セミナー・イベント

第7回 EUセミナー
「分裂に立ち向かうEU」

実施報告

期日 2018年9月28日(金)~30日(日)
会場 大学セミナーハウス
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
後援 駐日欧州連合代表部

趣旨

 昨年のフランスやオランダの選挙ではポピュリズム勢力の躍進は抑えられた。しかしドイツや中欧諸国ではそうならず、今年3月のイタリア議会選挙では左右ポピュリストの勢力拡大が顕著となった。その背景にはEU諸国における既存の政治体制に対する強い反発があった。加盟各国内部での社会経済格差、そして加盟国間の「南北格差(貧富格差)」が人々の不満として噴出した結果である。EUの緊縮財政政策や難民保護政策は人々の批判の標的となった。今回のセミナーはEU全体を覆うさまざまな分裂をテーマとして、その原因と克服について議論したいと思います。皆さんの積極的な参加を期待します。
(EUセミナー企画委員長 渡邊啓貴)

開会式  9/28

開会式

 第7回EUセミナーは今年も盛大に開催されました。当セミナーは、2012年の第1回目から、毎年9月の最後の週末2泊3日で開催してきました。今年は開催日までの一週間ほどずっと曇りや雨の日が続きジメジメした気候でしたが、28日当日は爽やかな晴天に恵まれ、多くの参加者の皆様をお迎えすることができました。
開会に当たって鈴木康司館長から次のような挨拶がありました。
 

大学セミナーハウス鈴木康司館長挨拶

鈴木康司館長

鈴木館長挨拶全文
 参加者の皆さん、第7回目のEUセミナーに、大学の枠を超えてお集まりくださり、ありがとうございます。今年もまた委員長渡辺啓貴(ひろたか)先生はじめ、ご尽力くださる先生方のおかげでこのセミナーが立派に開かれましたことを、主催者として感謝しております。
 現在のEUにおける大きな問題としてイギリス脱退の手続きというものがあることは周知の事実ですが、さらに加えてアフリカや中近東から流入する難民に対するヨーロッパ市民の反応があります。最初は人道問題としてこれを扱ってきたドイツをはじめEU諸国でありましたが、難民の数が増大し、市民の間に難民との摩擦や不安感が増すにつれて、各国の右翼ポピュリズム政党が市民の潜在的不満を吸い上げ、難民問題と移民問題を意識的に同一視するようなやり方でEUの理想に疑問を投げかけ、必要以上にそれぞれの国のナショナリズムを煽っております。
 何世紀も前からアフリカや中近東で利権をあさり、植民地政策を行ってきたヨーロッパの先進国が今、その付けを払っているのだという、第三者的見方もできますが、それにしても、20世紀後半に始まったこの壮大な計画がどこに向かうのか、まさに正念場に来ていると言ってもよいと思います。
 今回のセミナーでは、昨年以上にEUの抱えているこのような問題を明確にとらえ、分析し、掘り下げることで、皆さんのEU理解がこれまでにも増して深まるに違いありません。3日間にわたる研修が実りあるものであることを願って、ご挨拶といたします。
 

全体会1 9/28

パネルディスカション

  鈴木館長の挨拶に続き、第7回EUセミナー講師によるパネルディスカションが始まり、担当講師の先生方から欧州連盟地域の最新情報の紹介があり、それぞれの分科会の課題に関連して各自の見識が述べられました。

 (前左から、田中素香先生、太田瑞希子先生、蓮見雄先生、中西優美子先生、武田健先生、福田耕治先生、小林正英先生、渡邊啓貴先生)

