方もいました。皆さんにとって 1 年間の中でやるべきことになったように感じました。
 今日出席している審査委員は 3 人ですが、審査委員になって下さった先生は他に 4 名の先生がいました。
 佐藤保先生、お茶の水女子大学の12 代学長先生。中国文学の専門。佐藤先生は文章チェックを細かく行ってくださいました。
 古矢旬先生、東京大学教授、アメリカ専門。
 松田康博先生、東京大学東洋文化研究所教授、台湾問題が詳しい先生です。
 勝又美智雄先生、日本経済新聞社ロサンゼルス支局長、のちに国際教養大学教授。今は東京外国語大学留学生支援の会の関係で時々お会いしお話する機会があります。
 先生方に感謝の意を表したい。
 本日、皆さんにお会いできて嬉しく思っています。あとで歓談できる時間があるので楽しみにしております。
 最後に自己紹介をいたします。私は中国で大学卒業後、日本の厚労省に当たる中国民政部の職員として日中関係の仕事をしておりました。その後、日本に来て東京外国語大学の修士課程を終了し、東京大学で博士課程を修了した後、大学セミナーハウスで働くことになりました。大学セミナーハウスは自分の性に合う勤め先でした。とてもきれいなところなので、ぜひ時間があったらセミナーハウスに来ていただきたいです。ネイコウさんは 50 周年記念パーティにきていただきましたね。皆様も東京に来られた際にぜひセミナーハウスの環境を味わってみていただきたいです。私は大学セミナーハウスに20年間勤務し、環境もよく、自分のやりたい仕事をやらせていただき、幸せでした。この場を借りて館長に御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

【大学セミナーハウス紹介(外村幸雄)】

①紹介ビデオ
②紹介資料による説明

【2022年度受賞者の感想】

李 千菁(リ センセイ)【台湾・2022年度金賞】
現在、鳴門教育大学在学中。日本で心理士になるためカウンセリング等勉強中

 この度は大変名誉な賞をいただきありがとうございます。
 今回、出させていただいた論文を書いていた時は日本に来てから大変しんどい時期でした。何もやる気がなく自分は馬鹿で何もできない人間と考えていた時期でした。日本に来てから日本語の関係で怒られたり笑われたりそのようなこともたくさんありましたが、できなければ頑張ればいいと乗り越えてきました。だけど、去年はそれさえできなくなりました。そんな時支えてくれた人がいました。それは日本に来たばかりの時お世話になったホストファミリーと周りの友達・先生方でした。私の悩みを聞いてくれたり、一緒に遊びに連れて行ってくれたり、そのお陰で私は闇の時期から抜けることができました。そして自分が金賞であることが分かり、回りの反応からダメな人間ではないとわかり自分と和解しました。
 来日して10年になり、日本で様々な方と出会い支えられてきました。
 日本語が全くできない状態から誰かと日本語で話すことができたときの嬉しさは今でも覚えています。しかし、その過程は決して簡単ではなくつらい時もありました。それでも諦めずここまで学習を続けてこられたのは周りの支えがあり、日本語を学習することが好きなだと確信したからです。好きだという気持ちがあったからこそ嫌なことがあっても上手くいかないことがあってもそれを諦めず頑張ることができました。好きなことをやるということはいつでも楽しいわけではありませんが、経験は宝物になり夢に近づく助けになりました。多くの方に助けられここまで頑張って来られたと思います。
 これから日本に来る外国人は留学生以外にもどんどん増えるでしょう。その中で文化の壁で誰かに話すことができず、心の病にかかる人もいます。そのため、私は日本で心理士になり、そのような方の力になりたいと考えています。今は専門的なカウンセリングの勉強をしています。授業は簡単ではなく大変ですがやめたいと思うことはありません。それはずっと支えてくれる家族がいるからです。また、先生方やクラスメートがいるから今ここにいることができます。
 私は日本でたくさんの人に支えられたことを決して忘れません。これからもつながりや経験を大切にして、次は私が臨床心理士になり人々の支えになれるよう頑張りたいと思います。

LEONIDA RHANZEL LARIOQUE(レオニダ ランザル ラリオク)【フィリピン・2022年度銀賞】
現在、日本経済大学に在学中。今回の論文を参考に再度フィリピンでアンケート調査を行い、卒業論文を執筆予定。

