セミナー・イベント

第4回国際教養セミナー
文化交流は日中間の溝を埋められるのか

実施報告

期間 2011年10月22(土)~23日(日)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 公益財団法人大学セミナーハウス
参加状況 33名 17校、その他

実施報告

国際教養セミナーは2007年の「多文化共生の道を探る―グローバル化の中の他文化と日本」をテーマに開始して以来、「知ること」から「多文化共生」の道を共に探ってみようを出発点とし、「イスラーム世界における『他者』との共生―宗教・宗派・民族の相違を超えて」(2回目/2008年)、「曲がり角のアメリカ」(3回目/2009年)を開催してきました。フランスに関しては2010年、渡邊啓貴先生(日本駐仏大使館公使/2008~2010年、現東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授)を講師に招き、「日本のパブリック・ディプロマシー―パリ、広報文化外交最前線―」をテーマに講演会を開きました。そして、今年は中国の文化を読み解き、第4回国際教養セミナーとして11月22日~23日に開催しました。
 第4回国際教養セミナーは日本全国17大学、中国1大学から来られた方々がご出席し、一泊二日で一緒に過ごし「文化交流は日中間の溝を埋められるのか」を中心に特別講演、ゲスト講演、提題講演の後、三つのセクションに分けて議論しました。2日目のディスカッションではさまざまな日中間の聞きなれた問題について文化交流の視野から分析し、どう解決するかについて真剣にディスカッションをしました。文化交流を通じて互いの理解を深めることを前提に日中間の溝を埋められるとの結論を得ました。
 閉会当日の夜に参加者の皆様は今後引き続き日中間の問題について議論しようとの動きがあり、facebookで皆さんが再び集まりました。中央大学の三島英子様が「日中関係とメディア」(Bセクションのテーマ)のグループのページを作ってくださり、現在参加メンバーが増加中です。

 22日の開会式において、荻上紘一大学セミナーハウス館長が開会のご挨拶の後、今年の国際教養セミナー企画委員長花澤聖子先生と大学セミナーハウス佐藤東洋士理事長がご挨拶しました。 

荻上紘一館長開会の挨拶

花澤聖子国際教養セミナー企画委員長のご挨拶

佐藤東洋士理事長のご挨拶

第4回国際教養セミナー開催の趣旨

1972年に国交を回復して以来、日本と中国の経済的関係は深まる一方だが、政治外交面における関係は、今世紀に入って、歴史問題や領土問題を中心にむしろ厳しさを増している。中国社会における対日イメージも90年代半ばより悪化し続けており、日本社会でも中国における反日デモや尖閣諸島沖の漁船衝突事件などにより、嫌中感が充満している。
 こうした日中間の政治的溝を埋め、双方の国民感情を好転させるために、プラスのイメージの強い人的交流や文化交流をもっと盛んにしようということが以前から提起されてきた。確かに、アニメ、芸能、音楽、ファッションなど、日本のポップカルチャーの人気は中国でも高い。しかし、人的交流においては、80年代から今世紀にかけて、客人としての付き合いから、同僚、友人、隣人としての付き合いへと変化するに及んで、必ずしもうまくいっているとは言い難い。
 本セミナーでは、企業文化、ポップカルチャー、双方のイメージ作りに深く係るマスメディアなど、各方面における交流の現状を把握し、政治的溝を越えて日中間の相互理解を深め、Win―Winの関係を生み出すためにどのような貢献ができるのか、文化方面における交流のあり方を探ってみたいと考えている。                     
 
(第4回国際教養セミナー企画委員長 花澤 聖子)

特別講演 

「日系企業の現場で見た日中異文化コミュニケーションの摩擦と課題」
                             日中ナレッジセンター代表 李 年古
 

ゲスト講演 

京劇と日中文化交流――パフォーマンスを交えて――      桜美林大学准教授・京劇俳優 袁 英明 

提題講演

A 中国における日本のマンガ・アニメの受容と影響    慶應義塾大学准教授 山下 一夫  
   中国では現在、日本のマンガ・アニメが大変な人気で、それに伴い若年層の間で日本の現代文化に対する理解も進んでいる。一部では、これによっていわゆる「反日感情」が薄れ、両国間の溝が縮まるというような楽観論も説かれるが、中国におけるコンテンツの受容や影響のあり方を考えると、事態はそう簡単ではないことが解る。このセクションでは、幾つかのケーススタディを通して、ポップカルチャーの領域における文化交流の問題について検討する。
 
B 日中関係とメディア                         北海道大学教授 高井 潔司  
   東アジア経済の一体化が進む中、外交や世論のレベルでは日中関係は悪化の一途をたどっている。その原因のひとつにメディアの作用が指摘されるだろう。日中関係において、メディアはどのような役割を果たしているのか、関係の改善を目指すとしたら、メディアはどのような役割を果たすべきなのか。両国のメディア制度、メディアの発展状況などを踏まえ、日中関係とメディアのあり方を考える。 
 
C 行動様式における日中文化の対照性             神田外語大学准教授 花澤 聖子  
  日本も中国も共に東アジア圏に属する国だが、行動様式はむしろ対照的だ。日本社会では、中国人は自己中心的だというイメージを持っている人が多く、日本人を友人、親戚に持つ中国人は、日本人は冷たいと感じることが多い。いずれも、それぞれの文化における行動様式や価値観を互いに「知らないことを知らない」ことに由来する。このセクションでは、行動様式におけるどのような対照性が双方にこうした誤解や無理解をもたらしているのか、例を挙げながら明らかにする。

