セミナー・イベント

第1回新任教員研修セミナー

実施報告

期間 2011年9月5日(月)~7日(水)2泊3日
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
共催 公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩

開催趣旨

各大学では、それぞれの実情に応じて、様々なタイプの新任教員研修が実施されていますが、実際に行われている授業の教育内容にまで踏み込んだ研修を実施している大学は希であるように思われます。一般論としては、各授業の教育内容は、各大学の建学の理念(教育目的)、各教育課程の到達目標、その授業のカリキュラム上の位置と、その授業を受ける学生の平均的学力と当該学問分野に関する既習の知識・技能との関係によって定まると言うことができます。
 しかし、ユニバーサル・アクセスの時代を迎えた現在の大学には、たとえば、入学者選抜方法の多様化による平均的学生層の学力と学習意欲の低下、学習に集中できない学生の増加、就職活動の長期化に伴う実質的な学習時間の減少、卒業生の資質(即戦力)に対する社会的要請の高まり、長期不況下の就職難による学生の目的喪失など、シラバスの作成や実際の授業実施に際して考慮すべき多くの困難が介在しています。私たち大学教員は毎日の授業の中で、恐らく20年前の教員なら予想することも出来ないような事態に直面し当惑していると言えましょう。
 周知のように、大学教員研修の重要な課題の一つとして授業開発があり、主として教育方法に関する研修が行われてきました。しかし、この種の研修が念頭に置いていたのは、主として知識・技能伝達型授業であり、いかにして学生に一定程度の知識・技能を習得させるかを直接の目的としていたように思われます。これに対して、ユニバーサル・アクセスの時代の授業開発の目的は、いかにして種々の困難を克服して学生の学習意欲を高め、能動的に授業に参加させるかにおく必要があるように思われます。言い換えれば、中央教育審議会の答申等に見られるように、自ら問題を発見してそれを解決するという課題探求能力の育成が、現在の大学教育の課題とされています。しかし、この課題を解決するためには、まず眼前の様々な困難を実践的に克服しなければなりません。そして、そのための適切な方策は、何よりも同じ悩みを共有する同僚教員の相互研修であると考えます。
 大学セミナーハウスは、大学教員相互の交流を図ることによってわが国の大学教育の向上・発展に寄与することを目的としていますが、このたび(社)学術・文化・産業ネットワーク多摩との共催で国公私立大学の枠を越えた合宿形式の新任教員研修を企画しました。
 今回のセミナーの主要な目的は、(1)ユニバーサル・アクセスの時代の大学教員にふさわしい教育方法をある程度身につけること、(2)所属大学(学部)の教育目的と受講学生の能力とニーズに見合った内容を持つ授業を構想し実施するための必要最小限の能力を習得すること、にあります。さらに、(3)前期(春学期)に実際に行った授業を基にして、後期(秋学期)のシラバスを可能な限り詳細に作成することを、具体的な到達目標とします。

◆プログラム

■第1日 9月5日(月)   
13:00  開会
  大学セミナーハウス館長/新任教員研修セミナー運営委員長・荻上紘一
13:20~14:30 講演1:わが国の高等教育の現状と課題
 文部科学省国立教育政策研究所長・德永 保
15:00~17:00 シンポジウム現代学生論
 法政大学学生ステーション長/教授・木原 章
 明星大学学生サポートセンター長・村山光子
 中央大学法学部/法科大学院教授・長内 了
17:15~18:15 グループ討論1:今どきの学生をめぐって
 ■第2日 9月6日(火)  
9:00~10:00 講演2:今どきの学生向けの授業、今どきの学生との関わりのために
   首都大学東京大学教育センター長/副学長・上野 淳
10:30~12:00 講演3:授業の計画・実践・評価・改善
 帝京大学高等教育開発センター長/教授・土持 ゲーリー 法一
13:30~14:30 私の授業(その1):学生参加型の授業
日本教育大学院大学教授・林 義樹 
14:50~16:50 私の授業(その2):大人数授業
桜美林大学リベラルアーツ学群教授・荒木晶子 
17:10~18:40 ワークショップ:授業を描く
20:00~21:30 グループ討論2:授業計画の発表
■第3日 9月7日(水)     
9:00~11:30 パネル討論:大学教員に必要な資質とは 
大妻女子大学社会情報学部教授・生田 茂 
桜美林大学リベラルアーツ学群教授・坂井昭宏 
明星大学人文学部教授・菊地滋夫 
首都大学東京大学教育センター准教授・林 祐司 
帝京大学高等教育開発センター准教授・井上史子 
11:30~12:15 講演4:新任教員への呼びかけ 
明星大学学長・小川哲生 
12:15~12:30 閉会、修了証書授与