 私の論文を評価し、銀賞に選んでいただき心から感謝申し上げます。論文コンクールに入賞したことは私にとって驚きと同時に喜びでありました。コンクールに参加した時に私より優秀な方が参加していると思っていたので、自分の研究が入賞できるとは思っていませんでした。私の研究の努力や情熱が認められた証であり、大変光栄に思っています。
 入賞の事実を皆に伝えると良い反応がありました。皆が応援してくれていたことを実感しました。論文の書き方やアドバイスをくださった先生方に報告した時にお祝いで先生方と食事をしました。今、神戸にあるフィリピンコミュニティーの会員でNGO/NPOでも働いていて、皆がおめでとうと言ってくれました。私の研究も読んでくれたし、本当に喜んでくれました。一緒に働いている皆が私の研究に共感してくれたのだなと感じました。彼らの声援は私のモチベーションをもっともっと高めてくれました。
 家族はもちろんもっとも大きな関心を示してくれました。喜びと共に誇りに思ってくれることを感じました。フィールドワークに行ったときに家族と一緒にマニラに行ったので、家族はずっと私を応援してくれていました。彼らの支えが私を成長させてくれました。皆のお陰でこんな素晴らしい銀賞を貰うことができました。心からの感謝の気持ちを持ちながら研究を続けていきたいと思います。皆のサポートに報いるために成長し続け、社会貢献をしていきたいと思っています。
 今後の目標として卒業論文を書くことを考えています。大学セミナーハウスに提出した論文を参考にして、より高い研究を行うために再度フィリピンに帰国し、現地のアンケート・インタビューなどの調査を行いたいと思います。
 ボランティア活動への参加に加えて自分の力で社会に貢献するためには研究や学びのプロセスを継続的に行うことが必要だと思っています。失敗や困難に直面しながらも前に進んでいく活動を行いたいと思います。社会の課題解決に向け、さらなる研究や学びの道を進んでいきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

何 其歓(カ キカン)【中国・2022年度銅賞】
現在、神奈川工科大学在学中。経済や文化や科学技術などの分野で世界が協力するようになりたい。

 留学生が文章力をアピールできる場を提供してくれた主催者に感謝します。留学生論文コンクールは、留学生たちの関心を高めると同時に日本語の書き方の面で能力を向上させたと思います。
 私の論文テーマは「ポストコロナ時代のオリンピックの価値と展望」です。新型コロナウィルスの発生以来世界では様々な不協和音が出ています。団結・協力・平和の意味を持つオリンピックの開催は一層重要な意味を持つようになりました。東京オリンピックが開催されている期間はコロナウィルスの発生期だったので、反対の意見が多く上がりました。世界各国の人々が団結したら、反対や不協和音が少なくなると思います。皆さんで協力してコロナウィルスに対応することで積極的な効果を生むことができると思います。より重要だと思います。WHO・IOCが発表した会議の要旨を読み、文章で自分の理解を伝えました。
 現在新型コロナウィルスの感染は抑制されましたが不協和音は残っています。ポストコロナの時代に私たちの生活は変わりました。留学生たちの生活にも変化がありました。コロナは、社会の経済構造を変えました。世界的な不況の段階に入りました。ですから将来に本当の意味の平和が訪れることをお願いしたい。経済や文化や科学技術などの分野で世界が協力するようになりたいです。
 留学生論文コンクールの再開を祈ります。大学セミナーハウスの先生の仕事が順調であることを祈ります。留学生の生活を豊かにするため、こういうイベントを開催していただきたいと思います。私も積極的に参加したいと思います。よろしくお願いいたします。

林 詩容(リン シーロン)【台湾・2022年度銅賞】
現在、愛知大学在学し就職活動中。卒業論文に力を入れたいと思っています。

 この論文を選んでいただき誠にありがとうございます。
 私はあまり受賞できると考えていなかったので、メールを貰った時に間違いではないかと思い、本当に喜びもあるし、驚きました。
 私は今就職活動中です。多くの企業の皆さんはSDGsを掲げていると思います。なぜ企業の皆さんはSDGsを掲げているのに環境問題が解決されていないのだろうと考えており、このテーマを取り上げました。取り組むとき就職活動もあったのでスケジュールがうまく取れないこともありました。自分は文章を出した後、何回も読んで今まで受賞できることが夢みたいだと考えています。
 受賞できたことに本当に感謝したいと考えています。回りの方も選んでいただいた方にも感謝しています。今後ももっといい文章を作ってみたい、書きたいと思い、卒業論文に力を入れたいと思っています。