田中素香先生

太田瑞希子先生

蓮見 雄先生

中西優美子先生

福田耕治先生

武田 健先生

小林正英先生

渡邊啓貴先生

押村 高先生

分科会討論 9/28~9/30

 分科会討論は、各分科会の課題をめぐり、参加者が関連資料を読む等、事前の準備が必要です。分科会討論の場において新たな問題意識を喚起し、講師先生の指導のもと、議論します。分科会討論で得た結論を、二日目の全体会2(中間報告)、最終日の全体会3(最終発表)において発表されます。中間報告で会場からあるいは講師先生からの指摘を受けた部分について、説得力ある結論を得るための作業を分科会参加者全員で引き続き行い、内容を充実させた最終発表につながります。分科会討論は、セミナー全体のプログラムの中で圧倒的に長い時間をかけるもので、各分科会において参加者が先生の指導のもと、それぞれのテーマをめぐり、議論、解明、さらに全体会での発表の準備をするといった進行になります。
毎年の中間報告と最終発表の結果は明らかに違い、中間報告で指摘された問題について分科会で議論したうえで、より内容を充実させ最終発表となります。今年の第7回EUセミナーも例年通り、最終発表の各分科会の結果は充実した内容でした。
分科会討論を通じて参加者の皆様は研究の基本を学び、課題の論拠探しのテクニックを勉強することができます。
 

第1分科会

テーマ 拡大する格差と不均衡にどう立ち向かうか
指導講師 田中 素香(中央大学経済研究所客員研究員、東北大学名誉教授)
太田 瑞希子(亜細亜大学国際学部講師)

第1分科会討論模様

主旨:EUの格差拡大は、①加盟国内部の所得格差、②加盟国間格差(具体的には北・西欧と南欧、北・西欧と東欧)、の2つの次元で現れている。①は各国内にポピュリズムを生み出し、Brexitの要因ともなった。②は北・西欧主導に対する南欧・東欧諸国の反発となって現れている(ポピュリズムにも影響)。単一市場統合と単一通貨ユーロは、とりわけリーマン危機後に格差拡大に作用した。EU予算を通じる所得再分配能力は限定的であり、このままではEUの存続に関わる危機を引き起こしかねない。本分科会では、加盟国内部および加盟国間の格差拡大の諸要因を確認し、加盟国・EU双方のレベルでの解決策を模索する。

第2分科会

テーマ 持続可能な社会を目指すEU―電気自動車(EV)戦略を中心に―
指導講師 蓮見 雄(立教大学経済学部教授)
中西 優美子(一橋大学大学院法学研究科教授)

第2分科会討論模様

第2分科会主旨:持続可能性(sustainability)という言葉そのものは、もはや目新しいものではない。だが、それは、しばしば「自然を大切に」といったフレーズに単純化されがちである。最近、耳にするようになったEVについても「人と地球に優しい」といったイメージで語られることが多い。しかし、「国連の持続可能な開発のための2030年アジェンダ」を見ると、持続可能性もEVも、これまでの社会のあり方そのものを根本的に組み替えるような大きな変革を示唆していることがわかる。EVの発展は、単に技術の問題ではなく、社会インフラやライフスタイルの変化とも深くつながっている。そこで、この分科会では、最初に持続可能な社会に関する基礎知識を確認した上で、次にそれを実現するためのEU戦略を概観し、最後にEUのEV戦略に焦点を当てて、持続可能な社会の実現の可能性について広い視野から議論をしていきたい。

第3分科会

テーマ EUの民主的ガバナンスと制度改革
指導講師 福田 耕治(早稲田大学政治経済学術院教授)
武田 健(東海大学政治経済学部講師)

第3分科会討論模様

第3分科会主旨:EU市場統合は、国境を越えて新しい機会を創出し,経済的利益をもたらす効果が認められた。しかし他方では,財政危機と社会保護費の削減を背景に、欧州社会と国民が分断され、国際テロリズムや越境組織犯罪の脅威のリスクも高まった。欧州各国で貧富の格差拡大や反EUを訴えるポピュリズムの台頭など、政治社会の不安定化も無視できない。移民・難民、高齢者、障碍者、女性などの社会的排除も問題となっている現在、本分科会では、欧州デモクラシーの在り方、EUの機構と社会政策、社会保護・社会的包摂政策などに焦点を当て、EU統合のガバナンスと制度改革の課題について多角的に議論してみたい。

第4分科会

テーマ EU内パワー・ポリティクス
指導講師 渡邊 啓貴(東京外国語大学大学院教授)
小林 正英(尚美学園大学准教授)