◆講師陣

德永 保 【経歴】東京大学法学部卒業、文部省入省、北九州市教育委員会教育長、北九州市企画局長、文部省教育助成局地方課長、同財務課長、文部科学省大臣官房審議官(高等教育局担当)、同研究振興局長、同高等教育局長等を歴任、現在は文部科学省国立教育政策研究所長
【専門領域】教育行財政、地方教育行財政制度、大学制度、大学財政
【主な活動や著書】アメリカの大学運営、改正地教行法Q&A、グローバル人材の育成に関する産学連携など
木原 章 【経歴】法政大学教授、東京都立大学(理学博士)、法政大学市ケ谷学生センター長、法政大学市ケ谷ボランティアセンター長を経て、現在は法政大学学習ステーション長。
【専門領域】生物多様性データベースの構築
【主な活動や著書】日本産アリ類カラー画像データベース、Zoological Collection Database @ Stazione Zoologica Anton Dohrn di Napoli(ナポリ動物学実験所博物館標本データベース)など
村山光子 【経歴】中央大学総合政策研究科、明星大学秘書課、学生支援センター等を歴任、現在は学生サポートセンター長
【専門領域】学生支援、学生相談(産業カウンセラー、スチューデントコンサルタント)
【主な活動や著書】2007年から発達障害を有する学生の支援「STARTプログラム」を実施、FD研修会講師など担当。 
長内 了  【経歴】中央大学法学部教授、同学生部長、法学部長を経て、現在は大学院教授、同常任理事
【専門領域】英米法・比較憲法
【主な活動や著書】日米法学会・比較法学会・日本カナダ学会会員、日弁連外国法事務弁護士懲戒委員会予備委員、同委員長。『新版・資料が語るカナダ1535~2007』(共編著)など
上野 淳  【経歴】東京都立大学工学部教授を経て、現在は首都大学東京大学教育センター長、同理事・副学長
【専門領域】建築計画学、規模計画・環境心理学・環境行動学
【主な活動や著書】『新建築学体系29 学校の設計』(共著)、『未来の学校建築』(単著)、『高齢社会に生きる 住み続けられる施設と街のデザイン』(単著)、『学校建築ルネサンス』(単著)など
土持 ゲーリー 法一   【経歴】米国コロンビア大学大学院(教育学博士)、東京大学(教育学博士)、弘前大学21世紀教育センター高等教育研究開発室教授を経て、現在は帝京大学高等教育開発センター長・教授
【専門領域】戦後日本高等教育改革史
【主な活動や著書】ポートフォリオ(ティーチング、ラーニング)のセミナーやワークショップ、FDコンサルティング。『ティーチング・ポートフォリオ~授業改善の秘訣』、『ラーニング・ポートフォリオ~学習改善の秘訣』など
 
林 義樹  【経歴】広島大学(教育学修士)、大学助教授、武蔵大学教授、横浜国立大学教授を経て、現在は日本教育大学院大学教授
【専門領域】教育工学・社会教育・教育経営学
【主な活動や著書】『学生参画授業論』、『参画教育と参画理論』など
荒木晶子  【経歴】サンフランシスコ州立大学大学院(コミュニケーション修士)、スタンフォード大学客員研究員を経て、現在は桜美林大学リベラルアーツ学群教授
【専門領域】スピーチコミュニケーション、異文化こコミュニケーション
【主な活動や著書】『自己表現力の教室』、『口語表現ワークブック』、『異文化コミュニケーション・ワークブック』、『異文化接触の心理学』など
小川哲生  【経歴】早稲田大学(博士課程)、明星大学講師・助教授・教授、人文学部長、副学長を経て、現在は同大学学長
【専門領域】教育学(教育思想)
【主な活動や著書】(社)学術・文化・産業ネットワーク多摩会長他。『教育方法学』、『社会教育課題研究』など 

◆新任教員研修セミナー運営委員

荻上紘一  (委員長)
【経歴】東京都立大学教授、同理学部長、同総長、大学評価・学位授与機構教授
【専門領域】元数学者、現在は大学評価の実務
【主な活動や著書】中央教育審議会委員、大学設置審議会委員、独立行政法人評価委員会委員等を歴任
 
生田 茂 【経歴】東京都立大学、筑波大学を経て、現在は大妻女子大学社会情報学部教授
【専門領域】教科教育(理科、情報)、特別支援教育、教育工学
【主な活動や著書】音声や音を活用した「困り感」をもつ児童生徒の自立活動,学習支援の活動 
坂井昭宏  【経歴】千葉大学教養部教授(哲学)、北海道大学文学部教授を経て、現在は桜美林大学教授(倫理学)
【専門領域】哲学・倫理学
【主な活動や著書】国立大学協会専門委員、大学教育学会副会長、大学評価・学位授与機構専門委員、日本学術振興会審査会委員等を歴任。『安楽死か尊厳死か』(編著)、『バイオエシックスの展望』(共編著)、『雑学3分間ビジュアル図解シリーズ 哲学』(共監)、『イラストでわかるやさしい哲学』(監修)、『現代倫理学』など 
菊地滋夫  【経歴】東京都立大学博士(社会人類学)、明星大学教授、同学長補佐
【専門領域】東アフリカ海岸地方の宗教・権力・ジェンダーについての社会人類学的研究
【主な活動や著書】日本文化人類学会、日本アフリカ学会、日本ナイル・エチオピア学会、初年次教育学会会員。『文化人類学を再考する』(共著)、『アフリカの都市的世界』(共著)、『呪術化するモダニティ』(共著)など。 
林 祐司  【経歴】京都大学博士(経済学)、首都大学東京大学教育センター准教授
【専門領域】社会政策論、労働経済論、キャリア形成
【主な活動や著書】『正社員就職とマッチング・システム』など 
井上史子  【経歴】タイ国 Eastern Asia University大学院(教育学博士)、立命館大学教育開発推進機構講師を経て、現在は帝京大学高等教育開発センター准教授
【専門領域】教育工学、高等教育
【主な活動や著書】大学教員の職能に関する研究およびFD研修プログラムの開発、『相互理解を深めるコミュニケーション実践学』(共著)、『情報教育の理論と実践』(共著)など