【過去受賞者の近況・2022年度受賞者へ贈る言葉】

寧 昊(ネイ コウ)【中国・2015年度銀賞】
現在、貿易関係メーカー勤務。皆さんの論文を見て、地球問題で自分のできることを頑張っていかないとと痛感しました。

 2022年の受賞者4名の方、おめでとうございます。
 調べてみたところ、日本にいる大学院、大学生、短大生は13万人くらいいます。自分の母語でない言葉で論文を形にしコンクールにまでだし、受賞したことを人生の誇りに思ってください。私も2015年に中途半端な日本語で、今見返すと恥ずかしいくらいの文章を書いているなとおもいますが、大学生時代に頑張ったこと、努力したことは今でも振り返ってみるとやっておいてよかったと思っています。
 私が考えている地球問題はずっと思ってはいるのですが、大学を出て社会人になり、仕事であったり生活であったりで当時大学時代に熱血であった自分を忘れてしまいます。本日、皆さんの論文をザーと見ましたが、地球問題で自分のできることを頑張っていかないとと痛感しました。そのことにありがとうございます。
 テーマも多様ですね。流行りのSDGsであったり、私が当時書いたメディア関係以外にも地球問題はまだまだたくさんあるなと思いました。地球問題はなくならない、やはり、これから我々が努力する必要があります。微力であったとしても自分の声を出すことが大切であると思います。
 皆さんは大学セミナーハウスに訪問したことはないと思いますが、私は大学セミナーハウスに行ったことがあります。本館に入ると詩人の言葉が張ってありました。その言葉を今でも部屋に飾っています。皆さんにシェアしたいと思います。「思想は高潔に生活は簡素に」これを最後の言葉として示させていただきます。
(参考:「思想は高潔に生活は簡素に」イギリスの詩人ワーズワースの言葉)

OH HANWOONG(オ ハヌン)【韓国・2020年度銅賞】
現在、大分大学大学院博士課程在学中。学部3年生と大学院で求められる論文の桁が違い、とにかく苦労しています。

 当時、私の論文のテーマは資本主義と幸福の研究だったと思います。振り返ってみると大きなテーマで良く受賞したなと思っています。当時は自分の問題意識に基づき書いたもので、今もそうですが、貧困格差とか経済学で良く扱うテーマに関心があり、知識は浅いですがそういうものを論文化してみようと、コンクールに提出させていただきました。
 今は大学院で苦労しながら研究しています。当時は学部の3年生でしたが、学部3年生と大学院で求められる論文の桁が違い、とにかく苦労しています。
 こういう機会に論文受賞した思いがあって、今の苦労を何とか乗り越えようとしています。よろしくお願いいたします。

CHOI JEYOON(チェ ジェユン)【韓国・2021年度金賞】
現在、東北大学大学院博士課程在学中。パンデミックによる差別や日本をベースとした研究を行うことで、今回の受賞をさらに発展させ、よい成果を共有出来たらと思っています。

 受賞できて本当に光栄に思います。
 修士に入ったばかりで、何を研究していいかわからない時期に国際問題についての論文コンクールがあるというメールを受け、それをきっかけに頭の中を整理して論文を書いてみようと思い書きました。パンデミックの真っただ中だったので、感染症と今の専門の認知神経科学に合わせて、感染症がもたらした差別に着目して書きました。それを発展させて修士論文を出しました。
 今年3月アメリカ国際学会で成果を発表することになりました。中々留学生の論文発表の場がないので、先生方からこういう機会を提供していただき、留学生として日本語能力を試すこと以上に書く人も読む人もより高度なロジックで世の中の問題を考えて理解できるようになるとても素晴らしい場であると思っています。
 日本で暮らしながら、意外と日本は外国人も多く国際的な社会であると思っています。日本人の方々も国際交流に興味をもっていてくださっています。色々な方と交流でき日本語も上達し、言語も学ぶことができました。先生方がおっしゃった国粋主義とか排他主義ではなく他の国の文化とか多様なものを理解できるようになったと思います。
 今年の4月に学振特別研究員の成果として本件を書かせてもらいました。目指す研究者像を書く欄があり、「日本を中心とした世界的な研究として位置づけられる」と書きました。パンデミックによる差別や日本をベースとした研究を行うことで、今回の受賞をさらに発展させ、よい成果を共有出来たらと思っています。