第4分科会討論模様

第4分科会主旨:EU統合はユーロ危機を乗り越えた後も今一つ加速化しない。反EUポピュリズムの盛り上がりや統合牽引車を担ってきたメルケル独政権の影響力の低下がその背景にある。BREXITのゆくえが明確ではないことも、EU統合に対する不安を大きくしている。こうした中で当然EU加盟国間での角逐も見られる。豊かな西欧と南欧・東欧各国との間での「南北対立」と「東西対立」の根底には、EU統合の深化に対する思惑の違いがあり、それは各加盟国内部での摩擦と連動する形で、EU内でのパワー・ポリティックスの様相を呈している。本分科会では、ユーロ、常設防衛機構、ポピュリズム、移民・難民政策、統合ビジョンなどを論点としつつ、加盟各国間のEU政策をめぐる摩擦について具体的に考察し、EU統合の行方について議論する。

第5分科会

テーマ Confronting the Threat of Popular Nationalism: EU Identity Sharing Project
指導講師 押村 高(青山学院大学副学長・国際政治経済学部教授)

第5分科会討論模様

第5分科会主旨:For further EU consolidation to be possible, populations of its member states need to forge an overarching European identity, given that the rise of popular nationalism everywhere in Europe has now become a major threat to the EU operations. This discussion group focuses on how the concept of European identity has been formulated as one of the EU policy goals, by reviewing the identity sharing projects that the EU successfully or unsuccessfully launched, such as the drawing up of the EU Charter of Fundamental Rights, EU initiative on cultural and educational co-operations, EU common media policy, and the EU’s project of inventing ‘European values’.

特別講演 9/29

テーマ  EUの挑戦と優先課題
講演者 駐日欧州連合代表部副代表・公使 Mr. Francesco Fini(フランチェスコ・フィニ)氏
随時通訳 鶴田知佳子 東京外国語大学教授

講演中のフランチェスコ・フィニ氏

特別講演会場

特別講演後の質疑応答

駐日欧州連合代表部副代表・公使フランチェスコ・フィニ氏を囲む昼食の模様

特別講演後の記念写真

全体会3(分科会討論の最終発表) 9/30 

第1分科会                    第2分科会

第3分科会                    第4分科会

第5分科会                    

 中間・最終報告会の司会・タイムキーパーは学生幹事により執行しました。今年中間報告会の司会は青山学院大学の両角颯さん、タイムキーパーは亜細亜大学の佐藤綾人さんでした。
 最終報告会の司会は、東京外国語大学の福田夢さん、タイムキーパーは亜細亜大学の林達浩さんでした。
 各分科会の発表内容をきちんと把握し、会場からの質問を引き出すよう司会者とタイムキーパーが全体会の進行をうまく導いて、4人とも素晴らしく活躍されました。

中間報告(両角颯さん、佐藤綾人さん)

最終発表(福田夢さん、林達浩さん)

修了書交付 9/30

 閉会式においては第7回EUセミナーの修了書を参加者全員に配られました。参加者の皆様はそれぞれの講師を囲み、修了書を手に記念写真を撮影しました。

第1分科会

第2分科会

第3分科会

第4分科会

第5分科会

荻上紘一理事長より閉会の挨拶

参加状況

亜細亜大学21名、青山学院大学2名、慶應義塾大学2名、東海大学9名、東京外国語大学7名(内特別講演参加者5名を含む)、東洋英和女学院大学16名、立教大学18名、早稲田大学3名、社会人2名 (内特別講演参加者1名を含む) 計80名


ご参加の皆様、2泊3日の間、お疲れさまでした。
来年の第8回EUセミナーでお会いできることを楽しみにしております。

 
EUセミナーは、講師の先生のゼミ生のみではなく、EUに関心をお持ちの学生、社会人の方々のご参加を歓迎いたします。セミナーの開催情報は年度初めに大学セミナーハウスホームページに掲載いたしますのでご注目くださいますようお願いいたします。
                                                                                           
(EUセミナー担当:孫 国鳳)