セミナー・イベント

第2回EUセミナー
「EU危機を超えて~ユーロ、連帯、ソーシアル・ヨーロッパ~」

実施報告

実施日 2013年9月20日(金)~22日(日) 2泊3日
会場 大学セミナーハウス(東京都八王子市下柚木1987-1)
※交通案内はこちら
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
後援 駐日欧州連合代表部、日本貿易振興機構

趣旨

EU地中海沿岸諸国の財政危機は小康状態を見せたものの、キプロス銀行危機によって再燃化の懸念も強い。EU危機の行く末は不透明なままであるが、危機は 通貨・財政面にとどまらない。EU統合の本質そのものが今問い直されているともいえよう。本年のEUセミナーでは、そのような観点から、通貨・財政と成 長、EU内外における市民意識の醸成と社会政策分野での連帯、そしてエネルギー・外交安全保障政策・グローバルなEU内外での広義の連帯などをテーマとす るセッションを設け、議論する予定である。

参加状況

青山学院大学9名、お茶の水大学1名、群馬県立女子大学1名、静岡文化芸術大学1名、昭和女子大学2名、中央大学13名、津田塾大学1名、東京外国語大学 8名、東京大学1名、東洋英和女学院大学6名、ハインリッヒ・ハイネ大学1名、一橋大学3名、立正大学11名、早稲田大学14名、社会人1名

講師兼企画委員

委員長・東京外国語大学大学院 総合国際学研究科 教授/渡邊 啓貴
青山学院大学 国際政治経済学部 教授/押村 高
東洋英和女学院大学 国際社会学部 教授/小久保 康之
中央大学 経済学部教授/田中 素香
一橋大学大学院 法学研究科 教授/中西 優美子
立正大学 経済学部 教授/蓮見 雄
早稲田大学 政治経済学術院 教授/福田 耕治
 

実施報告

鈴木館長挨拶

今年のEUセミナーは、昨年度同様、大勢の学生さんに参加して下さいました。開会式において、2013年6月に新規就任のセミナーハウス鈴木康司館長が挨 拶しました。鈴木康司館長はEU連盟圏のフランスの演劇専門で中央大学学長、日仏会館副理事長、そしてセミナーハウス理事を歴任してきました。
 

企画委員長渡邊啓貴先生より
開催主旨説明

館長挨拶に続き、第2回EUセミナー企画委員長の渡邊啓貴先生が開催主旨を説明し、パネルディスカションの形で各分科会担当の講師が提題のスピーチを行いました。

全体会1(パネルディスカッション)

前左から渡邊啓貴先生、小久保康之先生、押村高先生、福田耕治先生、中西優美子先生、蓮見雄先生、田中素香先生

特別講演(開講2日目)

テーマ    :   「Introduction to the EU and Euro Issues」
講演者    :   アルブレヒト・ロタハー 駐日欧州連合代表部政治経済部公使参事官
随時通訳 :   鶴田知佳子 東京外国語大学教授
 

パネルディスカッション

第1分科会講師 田中素香先生提題スピーチ

2010年5月ギリシャで始まったユーロ危機は銀行・金融危機と政府デフォルト危機との悪循環を特徴としていた。この意味でのユーロ危機は昨年夏までに終 了し、危機は第2段階に入った。その特徴は、ユーロ圏諸国の低い経済成長、改善しない政府債務、増大する失業、社会・政治危機である。他方で、経常収支赤 字や財政赤字は改善している。ユーロ圏の方針は、不況に耐えて不均衡を改善し、南欧諸国の競争力を回復し、やがて復活する経済成長によって徐々に経済正常 化と政府債務改善をはかる、というものである。しかし北部欧州諸国はそれなりの経済成長を実現し失業率も低いのに、南欧諸国では状況が非常に悪い。ヨー ロッパは南北に分断されている。経済成長戦略が必要である。ユーロ圏の経済状況と成長戦略についてセミナーで討論し、一緒に考えたい。
 

第2分科会講師 蓮見雄先生提題スピーチ

持続可能な成長(sustainable development)はEUの目的の一つであり、EUの①エネルギー政策と②環境政策(気候変動対策)は不可分である。だが、忘れてならないことは、 これらがEU経済の国際競争力強化を目指す③経済成長戦略の一環でもあることだ。2007年に承認された「欧州のためのエネルギー政策」が示すように、再 生可能エネルギーの実用化やエネルギー効率の改善は、エネルギー供給の長期的安定、投資機会の拡大、新産業の育成、新規雇用の創出、競争力強化、地域開発 などを目指す経済成長戦略でもある。本分科会では、この3つの政策の相互関係を意識しながら、EUのエネルギー・環境問題について討論し、日本のエネル ギー政策についても参加者とともに考えてみたい。
 