KANG, Yoonji(カン・ユンジ)【韓国・2021年度銀賞】
現在、グローバル総合物流企業勤務。留学した時につらかったこともありましたが、3年後、5年後にはつらかったことも良い思い出になると思います。頑張ってください。

 2022年の受賞した方々、おめでとうございます。
 早稲田大学アジア太平洋研究科を去年春卒業し、今韓国にいます。日本語で話すのも久しぶりです。今は、ロッテグローバルロジスティックスという物流会社で新規事業を開発する仕事をしています。
 セミナーハウスの論文コンクールは2~3回くらい参加しました。2017年日本で大学に通ったときに最初に挑戦し、何回も挑戦の末2021年に受賞しました。
 今、多くの方が留学しているようですが皆さん頑張ってください。日本留学した時が人生の中で一番多くのことを学ぶことができた時期でした。最初、鈴木館長がおっしゃった通り、日本に来て客観的に自分の国の姿を見られたし、外国に来て文化は異なりますが、同じ人間ということを感じることができました。留学した時につらかったこともありましたが、3年後、5年後にはつらかったことも良い思い出になると思います。皆さん頑張ってください。

【歓談(コーディネータ:孫国鳳先生)】

孫先生:

 カンさんが韓国にいることにびっくりしました。参加されたのは3回だと思います。とてもよく覚えています。韓国に帰るきっかけはなんだったのですか。

カン・ユンジさん:

 大学に入った時には日本で就職したらいいと思っていましたが、コロナで。物流会社で働いているので、日本で就職する機会があればまた日本に行きたいです。

孫先生:

 Zoomなので、皆さんに対して私から質問します。座談会ですが、お願いするテーマについてお話しください。
  • ネイコウさんに「現実社会でステレオタイプについてどう考えているか」
  • オ・ハヌンさんに、「今のハヌンさんだったら経済発展と幸福についてどう思うか」
  • チェ ジェユンさんは、「日本を中心とした研究をしたいとのことだったので、二年たった今の感染症についてどう思うか」
  • カン・ユンジさんは、「韓国のデジタルディバイドについて」
  • リ センセイさん、お話を聞いて涙が出るような気がしました。「うつ病になっている方にどのように接すればいいか」についてヒントをいただきたい。
  • レオニダ ランザル ラリオクさんは、ボランティア活動に積極的に参加していることに尊敬します。「卒業されたら、何をやりたいか」
  • カ キカンさんは、理系の学生なのに論文コンクールに参加してくださったことに感動しています。「自分の関心、社会に対する関心問題について」
  • リン シーロンさんは、「SDGsについて」現状を少し紹介してください。

オ・ハヌンさん:

 経済発展と幸福のかかわりについて。人類において大きな、言ってみれば雑駁なテーマ。その当時は、世界を対象にした論文でしたが、今は地域経済、地域衰退が著しい大分県とかを対象に経済発展と地域住民の幸福がいかに相互作用しているかについて関心があります。非常に難しくて、何をもって幸福かということがあります。所得・仕事と折り合いがついているのか、それによって幸福度が変わってくるのが幸福の経済学。それを高めていくためには、どれだけ自分の余暇生活が自由に送れるとしても仕事があまりうまくいかないとか、所得が低くて自分の買いたいものが買えないという状況だとそれに対して友達と遊べているから幸せでしょうとは言えない。どのような問題がおこるかといいますと、基本的に所得を高めるために経済成長しないといけないです。企業が成長して従業員たちの賃金を上げたりすることが求められます。企業が成長して地域経済が発展するためには必ずその中で競争が起こります。競争は誰が誰より強いとか弱いとかいうもの。そうすると必ず零れ落ちる人が出てくる。零れ落ちる人は幸せではなくなる確率が高いということがあります。一方で零れ落ちる人はいるものの経済発展していくと、地域住民全体の幸福度が高まる確率が高いということが言えます。経済発展と幸福のかかわりについて明確な答えを出すことはすごく難しくて、それができれば世界的に有名な学者になれるはず。僕もそれを勉強しながらとても難しいと感じています。
 大学院の論文テーマは地域経済活性化とスポーツ。

