セミナー・イベント

第2回アメリカセミナー
「転換期のアメリカ未来を探る」

実施報告

期日 2020年10月3日(土)
対象 大学生(大学院生、留学生を含む)、社会人
参加人数 71名(10大学、社会人3名を含む)
参加費 大学生無料、社会人3,000円
会場 Zoomミーティングルーム
主催 公益財団法人 大学セミナーハウス

【開催趣旨】

 今日アメリカには根本的な変化が起こりつつある。これまでアメリカは「リベラルな世界秩序」の盟主を自負し、その関与の度合いやあり方に濃淡はあったものの、世界秩序への関与そのものを放棄することはなかった。そのアメリカに、「米国第一」を掲げ、気候変動対策のためのパリ協定など、様々な多国間協調枠組みに背を向け、露骨に国益を追求するトランプ政権が誕生したのである。トランプ政権は、世界秩序に関心を持っていない。民主主義や人権など、従来アメリカ外交が-その実践には数々の欺瞞があったにせよ-目標として掲げ続けてきた価値観にも関心を持っていない。国内でもトランプ政権は、報道の自由や人権など、憲法が定めるところの基本的な価値をさまざまに蹂躙している。トランプ政権に対し、当然メディアは批判を強めている。しかし他方で、トランプにいかなる批判が寄せられても、むしろメディアに叩かれるからこそ、強固に支持し続ける「岩盤支持層」も存在する。
 アメリカは今後どうなっていくのか。アメリカの政治外交をよりよい方向へと軌道修正していくために、メディアや市民、国際社会、同盟国である日本は何をすべきか。トランプのアメリカについて考えることは、単にアメリカという一国の問題を超えて、民主主義や人権という人類がこれまで育んできた基本的価値の行方について考えることでもある。アメリカのいまを知りたい人のみならず、世界秩序と地球の行方に関心を持つ人の参加を広く歓迎する。 (企画委員長 三牧聖子)
 

【まえがき】

  10月3日、第2回アメリカセミナーは今年Zoomを用いたオンラインで開催することになりました。参加者同士で直接会えませんが、Zoomのミュートを解除しビデオをオンにすればお互いに普通にお話しすることもできますので閉塞感があまりない感じでした。ただ昨年セミナーハウスでの1泊2日の盛況とは感じが違い、講師の前田幸男先生「会いたかったな」のお言葉に共感しました。今年のアメリカセミナーの開催はちょうどトランプ大統領と民主党候補のバイデン氏の第1回テレビ討論の直後でタイムリーでした。
  セミナーは元々2日間のスケジュールを1日に短縮して午前10時半から午後4時までに開催しました。鈴木康司館長の開会あいさつ、企画委員長の三牧聖子先生より今回のセミナー開始趣旨説明の後、パネルディスカッションの時間に入り、三牧聖子先生、前田幸男先生、五野井郁夫先生、峯村健司先生からアメリカに対するそれぞれの見解を述べたうえ、デスカッションを展開しました。
  オンライン上においても分科会の時間ではブレイクアウトルームを利用して参加者を四つの分科会に分けて先生のご指導を受けました。先生の指導の下議論を展開する分科会もあり、先生のまとめたアメリカ史の講義を受けた分科会もあって、それぞれの収穫を最後の全体会の時間において発表されました。

 

