セミナー・イベント

第1回アメリカセミナー
「変動する世界とアメリカ」

実施報告

期日 2019年9月28日(土)~29日(日) 1泊2日
対象 大学生、大学院生、留学生、社会人、高校生
会場 大学セミナーハウス(東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人 大学セミナーハウス

【開催趣旨】

 今日アメリカには根本的な変化が起こりつつある。これまでアメリカは「リベラルな世界秩序」の盟主を自負し、その関与の度合いやあり方に濃淡はあったものの、世界秩序への関与そのものを放棄することはなかった。そのアメリカに、「米国第一」を掲げ、気候変動対策のためのパリ協定など、様々な多国間協調枠組みに背を向け、露骨に国益を追求するトランプ政権が誕生したのである。トランプ政権は、世界秩序に関心を持っていない。民主主義や人権など、従来アメリカ外交が-その実践には数々の欺瞞があったにせよ-目標として掲げ続けてきた価値観にも関心を持っていない。国内でもトランプ政権は、報道の自由や人権など、憲法が定めるところの基本的な価値をさまざまに蹂躙している。トランプ政権に対し、当然メディアは批判を強めている。しかし他方で、トランプにいかなる批判が寄せられても、むしろメディアに叩かれるからこそ、強固に支持し続ける「岩盤支持層」も存在する。
 アメリカは今後どうなっていくのか。アメリカの政治外交をよりよい方向へと軌道修正していくために、メディアや市民、国際社会、同盟国である日本は何をすべきか。トランプのアメリカについて考えることは、単にアメリカという一国の問題を超えて、民主主義や人権という人類がこれまで育んできた基本的価値の行方について考えることでもある。アメリカのいまを知りたい人のみならず、世界秩序と地球の行方に関心を持つ人の参加を広く歓迎する。 (企画委員長 三牧聖子)
 

【まえがき】

 「変動する世界とアメリカ」セミナーは1泊2日で開催し、アメリカを専門とする学生やアメリカに関心を持つ社会人等54が参加されました。トランプ大統領就任後のアメリカは「リベラルな世界秩序の盟主」から「米国第一」を掲げるようになり、それまでのアメリカのイメージを変えたと思われるような、目まぐるしい変化がありました。なぜアメリカがそうなったのか、アメリカの今後はどうなっていくかの疑問を抱く方が少なくありません。本セミナーは4人のアメリカ研究者を迎え、「トランプ外交と世界秩序」、「気候変動問題とアメリカ」、「世界秩序の中の日米安全保障体制」、「トランプとオバマの国際メディア情報戦」の4つの分科会に分けて、各課題をめぐり、徹底的に分析・議論をし、最終の全体会において、各分科会がまとめた議論の結果を発表する、との展開でした。
 

【開会式】 9/28

開会式会場模様

大学セミナーハウス館長開会の挨拶

大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶

  主催者として一言ご挨拶いたします。かつて、当セミナーハウスでは毎年のようにアメリカを研究するセミナーを、中央大学法学部の滝田教授を中心に開いておりましたが、滝田先生の定年退職を機に、しばらく中止しておりました。しかし、これまでとは全く異色のトランプ大統領の登場によって、この数年世界中が振り回されているという状況になった以上、当セミナーハウスがアメリカ関係のセミナーを企画できないのは実に残念であり、アメリカ研究者の方々のご協力を得て新たにこのセミナーを復活したいとの強い希望が実現したのは誠にうれしい限りであります。
 幸い、高崎経済大学の三牧聖子先生を中心に創価大学の前田先生、高千穂大学の五野井先生、NHKの高木先生と、気鋭のアメリカ研究者の方々が我々の要望をお受け下さり、この度の「変動する世界とアメリカ」というテーマにまとまった次第です。
 私自身の研究テーマはフランスでありますのでいささかずれておりますが、それでも、これまで、フランス滞在中に2度にわたってアメリカ大統領と旧ソ連共産党書記長が起こした歴史の曲がり角ともいうべき出来事を見聞したことがありますので、大いに興味をそそられますと同時にその出来事をご紹介してご挨拶に代えたいと思います。
 第一回目は1962年暮れのケネディ大統領対フルシチョフ書記長によるキューバ事件です。ソ連がアメリカの鼻先にあるキューバ―に各基地を置く計画を立て、ケネディがこれを阻止すべくキューバ―封鎖に踏み切る構えを見せた、冷戦中、最大の戦争危機と言われた事件でした。私は1960年からフランス政府の給費留学生としてパリにおりましたので刻一刻と入る虚実取り混ぜた報道に神経をとがらせ、万一、第3次大戦が起きた時にはどうすべきか必死に考えておりました。幸いに、この時はケネディの断固とした対応にフルシチョフが譲る形で核兵器を積んだソ連の船が引き返して危機が回避されましたのはよく知られた史実であります。
 二度目は1985年、パリ大学都市日本館の館長をしていた時です。ゴルバチョフ書記長がスイスのジュネーヴでアメリカ大統領レーガンと会談、核軍縮を提唱しただけでなく、翌86年には「再建」を意味する言葉、ペレストロイカを掲げて冷戦の修了に向かいました。そして80年代後半から90年代にかけて、ベルリンの壁崩壊、東欧諸国の民主革命など民主主義の勝利を象徴する出来事が重なりました。
 このように世界の大国アメリカは第二次世界大戦後、地球全体の平和と秩序に大きく関与してきたのです。ところが、「Make America great again」とスローガンを唱えながら登場してきたトランプは、世界全体を視野に入れた貢献には無関心、自国の利益だけが再びグレイトになれば良いといわんばかりの言動、パリ協定から脱退して地球上、最もクリーンな国はアメリカだと暴言を吐き、モラルのうえでは全然グレイトではない政策ばかり取ってきました。それでも彼の支持層はびくともしないといわれる状況です。このように、世界に影響を及ぼしながら、責任を感じていそうもないアメリカとはいったい何なのだろうというのが、私などの抱く疑問です。目下、トランプ大統領はイランを目の敵にし、中国とは経済戦争ともいえる状況をつくりながら、依然としてアメリカ自身は世界最大の経済大国であり、世界最強の武力を持っております。そんな国を知ることが現代の世界を知る出発点になるのではないでしょうか。皆さんがこの復活第一回のアメリカゼミで実りある収穫を得てくださることを心から祈りつつ、開会のご挨拶といたします。