孫先生:

 先生に相談すると色々言って貰えると思いますが、研究者になるために一つの問題について調査して論じるように進めた方が良いと思います。テーマをみてロマンを感じました。論文は良くまとめたと思っています。これからもどうぞよろしく。頑張ってください。

チェ ジェユンさん:

 感染症による影響が今でも続いているかについて。元々感染症というのは歴史の中でずっと繰り返されてきたものです。感染症による差別、民族主義、国粋主義の変化は2008年にエイズ感染症が広まった時に民族主義が増加したという研究結果が出ています。コロナ禍でそれがそのまま立証されたようで悲しいなと思いながら、そのような研究をなぜ証明してこなかったかを不満に思っていたところでした。
 今、非常事態宣言も終わり、WHOもパンデミック終了と発表していますが、実際起きていることを見ると、日本を含めて社会的に緊張感が高まっていると思っています。戦争を含めた社会問題や様々な問題が厳しい様相を見せていると思うのです。これらが感染症とは関係ないかというとそうでもないと個人的には思っています。それを仮定して研究をしています。投稿した論文にも書きましたがパンデミックによる精神的な影響は終わっていないし、終わったことも特にはないと思っています。

孫先生:

 感染者も増えていますよね。どう向き合うか全体の社会問題で難しい問題。色々な問題、文化とか、個人の人格とかいろいろ関係がありますよね。

カン・ユンジさん:

 韓国のデジタルディバイド問題について情報格差の事例を紹介します。日本もそうですが、銀行の店舗がなくなりスマートフォンで銀行業務を処理することができるが、使えない方には不便な状況になっています。提供してもらえる情報もインターネットを通じたら簡単に見ることができますが、スマートフォンの苦手なお年寄りの方は情報にアクセスしにくいです。コロナのせいで情報化が進んでいて、マクドナルドではタッチスクリーンに代わっていて、その前で迷っている多くの方を見ました。どうやって注文すればいいか聞いて横でサポートしてあげたことも何回かありました。問題ではないかと思い、その状況を見て論文を書くきっかけになりました。

リン シーロンさん:

 SDGsの概念等について。最近日本政府が大きく取り上げています。皆さんもたぶんニュース・新聞等でSDGsの事を見たことがあると思います。現状について日本はSDGsに力を入れている国だと思います。途上国では、SDGsに対して取り組む余裕がないという現状もあって、環境問題は一つの国で解決することではなく、すべての国が一緒に取り組むべきだと思います。途上国が経済などの課題があってSDGsに取り組む余裕がないと、世界は全体的にSDGsの目標を達成しにくいと思います。SDGsは環境のみではなく、社会的な面・経済的な面もあります。

孫先生:

 SDGsについて全体像が分からず、花澤先生に教えていただき論文を確認しました。花澤先生、急ではありますが一言ありますか。

花澤先生:

 SDGsは持続可能な社会のためにみんなが実現に向けて努力していくべき目標ですが、リンさんの論文はSDGsという目標を達成するには、実際には社会的にも経済的にも困難な問題をたくさん含んでいますよという気付きをみんなにもたらすような論文であったと思います。社会に潜んでいるSDGsウォッシュのような問題や、先進国と開発途上国の問題、すなわち南北問題をどう解決するかといった経済的問題が指摘されていました。「誰一人取り残さない」ということの意味を真に理解し国際社会が一丸となって協力し合って真摯にSDGsに取り組んでいくことの重要性はリンさんのご提案通りであり、困難を乗り越えるためにどんなに強調しても強調しすぎることはないと思います。

孫先生:

 カ キカンさんの願いを論文で読み取りました。理系なのに社会問題になぜ興味をもったのか教えてもらえますか

カ キカンさん:

 研究は、Windows上でシステムを作ることです。理系の研究はつまらないです。毎日報告書などを書いています。社会は交流が必要で面白いと思います。様々な社会の交流会に参加して新しい人と出会って交流することが好きです。時間があれば運動しています。バスケットボールで遊んだりします。東京オリンピック延期の時にとても嬉しくなかったです。それなので様々な考え・気持ちを論文で書きました。

