セミナー・イベント

第7回新任教員研修セミナー

実施報告

期間 平成29年9月4日(月)~6日(水)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
協賛 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩

参加状況 : 32名(13校)

駿河台大学(6)、国士舘大学(4)、志學館大学・多摩大学(各3)、明星大学・工学院大学・大阪物療大学・沖縄国際大学・椙山女学園大学・同志社大学・防衛大学校(各2)、中央学院大学・新潟リハビリテーション大学(各1)、(順不同)
 
大学教育における大きな変革の時代を担う新任教員のみなさまへ

 初等中等教育から高等教育に至る日本の教育システムは、大きな変革のときを迎えています。このことを端的に示しているのが、多様な他者と協働して問題を発見し解を見出していく深い学びとしてのアクティブ・ラーニングの導入です。中央教育審議会答申等に繰り返し述べられているように、それは変化の激しい時代にあって自らの人生を切り拓くとともに、豊かな社会を共に創り出すことのできる人を育てるための教育です。「多様な他者と協働して」という点に着目すれば、従来「均質性を前提とした競争」に偏りがちだった教育の限界を乗り越えようとする、希望の挑戦であるとも言えましょう。
 大学教育においても、20世紀の終わり頃から教育のパラダイム転換は急速に進みました。「教員が何をどれだけ教えたか」を重視する見方は、「学生が何を学び、何ができるようになったのか」へと劇的に変わりました。主語は「教員」から「学生」になり、前者がどんなに立派なことをたくさん教えても、後者がそれを学ばなければ教育として失敗であることが明確になったのです。そして、今日、問われているのは、後者が「何をどのように学んだのか」ということです。とくに大学教育においては、あらかじめ与えられた問いに対して、各人が競い合って正解を探り当てるようなやり方ではなく、多様な他者と協働して問題を発見し解を見出していく学びが求められています。このような、唯一の正解などないかもしれないような複雑な問いへのチャレンジは、基礎的な知識・技能の獲得や定着に重きを置く初等中等教育とは異なり、より大学教育にふさわしい創造的な学びであると思われます。
 上記の変革を加速させることを意図した大学入試改革は、3年後の実施に向けて検討が進められています。大学入試が暗記中心の知識偏重型である限り、高等学校における教育もそれに対応するために座学中心の知識詰め込み型にならざるを得ないとの批判があるからです。しかし、15歳人口が再び終わりの見えない減少期に突入した現在、危機感を持つ高等学校や塾・予備校などは、大学入試改革に先行してアクティブ・ラーニングの導入に力を入れるようになっており、その浸透は想像以上に早いという実態があります。
 このように、アクティブ・ラーニングに習熟した高校卒業生は、すでに大学に入学してくるようになっています。そうした学生たちに対して、大学教育にふさわしい、学術を継承するとともに未知の創造へと誘うような、さらに深いアクティブ・ラーニングを実践できる大学教員の養成は急務となっています。一昔前の大学教育は、偏差値で輪切りにされた比較的均質な学生たちに対して既存の知識を伝達することに重きをおきがちでしたが、今日では多様な他者と協働して問題を発見し解を見出していく力の養成という、新たな時代の要請に応えることができるのかどうかが問われているのです。
 大学セミナーハウスは、大学教員相互の交流を図ることによってわが国の大学教育の向上・発展に寄与することを目的としており、今年度も学術・文化・産業ネットワーク多摩との共催で国公私立大学の枠を越えた合宿形式の新任教員研修を企画しました。ここで集中的に取り組むことになるのは、今日の大学教育に求められている、まさに多様な他者と協働して問題を発見し解を見出していくような創造的な学びそのものです。この研修を通して希望の種を受け取った参加者は、各大学にそれを持ち帰り、学生諸君と同僚教職員との協働のなかで、色とりどりの花を咲かせることが期待されます。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。
(新任教員研修セミナー運営委員長・菊地 滋夫)

自己紹介とアイスブレイク(SPAプログラム)

 第1日は、佐藤順子氏によるSPA(Seminar house Project Adventure)プログラムからセミナーはスタートした。教員自らがアクティブ・ラーニングの主体的な参加者となって体験することによって本セミナーの「学び合いの場」を作り出すことが狙いだ。「体を動かす中でゲーム感覚の動機づけと心理的な打ち解けの環境をつくってもらった。グループの一体感を一気に引き上げる効果があり、初日の配置がとても有効だった」「一つひとつのアクティビィティがアクティブ・ラーニングにつながっていて、考えさせられることも多々あった」「チームワークを意図的に高めることは難しい。このSPAプログラムでは自然にいつの間にかチームワークが高まっていた」などアクティブ・ラーニングを実践していくうえで何が必要なのか、多様な他者と協働するためにはどのように関係を作ればよいのかなどを考えるきっかけとなった。

