セミナー・イベント

第8回新任教員研修セミナー

実施報告

期間 2018年9月3日(月)~5日(水)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
共催 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩

参加状況 : 27名(15校)

明星大学(6)、駿河台大学(3)、関西医療大学・国士舘大学・大阪物療大学・東京女子大学・沖縄県立看護大学(各2)、駒澤大学・志學館大学・前橋工科大学・東京聖栄大学・藤女子大学・日本薬科大学・立正大学・防衛大学校(各1)、順不同

 
多様な他者と協働するアクティブ・ラーニングとティーチング・ポートフォリオ

 20 世紀の終わり頃から、教育のパラダイム転換は急速に進みました。「教員が何をどれだけ教えたか」を重視する見方は、「学生が何を学び、何ができるようになったのか」へと劇的に変わりました。主語は「教員」から「学生」になり、前者がどんなに立派なことをたくさん教えても、後者がそれを学ばなければ教育として失敗であることが明確になったのです。
 さらに、今日、問われているのは、後者が「何をどのように学んだのか」ということです。急速なグローバル化やAIの発展などに象徴される、予測困難で変化の激しい時代において、大学教育では、あらかじめ与えられた問いに対して、各人が競い合って正解を探り当てるようなやり方ではなく、多様な他者と協働して問題を発見し解を見出していく学びが求められています。そうした学びは、「深いアクティブ・ラーニング」と短く言い換えることができます。唯一の正解がない複雑な問いへのチャレンジは、基礎的な知識・技能の獲得や定着に重きを置く初等中等教育以上に、大学教育にふさわしい創造的な学びではないでしょうか。
 また、このような学びを引き出す教育活動は、適切な振り返りを通して、継続的に改善が図られなくてはなりません。教員が自らの教育活動を改善し、その成果を記録し、提示し、きちんとした教育業績評価へとつなげることの重要性は、今後ますます高まるものと予想されます。第8回新任教員研修セミナーでは、そのためのツールとなるティーチング・ポートフォリオについて基礎から学び、理解することをも目指します。かつて大学教員の業績評価といえば研究業績が中心でしたが、教育業績もそれに劣らず重要視される時代を迎えた今、今回のセミナーは、新任教員が自らのキャリアをより豊かに築く一助となるものと考えます。
 大学セミナーハウスは、大学教員相互の交流を図ることによってわが国の大学教育の向上・発展に寄与することを目的としており、今年度も学術・文化・産業ネットワーク多摩との共催で国公私立大学の枠を越えた合宿形式の新任教員研修を企画しました。ここで集中的に取り組むことになるのは、今日の大学教育に求められている、まさに多様な他者と協働して問題を発見し解を見出していくような創造的な学びそのものです。この研修を通して希望の種を受け取った参加者は、各大学にそれを持ち帰り、学生諸君と同僚教職員との協働のなかで、色とりどりの花を咲かせることが期待されます。
(新任教員研修セミナー運営委員長・菊地 滋夫)

アクティブ・ラーニングに向けた関係性作り
SPAファシリテータ 佐藤順子氏

初対面の参加者同士が「学びの場」をつくる。

 セミナーの第1日は、SPA(Seminar house Project Adventure)プログラムからスタートした。このプログラムは参加者自らが学習者になることによって、アクティブ・ラーニングを実践していく上での必要な要素を考え、体験してもらうことが目的である。このプログラムに参加することによって、初対面の参加者の距離が一気に縮まり、いたるところで笑顔のコミュニケーションが見られ、今回のセミナーの学びの場が作り出された。
 参加者からは「ゲームとしてやっていたら実はアクティブ・ラーニングだった。とても驚いた。楽しく実践できたので少し内容を変えながら授業で取り入れてみたい」「最初どういう意図の活動かと理解できなかったが、やっているうちにいつの間にかみな仲良くなっていて、とても効果的手法だと思いました」との体験談が寄せられた。

アクティブ・ラーニング講座1
多様性が活きる学びを目指して
明星大学副学長・人文学部教授 菊地滋夫氏

「多様性が活きる学び」とは。

 第2日のアクティブ・ラーニング講座1では、菊地滋夫氏が授業を聞いているだけという「受け身」を強いる授業方式と決別してBRD(Brief Report of the Day)方式の導入に至る<私の授業>の失敗と改善の歴史を語った。さらにタンザニア・ザンジバルでのフィールドワークの授業では、日本人とは価値観や考え方が全く異なる<他者>と出会う中で「自らの生き方を省みる」経験をする。多様な他者との出会いは、反省的な思考を促す作用があることを再認識した。この経験を踏まえて学部学科横断型の少人数クラスを特徴とする全学初年次教育科目の設置を提案し、「多様性が活きる学び」を目指している。
 参加者からは「多様性が大切であることが再確認できた」自分の担当する授業でも「多様な学生がいること、多様性を活かす教育ができるように工夫しよう」という意欲につながったとの感想が寄せられた。