【全体会Ⅰ】 9/28 基調講演

 「世界に介入するアメリカ、介入しないアメリカ」をテーマに企画委員長の三牧聖子先生が基調講演をしていただきました。建国から今日までのアメリカの歴史を客観的で簡潔でまとめたお話でしたので、参加者の方から「それぞれの分科会テーマを包括するアメリカと世界秩序の枠組が分かりやすく納得できた。」との声もありました。
 

分科会趣旨説明

三牧聖子先生

前田幸男先生

五野井郁夫先生

 高木徹先生

【分科会討論】 9/28~29

 第1分科会
テーマ:トランプ外交と世界秩序
担当講師:三牧 聖子先生(高崎経済大学)

第1分科会討論模様

主旨:第二次世界大戦後のアメリカは、アメリカは世界平和に責任を持つという自意識のもと、世界各地で軍事介入を行ってきた。しかし現トランプ政権は、「米国第一主義」を掲げてアメリカの安全保障や利害が直接的に関わらない地域や問題には、可能な限り関わらないという外交方針を打ち出し、多くの国民もこれを支持している。これまで私たちを悩ませてきたのは、「介入しすぎるアメリカ」であった。しかし今後私たちは、世界平和や世界の人権問題に関心を持たない「ひきこもるアメリカ」とつきあっていくことになりそうだ。内向きになるアメリカ外交は、世界秩序、日本にどのような影響を与えるのか。私たちはその変化にどう対応していくべきか。分科会ではこれらの問いを考えながら、世界秩序の未来を展望する。

第2分科会
テーマ: 気候変動問題とアメリカ
担当講師:前田 幸男先生(創価大学)

第2分科会討論模様

主旨: トランプ大統領は、温室効果ガス削減を誓ったパリ協定からの離脱を高らかに宣言した。他方でこうした動きに州レベルでの反発もあり、国と州の緊張が高まっている。当分科会では、こうしたトランプ政権のエネルギー政策の是非についての議論を糸口としつつ、アメリカで発生している異常気象(山火事や大寒波など)が、決して旧約聖書の再来ではなく、人間の振る舞いの集積の結果として発現していること、そして、こうしたアメリカ的な豊かさがどのような犠牲の上になり立っており、さらにはそうしたあり方をどのように変革できるかについて考える機会とする。
 

第3分科会
テーマ: 世界秩序のなかの日米安全保障体制
担当講師:五野井 郁夫先生(高千穂大学)

第3分科会討論模様

主旨: 日本を取り巻く安全保障環境が変化するなか、わが国は平和と安定のために防衛能力強化の一貫として、日米安保体制の強化による抑止力の向上に努めてきた。これまで日米両国は、弾道ミサイル防衛からFMS調達まで幅広い分野で防衛協力を拡大・深化させてきた。普天間飛行場移設や在沖縄米海兵隊のグアム移転など、在日米軍再編についても抑止力を維持しつつ、沖縄など地元の負担軽減に取り組んでいる。本分科会では、我が国をめぐる安全保障環境を把握した上で、今後の世界秩序と日米安全保障体制のあり方を受講生とともに考えてみたい。