アクティブ・ラーニング講座①
学生参加型授業の実践―多様性が活きる学びを目指して―
  明星大学副学長・人文学部教授 菊地滋夫氏

 第2日は、アクティブ・ラーニングの事例報告を踏まえて、どのように自分の授業の中に取り入れていくのか、参加者同士の体験談も織り交ぜながらワークショップを行った。
 菊地滋夫氏の事例報告については、「実体験に基づくお話はとても共感できた。今まで(自分一人で)不安に思っていたことが、周りの先生も同じように悩んでいることが分かり、気持ちが楽になりました」「BRD(Brief Report of the Day、授業時間内に完成させる小レポートの積み重ねを軸とした授業)方式は学生の主体性を引き出す有効な教育方法だ。早速、自分の授業にも取り入れたい」など多くの共感が寄せられた。

アクティブ・ラーニング講座②
問題意識の共有と授業改善
  電気通信大学情報理工学部教授 史 傑氏

 実際にアクティブ・ラーニングで授業デザインをするにはどうしたらよいか。どんな種類のアクティブ・ラーニングがあるのか。史 傑氏の授業改善のワークショップについて、「アクティブ・ラーニングの一般的な手法は複数組み合わせることが可能であり、工夫次第で教育効果を高められる。特に今回自分のグループで取り上げたSTT(Student Team Teaching 学生チームティーチング)は、すぐに自分の授業に導入したい」など様々な感想が寄せられた。

アクティブ・ラーニング講座③
多様な学習方法を前提とした効果的な授業運営方法
  桜美林大学リベラルアーツ学群教授 荒木晶子氏

 荒木晶子氏の3時間30分にわたるワークショップに参加した教員からは、「コミュニケーションの難しさを改めて知ることができた。また自分の学習スタイルを知ることができ、今後の講義を工夫する一助となった」「学生の学習スタイルは、多様であり、それに対応したアクティブ・ラーニングを組み合わせることが重要」「ひとは物事を認識するフレームワークが異なり、解釈のパターンも十人十色である。相手が理解できないことを“なぜ?”と思うのではなく、理解すべきだ」との感想が寄せられた。

シンポジウム
現代大学教育論

第3日のシンポジウム「現代大学教育論」では、3人の講師を迎えてこれまでの2日間の学びをさらに深めることができた。

■講演1
学生の参加を引き出す学習環境構築の取り組みpart3
  桜美林大学講師 有賀清一氏

 シンポジウムの中で有賀清一氏は、教科書の電子化の取り組みについて紹介された。参加者からは「iPadの取り組み、マーカーの共有やSNS的な利用は、学生のシェアリングの抵抗感を下げる意味で効果的だ」「電子書籍を利用することによって予習復習情報の可視化ができることは驚きであった」「主体的(マーク機能、授業内外の学習態度)かつ協働的(マーク機能の共有)な学びを推進するアクティブ・ラーニングのメディアとして今後も注目して学びたい」など大きな関心を呼んだ。

■講演2
学習支援に果たす図書館の役割―帝京大学MELICの場合
  帝京大学経済学部教授 江夏由樹氏

 江夏由樹氏からは、学習図書館がアクティブ・ラーニングにどのような役割を果たすことができるのかなど新たな図書館の展開についての紹介があった。参加者からは「図書館の概念が変わりました。学生主体の図書館作りは自分の大学にフィードバックしていきたい」「学生を巻き込んだまさしくアクティブ・ラーニングの実践例を聞くことができてよかった。うらやましいです」「図書館で活動している学生サポータはいるが、(帝京大学のような“共読ライブラリー”を支える共読サポーターズ)のような活動はなかったので、とても感心した。また教員と図書館の連携の難しさはあるが教員側からアプローチしてつながりを作っていきたい」など大学図書館を再認識する感嘆の感想が相次いだ。

正面中央が江夏由樹氏。

■講演3
困難を抱える学生の理解のために-合理的配慮を踏まえて-
   明星学苑企画部課長 村山光子氏

  村山光子氏は、年々増加傾向にある発達障害の学生に対する支援の在り方についての実践例を紹介された。参加者からは「発達障害の判断基準がまだ明瞭でないとのことで、(当人に対する)ラベリングにならないように慎重に対応することが重要。当事者の尊厳を保障しながら当事者の学びがより円滑になるように、潜在的な社会的障害を顕在化して、制度的な保障に目を向けていきたい」「発達障害学生への対応の難しさと支援の重要性を知ることができた」「“合理的配慮”をどこまで行うかはつくづく難しいと感じた。特に、学生本人が学習障害であることに気付いていない場合、手厚い支援が反対に過干渉となり、煙たがられることを懸念している」など対処の難しさと悩みの発言が多く聞かれた。

 3日間のセミナーを終了して、参加教員からは「異なる専門分野を持つ先生方とグループワークやグループディスカッションを行うことによって“学生参加型授業”がいかなるものなのか、体験できてよかった」「多様な論点、現在の動向などがバランスよく取り入れられていて、まさにアクティブ・ラーニングを体感しながら学ぶことができた。仲間の先生とも情報交換ができたことで視野が広がった。これを励みに本学に戻り活かしていきたい」などの感想が寄せられている。

新任教員研修セミナー運営委員会

(委員長) 明星大学副学長・明星教育センター長・人文学部教授 菊地 滋夫
      桜美林大学リベラルアーツ学群教授 荒木 晶子
                帝京大学経済学部教授 江夏 由樹
                東京理科大学科学教育研究科教授 北原 和夫
                電気通信大学情報理工学部教授 史 傑