セクション演習(2日目)

Aセクション

Bセクション

Cセクション

ディスカッション(2日目)

参加者の皆様

参加者からの見解

◇坂上勇樹(東洋大学 経済学部2年<白山経済学会 経済学科支部 運営委員>)  
   「自分のステレオタイプ通して物を見ていることを自覚すべきだが、そのためには表層的なところだけ切り取らず、ことの背景を知るべき。時間にゆとりのある学生のうちに、そうしたクセをつけたい。さもなければ、些細な綻びがいつのまにか日中両者の関係を破たんさせる…と思うに至った。」 そのうえで、私は2日間セミナーハウスで過ごしてみて、セミナーハウスの環境の良さに感心しました。施設に息づく“アカデミズム”の雰囲気が、いかにもゼミナールという感じがして、不思議と知的好奇心が湧いた気がします。職員の方にも良くして頂き、機会があればぜひ使いたいです。
 最後に、当初参加しようか迷っていましたが、参加して正解だったと思います。職員の皆様、どうぞお体にご自愛ください。 
 
  ◇Iさん(東京外国語大学 英語専攻2年)  
  今回のセミナーを通じて、私は孫先生のご解説や司会の仕方の素晴らしさに感激いたしました。講師の方の説明や参加者からの質問を非常にわかりやすく簡潔にまとめてくださり、その御蔭あってかくも円滑にセミナーが進んでいったと存じております。
 さて、お約束どおり、2日目のパネルディスカッションにおける私の発言の内容を、ここに書かせていただきます。
 質問内容は「日中間の『溝』といえば、やはり『反日感情』が頭に浮かぶわけだが、実際、現在の『反日感情』の実態はどうなのか。誰によるもので、どのような感情なのか。」といったものでした。また、その質問の前置きとして、以下のことを述べました。私が中国人の留学生に話を聞いても、彼らの周りに、中身のある反日感情を抱いている若者は居ない、と言われるばかりであり、山下先生が挙げた「日本文化愛好家である若年層には日本政府に対して反感を抱いている者が多い。」という内容を聞いて驚いた、ということです。
 これに対して3人の講師の方や孫先生がコメントをくださり、そのまとめとして、私は以下のように発言しました(私が孫先生私にメールで送るよう頼まれたのはこの内容です。)。
 「先生方のお話を伺い、質問者として回答をまとめてみました。――戦争により間接的に被害を受けた方を除けば、日本に対して反感を抱いている人の多くは、流行する言説に乗っている者である。その人々は、中国メディアや愛国主義教育による影響で反日感情を持っていることが多い。これらの影響で生じた日中間の溝は、彼らが多くの情報を手に入れ、相手の文化や政治制度を知り、自分の目で相手を見ることで、例えば文化交流によって、ある程度埋めることができる。また、このような個人による活動に加えて、政府の行動としては、積極的に情報開示をすることや、相手に対して攻撃的なことをしないこと、関係を良い方向に持っていけるよう妥協し合うことが重要となる。」以上です。(私の発 言はホームページ上に載せていただいても構いません。)
 最後に、セミナー全体について私の感想を書かせていただきます。
 今回、日中の個人間の付き合いに関して対人文化の観点から李年古先生や花沢聖子先生に、日中間のメディアの影響に関して高井潔司先生から、日中の文化の相手国への影響に関してそれぞれ山下一夫先生、袁英明先生からお話いただき、日中間の溝を生んでいるもしくは埋めているほとんどの要素について広く追究することができました。また、多くの中国人留学生から非常に参考になる考えやエピソードを直接聞くことができ、またとない機会となりました。セミナーハウス自体も、とても過ごしやすい素晴らしい施設だと感じました。今後のセミナーも見逃さずにぜひ参加させていただこうと強く決意しました。
 
 
  ◇成蹊大学 法学部法律学科 4年 和田 大介  
  第4回国際教養セミナーによせて
文化交流は日中間の溝を埋められるのか――これは実証がとても難しい命題である。例えば戦後フランスとドイツは紛争の再発を防ぐために利害関係の調整を軸とした《共生》の道を歩むことを選んだが、どうやらこれらのうち全てが私たちにも当てはめ可能であるとは言えないようだ。
世界でグローバル化という言葉が叫ばれるようになって久しい。経済のみならず私たちの生活様式に至るまで合理性や汎用性といったものが普遍化されていく一方で、それは私たち(、、、)自身(、、)の(、)没個性化(、、、、)をも進めていった。こうした流れの中で、私たちはアジア的(、、、、)なる(、、)もの(、、)にアイデンティティを見出そうとしている。
だが、似て(、、)いる(、、)よう(、、)に(、)見える(、、、)こと(、、)は(、)即ち(、、)同じ(、、)で(、)ある(、、)こと(、、)を(、)意味(、、)しない(、、、)。そうした前提に立って、私たちは0(ゼロ)か1かではないアナロジカルな異文化理解を進めていけるだろうか。その答えはこの2日間でそれぞれの胸の内に秘められたことだろう。歩く人が多くなればやがてそれは道となる――私はそう信じている。  
   
  (第4回国際教養セミナーを通じて得たことについて、留学生新聞来年1月号に詳しい情報を掲載する予定です。FACEBOOKでは皆様のなお一層のご活躍を祈念しております。1年後又セミナーハウスで再会し共同セミナーを開催できれば、この上ない喜ばしいことでしょう)  
  文責 孫 国鳳