第4分科会
テーマ:トランプとオバマの国際メディア情報戦
担当講師:高木 徹先生(NHKグローバルメディアサービス国際番組部チーフ・プロデューサー)

第4分科会討論模様

主旨: 冷戦後の世界で、国際社会の様々な局面でPR(パブリック・リレーションズ)技術を駆使してメディアを動かし世論の潮流を生み出す「国際PR情報戦」が戦われてきた。その本場アメリカでもオバマ大統領は洗練されたメディアリレーションズを行って激戦を勝ち抜き再選を果たす一方、冷徹にイスラム過激派のメディアスターを排除するなど、ひときわ高いPRマインドを見せてきた。他方トランプ大統領はPRの従来理論では最も味方につけるべきNYTやワシントンポスト、三大ネットワークやCNNを敵に回す驚天動地の新戦略で「岩盤層」に鉱脈を掘り出した。その「天才」的なPR能力は、リアリティーショーやWWEプロレスへの出演など、エンターテイメント系の番組体験から身に着けてきたと考えられる。「戦争広告代理店」のPRエキスパート、ジム・ハーフ氏が鳴らすトランプ糾弾の警鐘も伝えながら、オバマとトランプのあまりに対照的なPR戦略について探っていく。

【全体会】(分科会討論の結果発表) 9/29

第1分科会

第2分科会

第3分科会

第4分科会

【修了書交付】 9/29

第1分科会・第2分科会

第1分科会

第2分科会

第3分科会・第4分科会

第3分科会

第4分科会

参加者全員写真(9月28日)

【参加状況】 54名

京都大学1、杏林大学2、県立広島大学1、成蹊大学1、国際基督教大学2、創価大学11、大東文化大学1、高崎経済大学10、高千穂大学8、帝京大学1、東海大学1、東京大学1、日本大学1、八王子市学園都市大学2、社会人11
 

【参加者の声】

<基調講演について>
*三牧先生のお話されたテーマについて、4人の先生方が意見を交わされるのが面白かったです。
*今回のセミナーで議論を始める上で、必要な情報(歴史、アメリカの概要)について非常にわかりやすく。
*分科会を始めるにあたり、全体のポイント今セミナーの概容をおさえられる、わかりやすいものでした。
*前提としてのアメリカという国について共有できた。
*それぞれの分科会テーマを包括するアメリカと世界秩序の枠組が分かりやすく納得できた。
*新しい視座が提示されたので、以降の議論が進んだ。
*アメリカの全体的な歴史を理解することは、現在の世界の問題を考える上でとても大切だと感じました。
 
<分科会討論について>
*なかなか聞けないような話をきけたり、異なった考え方を持つ人の意見を聞くことでさらに自分の考えをあらためて考え直す機会になり、とてもよかったです。
*普段では取り組まない問題について深く考える良い機会だった。
*それぞれの問題や知識を、経験を踏まえながら聞けたことが良い経験となりました。
*全員で話し合いをして、意見を出し合って発表ができた。
*先生の分かりやすいご説明を伺うことが出来、今までの知識を整理する良い機会となりました。
*少人数であったため、質問もしやすく有意義な時間を過ごすことが出来ました。
 
<全体会の結果発表について>
*他の分科会の意見も聞けて勉強になった。
*他のテーマについても興味深いものが多く面白かったです。
*聞く楽しみ、しゃべる楽しみ、緊張感としての楽しみがありました。
*意外にバラバラな意見を各人が発表する方が、気つけることが多かった。
*多くの人々と学びをシェアできてよかったです。
 
<今回セミナーの総合評価>
*学生中心でありつつ、多様なバックグランドをもつ人達も参加することで多角的に議論できて有意義だったと思う。
*様々な学生、教員、組織の人と横断的に議論を深めることが出来ました。
*とても学びの深いものでした。刺激的でよかった。
*分科会だけでなく、懇親会でより深く聞けたり、同じ分科会の人と仲良くなれた。
*今まで知らなかったアメリカについて考えることが出来ました。

講師兼企画委員

三牧 聖子(企画委員長・高崎経済大学経済学部国際学科准教授)
前田 幸男(創価大学法学部教授)
五野井郁夫(高千穂大学経営学部教授
国際基督教大学社会科学研究所研究員)
高木 徹(NHKグローバルメディアサービス国際番組チーフ・プロデューサー)

お問合わせ先

公益財団法人 大学セミナーハウス
 セミナー事業部 国際部門

 〒192-0372 東京都八王子市下柚木1987-1
 TEL:042-676-8512(直)FAX:042-676-1220(代)
 E-mail:g-sun@seminarhouse.or.jp
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