【開会の辞】

 昨年第一回のアメリカセミナーとして対面型のセミナーを開きましたが、今年は皆様もご存じの通り、コロナウィルスに世界中が汚染されている現状にかんがみましてこのようなオンライン・セミナーの形をとらざるを得ませんでした。
今回も企画委員長の三牧聖子先生をはじめ、講師として五野井先生、前田先生、さらに昨年の高木先生に代わりまして、今回は朝日新聞編集委員で外交・米中関係担当の峯村健司先生のご参加を得て、「転換期のアメリカ未来を探る」という興味深いテーマを選んでいただきました。お忙しい先生方が、セミナーハウスのために時間を割いてくださいましたことに館長として厚く御礼申し上げます。また高木徹先生、松本佐保先生にはわざわざ参加してくださるとのこと、これもまた厚く御礼申し上げたいと思います。
 昨年私は、かつてフランス滞在中にアメリカとソ連が起こした、二度にわたる世界的な事件、一つは1962年のキューバ危機、もう一つは核戦争に勝者はいないというゴルバチョフの信念による1980年代の冷戦の雪解けと、ベルリンの壁につづく、東ドイツの崩壊、これらについて述べさせていただきました。
今回はむしろ、アメリカ大統領トランプの、予測のつかない言動や政策による世界的混乱の結果が、11月の大統領選挙にどんな影響を及ぼすか、世界全体の政治的構図ということを考えますと、いささか私個人不安を覚えていることを申し上げたいと思います。
 2020年現在、世界の政治を日本から見ますと、西の果てにあるベラルーシ大統領による、国民の意志を示した選挙結果の改ざんとそれに対する抗議への弾圧、ロシア政府による政敵抹殺の試み、プーチン大統領の終身制度への可能性、中国共産党による民主主義と三権分立の否定、それに伴う香港人民への弾圧、また習近平への過度の個人崇拝と膨張主義路線、そして、独裁政治そのものである北朝鮮など、全体主義のベルトが再構築されつつあるような状態であります。これに対し、ヨーロッパ諸国と足並みをそろえるところか、むしろ無視という形で自国の利益を振りかざして立ちふさがったのがアメリカのトランプ大統領だと思います。一見、民主主義の守護者のような形をとっていますけれども、よく見ますとその中身は岩盤といわれる自分の支持者たちへの感情的な、国粋主義的アッピールであり、力を妄信する保守層への選挙目当ての行動にも感じられます。特に先日行われましたバイデン候補との討論会をみますと、この人は世界一の大国アメリカの指導者にふさわしいとはどうしても思えない品性の欠如をさらけ出したと思います。
一方、台湾や韓国と並んで日本もアジアにおける民主主義国家を標榜していますが、やめたばかりの前首相は日本を敗戦前の帝国主義体制に戻そうと考えている日本会議の有力メンバーであるとの説があり、引き継いだ首相もその路線継承だとのことです。こうして見渡してみますと、アメリカ大統領の選挙がこれからの世界に及ぼす影響は計り知れません。トランプ引っ掻き回された中近東の状況もひどく不安定だと思います。
 ともすれば内向きだといわれております現在の日本の若い人たちはその視野がもっともっと国際的な広がりを持っていただきたいと願いのは、我々高齢者だけではないと思います。参加者の皆様にはこういう国際的な広がりを持ったセミナー、非常に優秀な現役の先生方がお集まりくださって開いてくださる、こういうセミナーでできる限りの果実をつかんで、そして今後のご自分の進路に生かしていただければ我々としては大変幸せでございます。(大学セミナーハウス館長鈴木康司)
 

【分科会】 13:00~15:00

 第1分科会
テーマ:『普通の国』アメリカ-例外主義の終わり?
担当講師:三牧 聖子先生(高崎経済大学)

第1分科会講師三牧聖子先生

主旨:建国以来、アメリカと世界との関わりあいを特徴付けてきたのは、利己心を捨てられない諸国家とは異なり、アメリカは普遍的な理念を追求する「例外」国家だという自意識であった。こうした意識を背景に、20世紀のアメリカは軍事力、経済力、他国をひきつけるソフト・パワーで他を圧倒し、国際秩序の盟主として振る舞ってきた。しかし2020年の今日、アメリカに広がるのは、アメリカも他国と変わらない「普通の国」であり、自国の問題に専念すべきだという内向き志向である。分科会では、「アメリカの世紀」と呼ばれた20世紀を概観した後、傷ついたアメリカのいま、アメリカの向かう将来について議論する。

第2分科会
テーマ: 気候変動問題とアメリカ
担当講師:前田 幸男先生(創価大学)

第2分科会講師前田幸男先生

主旨:トランプ大統領は、温室効果ガス削減を誓ったパリ協定からの離脱を高らかに宣言した。他方でこうした動きに州レベルでの反発もあり、国と州の緊張が高まっている。当分科会では、こうしたトランプ政権のエネルギー政策の是非についての議論を糸口としつつ、アメリカで発生している異常気象(山火事や大寒波など)が、決して旧約聖書の再来ではなく、人間の振る舞いの集積の結果として発現していること、そして、こうしたアメリカ的な豊かさがどのような犠牲の上になり立っており、さらにはそうしたあり方をどのように変革できるかについて考える機会とする。
 

第3分科会
テーマ: アメリカ現代思想の世界展開
担当講師:五野井 郁夫先生(高千穂大学)