第3分科会講師 中西優美子先生提題スピーチ

リスボン条約により共通外交安全保障政策が強化された。EUが一つの声で発言できるように外交安全保障上級代表にこれまで以上に重要な役割が与えられ、ま た、上級代表を補佐するために欧州対外行動局が設立された。同時に国際的な場でEUの諸価値や利益を反映できるようにEU構成国間の連帯が求められてい る。本分科会では、それぞれの国益を超え、EUがどこまで効果的に対外政策を実施できるのかを機構制度を手掛かりに議論していきたい。
 

第4分科会講師 福田耕治先生提題スピーチ

EUにおける共通の価値は、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配などであり、これらの価値を尊重しながら、いかに経済発展を目指していくのか。経済危機 の結果、その実現が困難となってきており、EUは難しい舵取りを迫られている。ユーロ危機で、「ソーシャル・ヨーロッパ」の理念がしぼみ、今後も新自由主 義的「市場のヨーロッパ」のみが追求されていくのか。しかし、日本と同様、高齢社会となった欧州諸国では、年金や医療などの社会保護の削減が続いている。 経営者の利益を優先した労働市場改革では「労働の柔軟性」ばかりが強調され、雇用には結びつかず、セキュリティの欠落した状況下で失業者は増大する。労働 賃金抑制を代償とする「競争力」強化は、EUの成長戦略「欧州2020」の成功に結びつくのだろうか。あるいはEUはそれでもなお、日米と比較すれば、あ る程度「社会的」な欧州統合を実現しようとしているのか。日本の「アベノミクス」の行方を念頭に置きつつ、欧州の社会的現実について活発に議論したい。
 

第5分科会講師 押村高先生提題スピーチ

EU建設は、制度や機構の面では軌道に乗ってきましたが、一方で各種の意識調査結果を見る限り、ヨーロッパ人がEUに対して抱くイメージは余り改善されて いません。民主的コントロールが不十分であることへの不信、決定権限が各国の民主的政府からEU機構へシフトしまうことへの不満にも根強いものがありま す。
本セクションでは、ヨーロッパが官僚、企業、資本による「エリートやお金持ちのEU」から「市民のEU」に変るためには何が必要なのかの分 析 から始め、機構やガバナンスの安定にはEU市民アイデンティティの醸成が重要であることを再確認し、さらに民間・NGOなどの協力、地域・地方間の協力、 EU外市民との連帯(Eurostep)などによって、EU市民の協力関係をどのように深めていったらよいのかを検討します。
 

第6分科会講師 小久保先生提題スピーチ

世界の中で、EUはグローバルプレーヤーとして存在感を増しつつある。例えば、WTOの場や、米国や日本との自由貿易協定など、通商部門では加盟国を代表 してEUが交渉の窓口になっている。また、紛争処理後の平和維持活動にEUとして軍隊や警察部隊を派遣している。ASEM(アジア・ヨーロッパ会議)のよ うに、世界中の諸国との対話も進めつつある。本分科会ではEUの対外活動に焦点を当てつつ、そうしたEUの世界との連帯について考察することを目的とす る。
 

分科会討論の模様

第1分科会「ユーロ危機と成長戦略」

第2分科会「持続可能な成長戦略」

第3分科会
「EUの一体性とEU構成国間の連帯
-機構制度を中心に-」

第4分科会
「『ソーシャル・ヨーロッパ』の行方」

第5分科会「市民間の連帯と協力」

第6分科会「EUと世界の連帯」

全体会(分科会討論の結果報告)模様

ロタハー氏を囲んで記念写真


皆様、2泊3日で大変お疲れさまでした。来年の9月19日~21日に第3回EUセミナーを開催する予定です。又のご来館をお待ちしております。
(文責:孫 国鳳)

講師兼企画委員

委員長・東京外国語大学大学院 総合国際学研究科 教授/渡邊 啓貴
青山学院大学 国際政治経済学部 教授/押村 高
東洋英和女学院大学 国際社会学部 教授/小久保 康之
中央大学 経済学部教授/田中 素香
一橋大学大学院 法学研究科 教授/中西 優美子
立正大学 経済学部 教授/蓮見 雄
早稲田大学 政治経済学術院 教授/福田 耕治