孫先生:

 理系の勉強をしながら社会問題に関心を持つということは生活を豊かにするということでは理系学生の皆さんにとってお手本になる良いことです。私が担当する授業の学生は皆理系です。中国に関してどれくらい知っているかと聞くと「知らない」、他の国の事を聞いても「わからない」と回答が来ます。自分の住んでいる世界だけでは面白くないと感じていることは大事だと思います。文系の方にも目を向けた方が良いと思う。日本語は今後勉強していただきたいですが、観点・考え方を示して頂いたことは良かったと思います。

リー センセイさん:

 うつ病の方とどう接すればいいかという点について。話が通じ合わない、笑顔が無い、表情がわからないといった「うつ状態」ということは周りからわかると思います。本人は相手の気持ちに感謝していると思いますが、逆にその気持ちが負担になってしまうことがあります。友人や身近な人ができることは見守ることだと思います。

孫先生:

 質問はしない方がいいのですよね。

リー センセイさん:

 うつ病の状態により違うと思います。してあげるのではなく、話したくなったらここに居るよ、いつでも話してくれたら話を聞きますよ。支えるようにしたら負担やプレッシャーなくお互いにいられるのではないかと思います。

孫先生:

 外国語大学の留学生支援会の幹事をしています。活発な方が多いですが、親戚等からの紹介の方がいて、その中に「うつ病」っぽい方がいます。どう接したらいいか考えています。質問が来たら優しく答えてあげる、今は信頼して話してくださるのですが、長い間連絡がないことがあります。連絡が無い時は待った方が良いですね。

リー センセイさん:

 待つという選択肢も良いと思いますが、時々自分から聞いてみてもいいと思います。

孫先生:

 私も家族に頼まれたので悩みなのです。

花澤先生:

 今、うつ病というくくりより、更に大きなくくりにおいて精神的な問題というのが日本の大学で問題になっています。対応には難しい問題があります。お答えいただいたように、何かしてあげるという感覚ではなく、むしろ自然な中での自然な会話をすることが大切であり、その人が精神的に病んだ状態にあるから特別に何かしてあげるのではなく、特別と捉えず、自然な中での会話・思いやり等の対応が求められているということを大学の勉強会で学んだことがあります。
 リーさんのお話で素晴らしいと思ったことは、私たちはどうしても日本人の問題に目が向きがちですが、リーさんはご自身の日本での体験から、自国との文化の違いなどにより心の病を引き起こしてしまった外国人に寄り添えるカウンセラーになりたいとおっしゃっているという点です。身をもって体験したリーさんだからこそできるそういったカウンセラーになりたいと思われたのは、この論文がそういう方向に進む弾みになったと捉えましたがいかがですか。

リー センセイさん:

 留学生だけでなく、悩みとか病んでる(言葉はよくないかもしれませんが)皆の支えとか自分が少しでもお手伝いできればいいなと思っています。

花澤先生:

 留学生を含めみんなの相談に乗れる人になりたいということですね。

孫先生:

 私もリーさんと同じ考えです。頑張りましょう。

鈴木館長:

 私も経験があるのです。パリ国際大学都市日本館で館長をしていた時、日本の留学生を預かり同じ留学生会館で暮らしていました。精神科のお医者様がサンタンヌ病院という有名な精神科の病院に留学しました。躁鬱型という元気な時には非常に朗らかで、落ち込んでくるとほとんど黙ってしまうという方がいますが、お医者さんでありながら鬱になってしまいました。どういう風に我々が接しないといけないか。サンタンヌ病院は色々な国のお医者さんがいらっしゃいました。館長として、鬱になったお医者さんにどういう風に接したらいいかを聞いたら、「一番いけないのはプレッシャーをかけること。積極的にやればやるほど、却って相手が落ち込む。たとえ善意だとしても、自分たちがあなたを心配していると励ましたり、非難してはいけない。自然に接することしかできない。何か用がある時には普通の態度で普通に接してください。何かあれば鬱になった人から話しかけてくるので普通に話してあげてください」ということでした。お話の内容に本当にそっくりだなと思いました。論文を読んだ時もこのことを思い出しながら読みました。周りが過剰に反応しては絶対にいけないということです。そこのところをうまくやってくださいね。