第3分科会講師五野井郁夫先生

主旨:いわゆるGAFAと呼ばれる4大インターネット企業を生み出し、ポピュリズムから#MeToo#BlackLivesMatter運動の震源地になったアメリカ。それらの思想はどこから来て、今後どこへ行くのか。本分科会では、ポピュリズムやフェミニズムの現在、ポリティカルコレクトネスの「リベラル疲れ」の問題、エコロジーやベジタリアンなどとヨガなどのマインドフルネスの隆盛、カウンターカルチャー由来のシリコンバレー的なインターネットの思想の行方まで、アメリカから始まり世界に普及した考え方の現在と今後の世界政治に及ぼす影響を、受講生とともに考えてみたい。

第4分科会
テーマ:翻弄される東アジア――香港、北朝鮮、台湾、そして日本
担当講師:峯村健司先生(朝日新聞)

第4分科会講師峯村健司先生

主旨:現在、東アジアの国際秩序は、大きな変化のなかにある。反政府デモで混乱を極める香港。香港で起こっていることへの危機感から、総統選で蔡英文が圧勝した台湾。南北融和と非核化への機運が生まれたかのように思われたものの、現在は膠着状態に陥っている朝鮮半島情勢。本分科会では、講師がアメリカ、中国での取材経験から得た知見を生かしながら、米中両大国の覇権争いは東アジアに一体どんな影響を与えているのか、そこで日本のとるべきポジションについて検討したい。

【全体会】15:00~16:00
分科会報告・知の共有

 分科会時間の後、知を共有するための全体会において各分科会での講師講演と議論の内容及び個人的に得たことについて発表してくださいました。分科会代表発表者、第1分科会は伊藤暁さん、戸澤愛美さん、境祐介さん、第2分科会は梅津秀明さん、内山和さん、第3分科会は古川遼さん、松本健太さん、波多野綾子さん、第4分科会は角尾十和さん、後藤亜藍さんです。分科会の内容について4人の講師先生からまとめた説明とコメントもいただきました。最後に当法人荻上紘一理事長は「来年も聞かせていただくのを楽しみにしており、来年はぜひ皆で顔を合わせた形で実現できればと願っております」との閉会の辞がありました。
 

【修了書交付】
メールにて送付いたします。

【参加状況】 71名

クイーンズランド大学1、神戸大学大学院1、國學院大学1、国際基督教大学26、創価大学16、高千穂大学20、中央大学1、東京都立大学1、東京大学1、社会人3

【参加者の声】

*まず三牧先生のプレゼンテーションを通して,いかに自身の持つBlack Lives Matter運動に関する情報が偏ったものであったかを 痛感しました。白人の若い世代や警官もこの運動に参加していたり,ほとんどのBLM運動は平和的なものであったりすることなどはこれまで全く知りませんでした。その他の講師の先生方のお話でもOKサインが白人至上主義的な意味を有していることや,トランプ大統領が2016年になぜ当選して現在も一定の支持層を獲得しているのか,ということなど多岐にわたる視点からアメリカという国を捉えることができ,私にとって非常に学びの多い全体会でした。

*普段は師事している講師からの講義だけですが、それぞれの講師の方々の意見交換を聞けて、情報共有の大切さと、それらを自分の中で総合的に分析することの難しさを改めて学べました。

*長い歴史を網羅でき、今ある背景を学べた。

*第1分科会では主にBLM運動と日本,日本における人種という概念のあり方,米国の対テロ戦争という点について議論を行いました。多くの参加者が日本人の人種差別に対する意識の薄さを認識していると感じ,私は「日本は特別な国である」ということを無意識のうちに信じ込んでいる人が多いことがその原因の一つなのではないかと思いました。「日本固有」の文化を有する唯一無二の島国である日本とそこに住む「日本人」としての意識から,人種問題含め国外の事象に対して意識を巡らせていないことが疑問視されず,逆に正当化されている様な気がしています。そのような人種に対する意識が洗練されていないために,モラルの欠けた広告やアイドルの衣装が日本では容易に受け入れられてしまっているという意見に非常に納得しました。対テロ戦争において米国は常々「世界平和のために行っている」と表明していますが,米国にとっての世界平和は「米国をトップに据えた,法による国際社会の秩序の保たれた世界」である様に感じます。現状として米国は経済面,社会保障面での弱体化が露呈して疲弊していますが,米国は他国と対等な関係を築くことはこれから先もあまり積極的には行わないのではないかと思いました。この他にも上記の論点において多くの新しい情報を得て自身の考えを構築することができ,とても有意義な分科会でした。
 