アクティブ・ラーニング講座2
アクティブ・ラーニングの基礎理論と実際
明星大学明星教育センター特任准教授 福山佑樹氏

アクティブ・ラーニングとうまく付き合うには。

 なぜ今、アクティブ・ラーニング(以下AL)なのか、その定義と背景、ALを取り入れた授業とはどのようなものか、AL型授業をスムーズに進めるための具体的な手法、ALを導入する際の注意点など、新任の大学教員にとって最大の関心事になっている。アクティブ・ラーニング講座2のなかで、ALの導入支援や実施支援を行っている福山氏は、「ALの要素は全ての授業に導入すべき」だが、「大掛かりなALをやる必要はない」し、授業を工夫されている教員なら自然にやってきたことであり、「あくまで”手法”であり、うまく付き合えばよい」のではないかと具体例を入れながら解説された。
 参加者からは、以前にALについて聞いたときにはよく理解できなかったが、今回は「自分の授業で応用するとしたらどうなるのか考えながら聞くことができた」「アクティブ・ラーニングについて自己流に解釈しているところがあったが、今回はその基礎を学ぶことができた」ので自分の授業でも導入できる確信が得られたとの反応があった。

ワークショップ1
ティーチング・ポートフォリオチャート作成体験WS
芝浦工業大学教授 榊原暢久氏

 ALを導入するなど教員が自らの教育活動を改善し、その成果を記録し、教育業績評価へとつなげるためのツールとなるティーチング・ポートフォリオ(TP)について基礎から学び、TPチャートを作成するワークショップを行った。ファカルティ・ディベロッパーである榊原暢久氏の指導の下、参加者は4時間という短時間でTPチャートの作成を体験した。
 参加者からは「作成するという行為を通して頭の中でボヤッとしていた考えが明確になった。日々の実践を流さず、意識化しながら具体的に取り組み、成果を確認すること、職業人としての成長の足跡を残し、記録することの大切さを学んだ。人に説明する、人の納得を得られるところまでもっていくのは大変だと感じた」「(TPは)初めて聞くものだったので不安だったが、実際にやってみて自分の授業のよいところ、改善すべきところがわかった。ペアで確認したこともその発見につながりとても有意義なワークショップだった」「自分のいままでの教育を振り返って整理できたことによって、今後何をすべきかを考えることができた」などの感想が寄せられた。

教育活動を記録し、教育業績評価へとつなげるために。

ペアで他者の意見をもらいながら作成する。

ワークショップ2
相互理解を深め、人間関係を築くコミュニケーション・ワーク
東京女子医科大学看護学部准教授 諏訪茂樹氏

新入生のソーシャルスキルを身につけるためには。

 最終日のワークショップ2では、諏訪茂樹氏の指導の下、社会経験の乏しさから人間関係を上手く築くことができない学生の仲間づくりをサポートし、新しい環境への適応を促すためのコミュニケーション・ワークのプログラムを参加者に体験してもらった。ソーシャルスキルがないためにトラブルにつながることが多い新入生のコミュニケーション能力を身につけるためにはどうすればよいか。新入生を対象に実施している「自己表現と相互理解を促す」「自己理解と他者理解を深める」「多様性を受け入れる」などのコミュニケーション・ワークの手法を体験した。
 参加者は「初めて知ったコミュニケーションワークだった。多様性を認め合うことなしには存続しえない現代社会にあってこうしたワークが様々な分野で行われるよう広めていきたい」「今後の研究室の3・4年生の関係づくりに活用したい」との反応が寄せられた。

ワークショップ3
困難を抱える学生の理解のために――合理的配慮を踏まえて――
明星学苑企画部課長 村山光子氏

 ワークショップ3では、障害のある学生の修学支援の在り方について討論した。今日深刻さが増している発達障害をもつ学生は、困った学生ではなく、困っている学生であり、「本人が変わること」には限界があり、周囲が変わることが必要。長年この問題に取り組んでいる村山光子氏は、発達障害の定義・困難さ、発達障害を抱えている学生に対する誤解や差別、具体的にどのように学習支援したらよいか、そのポイントや留意点などを要約したうえで、「支援内容を関係者間で対話を重ね、調整し、合意に至るプロセスの蓄積」が「合理的配慮」ではないかと問題提起された。これを踏まえて授業の中で実際にどんな対応に困難な学生がいるのか、どのように学習支援すればよいのか、具体的な場面での状況を踏まえながらグループで討論した。

困っている学生にどんな支援ができるか。

こんな支援ができるのでは。

新任教員研修セミナー運営委員

(委員長) 明星大学副学長・明星教育センター長・人文学部教授 菊地滋夫氏
                           明星大学明星教育センター特任准教授 福山佑樹氏