孫先生:

 問題は沢山あるけど褒めてあげています。

鈴木館長:

 自然なら良いんですよ。わざと持ち上げていると向こうが感じたらまた駄目になってしまいます。

ネイ コウさん:

 今の仕事はメーカー関係でメディアではないですが、メディアについての感想を結論から言いますと、世界中の状況は益々悪くなっていると思います。日本は日本なりに西側サイドの観点に寄っていっている。仕事関係で中国出張・韓国出張もあります。国の独特の報道の仕方は偏っています。日本で得ている情報と英文の記事の内容は同じことを言っているが観点が全然ずれています。ウクライナ戦争もそうですが情報の格差がどんどん加速し、かけ離れています。グローバル化というより離れてきていると思います。一生懸命経済でやりましょうと言いながら裏で離れているというのが実感です。
 また、最近のAIやデジタル化等、データベースは怖いです。YouTubeのビデオを見ると似たようなものがどんどんピックアップされてきます。元々好きなものと同じような動画が推奨されて見てしまう。昔のニュースであれば色々な観点があって読めばよかったが、今は自分の好きなニュースしか入ってこないので、益々自分が正しいという感じがしてしまう。毎日、検索しなくても広告が出てしまう。

鈴木館長:

 私の経験も同じですよ。トランプとバイデンが仲良くなれるかというと、今みたいなツイッターやSNSがはびこっている間は仲良くなれないと思います。全部自分たちの好きな方しか向かないから。益々対立が激しくなってくる。分断化をメディアが心配しているように言っていますが、メディアがあおっているのではないかと思う。

孫先生:

 現状の中で私たちはどうしないといけないのか。個人として努力していかないといけないと思う。実際にその国に入って人々と接することが大切だと思います。

レオニダ ランザル ラリオクさん:

 どういう仕事をしたいか。日本語学校に入った時は、日本語を学んでどんな仕事でもしようと思っていました。神戸では、阪神淡路大震災によってNPO/NGOが流行っており、私はユネスコクラブの代表をしています。色々なボランティア活動をやっていて外国人の力になりたいと思っています。NPO/NGO以外で神戸の市役所で外国人のための支援をしているところや、神戸教育委員会の外国人の通訳等もやっているので、卒業してからそういう仕事をしようと思っています。
 うつ病の話がでてきました。神戸で通訳のサービスがありますが、例えば、私の友達の気持ちを伝えられなかったです。日本語の壁もあるし、うつ病になっている時は、フィリピンに帰りました。神戸市はどうすればいいかとても考えていて、花澤先生がおっしゃった通り対応するのが難しいですね。そういう外国人のために私は外国人を手伝う仕事をしようと思っています。

孫先生:

 最近私が感じていることは、政治問題・国際問題、政治・経済では経済が重要だと思われていますが、文化が一番重要だと思います。その国の文化を尊重しながらその国の人と接していて、その中で国際関係をどうするかと考えるべき。今現在それを乗り越えても同じ次元の政治、例えばウクライナ戦争等の政治問題に偏っていると感じています。多分、留学生であれば同じように感じるかもしれません。
 皆さん色々な国の文化について研究していただきたい。分かった上で自分の出発点でどう解決すればいいのか答えが出てくると思います。

花澤先生:

 グローバルイシューについて様々なことを考える上で情報は大変重要なものです。情報を伝える役割を担うメディアはとかく政治や外交、国際関係に偏りすぎる傾向がありますが、今日のような国際情勢にあるときほど、もっと文化や社会的側面に関わる報道があってしかるべきであり、多角的な視点による情報がそれぞれの関係性の中で発信されることが大切だと思います。

【情報共有の場のご提供について(外村幸雄)】

facebookのプライベートグループを作りました。
グループ名:「留学生論文コンクール」
対象   :2021年・2023年座談会出席者(15名)、2022年度受賞者(5名)
      花澤先生、孫先生、鈴木館長、事務局
語りつくせなかったこと、この方に話を聞きたい等、参加者同士がお話し合いできる場になると良いと思っています。
自由闊達に交流できる場になると良いなと思っています。

【写真撮影】

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