*現在の米中関係・東アジアの現状を、終わっていなかった冷戦という視点で語っていただきました。非常にダイナミックな流れを見せていただきました。香港での国家安全保障法成立を、民主主義陣営の敗北というふうに考えたことがなかったので、非常に新鮮でした。
 
*アメリカの政治史思想の歴史を18世紀あたりから遡って、独立宣言や南北戦争などに触れながらお話しいただきました。政治面だけでなく、映画や文化なども扱いながら解説していただいたので、いろいろなことが自分の中で繋がっていきました。また、奴隷解放運動から女性運動や環境保護運動への広がりを見せたと伺い、現代の動きにも影響を及ぼしていることを知り、とても興味深かったです。
 
*五野井先生から、アメリカの思想やアメリカ史全体を二時間で学ばさせていただきました。今のBLM運動、ハッシュタグ運動、女性の権利等に関する運動というのは、アメリカの思想の歴史と深くかかわっているということが分かりました。印象的だったのは、1940年代には奴隷が動物以下の存在と思われていたこと、奴隷とはどのような存在かというところから、黒人自身による解放運動がBLM運動にどのように繋がっていったのかという部分、またアメリカの自然に対する考え方が印象に残りました。非常に勉強になりました。ありがとうございました。
 
*峯村先生は現在で中国や香港、台湾について取材をされている中で、その取材での情報を交えて東アジアの情勢を話してくださったことが大変貴重な機会となりました。特に香港の問題について今まで自分が考えたことがなかった視点でお話をしてくださり、自身に取って大変勉強になりました。また、他の大学の学生さんの意見を聞くことができたのも、貴重な機会となりました。
 
*今回のセミナーはどの分科会のトピックにも興味があったため,全体会2で各分科会での議論のダイジェストを聞くことができて非常に勉強になりました。特にアメリカで聖書の次によく読まれている本が富裕層を保護して善行を非難する本であるということや,中国の上層部が民主主義や選挙制度について根本的に違う認識を持って疑わないということに驚きました。最後に華夷秩序の話がありましたが,授業で聞いてから非常に興味を持っているのでその基盤となっている思想から勉強していきたいと思います。それと同時にアメリカ思想も学んでいきたいです。
 
*総合した意見と言っても、各分科会の担当の先生などか助言をしてくださっていて、非常に理解しやすかったです。また、今回のセミナーで感じた一番のことは、これだけ幅の広い各分野のプロフェッショナルの方々が集いながら、講師の先生方はあくまで議長のような立場に徹し、我々から考えを引き出すことに尽力してくださっていたということです。意見交換の密度の高さが窺えました。

*大学セミナーのイベントに参加するのは今回が初めてでしたが,各分野の最前線で活躍されている先生方から直接お話を伺うことができ,さらに意見交換もできるという点において私がこれまで参加したものの中で最も充実感の高いセミナーでした。オフラインであれば可能だったのかもしれませんが,全体会2が終わった後に自分が参加したものとは異なる分科会の先生に質問することが可能な時間を設けていただきたかったと少し思いました。しかし本当に多くのものを得ることができるセミナーを開催していただき,ありがとうございました。次回はぜひオフラインで参加させていただきたいです。
 
*非常に充実していました。各分野の専門の先生方や同世代の学生さんのお話を聞くことができた、貴重な機会でした。また参加させて頂けたら嬉しく思います。ありがとうございました。
 
*初のオンラインでの運営でご心労多かったとお察ししますが、特に目立ったトラブルも無くスムーズに聴講でき、非常に学びの多いセミナーでした。ありがとうございました。
 
*大変良い機会となりました。来年は、ぜひ対面で参加させていただきたいです。ありがとうございました。
 

【講師兼企画委員】

 委員長

三牧 聖子(高崎経済大学経済学部国際学科准教授)

 委員

前田 幸男(創価大学法学部教授)

五野井 郁夫(高千穂大学経営学部教授・国際基督教大学社会科学研究所研究員)

峯村 健司(朝日新聞編集委員「外交・アメリカ中国担当」・北海道大学公共政策学研究センター研究員)

お問合わせ先

公益財団法人 大学セミナーハウス
 セミナー事業部

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 TEL:042-676-8512(直)FAX:042-676-1220(代)
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