セミナー・イベント

第35回国際学生セミナー
文化的多様性と現代社会―民族や宗教の対立を超えて

実施報告

期間 2008年9月27日(土)~28日(日)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 財団法人大学セミナーハウス
参加状況 <大学等別>34名・23大学・1他
桜美林(4)、青山学院(3)、首都大学東京・慶應義塾・国際基督教・筑波・東京(各2)、横浜国立・一橋・福島・名古屋・名古屋市立・聖心女子・中央・帝京・東京女子・東洋英和女学院・法政・明星・立教・玉川・都留文科・文教・大塚情報処理専門(各1)
<国籍別>日本20、中国9、韓国4、タイ1

企画委員

委員長・青山学院大学国際政治経済学部教授 中兼和津次
副委員長・在フランス日本国公使 渡邊啓貴
法政大学経済学部教授 絵所秀紀
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 園田茂人
東京大学大学院総合文化研究科教授 山影 進

趣旨

今日、世界の各地、国内外でさまざまな民族対立や紛争が起きている。パレスチナ問題をはじめ、ロシアにおけるチェチェン紛争、中国におけるチベット問題、旧ユーゴスラビアでのコソボ紛争等々、数え切れない。そのために激しい憎悪と、果てしない殺し合いにまで発展している。このような対立は決して途上国だけのものではない。スペイン内部でもバスク独立紛争が長年不安定要因になっているし、イギリスでも北アイルランド分離独立問題は未解決である。他方、グローバル化の波は世界各地に押し寄せ、国境を越えてすさまじい規模での民族移動が、たとえば出稼ぎや移民の流れとして、あるいは難民の流れとして起こっている。こうしたなかで、ますます異なる民族や宗教、部族や種族の相互接触は深まり、拡がり、時には対立と紛争を、時には融和と協力を生み出している。
従来、文化的多様性(cultural diversity)は国家ないしは国民統合と経済発展に不利だと考えられてきた。日本が経済発展したのは「単一民族だから」という神話がまかり通っていた。しかし、文化的多様性は一国の発展にとってマイナスなのだろうか?アメリカは多民族のエネルギーをうまく使って発展してきたのではなかろうか?今回のセミナーでは、いくつかの地域における多文化がもたらす緊張と相互浸透の実態を探り、なぜ対立が起きるのか、その対策や解決策は何か、考えてみようと思う。異文化を受容し合うことはどうしたらできるのだろうか、留学生も交えて話し合ってみませんか?日本が国際社会に組み込まれるにつれ、この問題はますます切実なものになってきている。

特別講演

外交と非言語的コミュニケーション
独立行政法人国際交流基金理事長・前青山学院大学教授・元駐仏大使 小倉和夫

セクション演習

A アフリカの「民族紛争」をどうみるか
日本貿易振興機構アジア経済研究所主任研究員 武内進一
近年アフリカでは深刻な紛争が多発しており、国際的な関心を引いている。そのなかで、民族間の対立がクローズアップされることも多い。アフリカには約2,000もの言語があるとされ、一般に一つの国のなかに多数の民族(部族、エスニック集団)が存在している。民族の数が多いから、アフリカに紛争が絶えないのだろうか。人工的に引かれた国境線のせいだろうか。近年のアフリカで起こった紛争の特質を踏まえて、その要因や構造について考えたい。
B アメリカ合衆国における多文化主義の争点
東京大学大学院総合文化研究科教授 能登路雅子
多人種・多民族社会であるアメリカ合衆国では、特に1980年代以降、多文化主義が社会の各分野に浸透している。21世紀中葉には白人人口が過半数を割ると予測されるなかで、多様なマイノリティ集団の間の共生やパワーシェアリングは思想面でも現実の政策面でも重要課題であるが、一方で保守主義者からの反発も強い。文化的多様性をめぐるポリティクスを教育、言語、ジェンダーを中心に検討し、グローバル化による人的移動のあり方についても考えたい。
C フランスの「文化的多様性」に見る両義性
横浜国立大学教育人間科学部准教授 長谷川秀樹
多元的統合を目指すヨーロッパでは、少数民族や移民、宗教など文化的多様性とどう折り合いをつけるのかが問われているが、その中核とも言えるフランスで論じられる「文化的多様性」は両義的であることに注目すべきである。フランスはユネスコの文化的多様性条約の成立にカナダとともに最も積極的であった国の一つであるが、対外的にそれが掲げられるとき、フランスの言う文化的多様性は、同じ西洋文明であり、グローバル化の勝者とも言えるアングロサクソン文化に対する抵抗にある。一方、国内に目を向けるならば、他のヨーロッパ諸国では権利として認められている少数民族や言語の集団的権利を否定し、イスラム教徒の女子が学校でスカーフを着用することを厳格に禁止するなど、「文化的多様性」にはそぐわない政策が見られる。このような矛盾がなぜ起こるのかについて考察するとともに、ヨーロッパが掲げる「文化的多様性」との差異を明らかにしたい。
D 東南アジアの多民族社会と種族融和
拓殖大学国際学部教授 岩崎育夫
東南アジア諸国は、言語や宗教や文化伝統などが異なる複数の民族で構成され、このような社会は「複合社会」(多民族社会)と呼ばれます。歴史的には東南アジアも「一民族一国家」型だったのに、なぜこのような社会と国家が成立したのか、その歴史社会的要因は何か、複数の民族で構成されることで政治や経済や社会や文化における軋轢や問題にはどのようなものがあるのか、住民はどのように軋轢と融合に向き合っているのか。具体的には、マレー人、華人、インド人で構成されるマレーシアとシンガポールに焦点を当て、両国のあり方を比較しながら、この問題を考える。
E 岐路に立つ多民族国家・中国―チベット問題を中心に―
東京大学大学院法学政治学研究科准教授 平野 聡
昨今国際的な注目を集めているチベット問題について、中国政府・ナショナリズムの立場からは「何故チベットの近代化を進める中国が批判されるのか。我々こそ国際的な偏見の被害者だ」という認識が示され、「愛国」運動が高揚してもいる。しかし、実はこのような認識を生んだ近代中国の曲折の歴史自身に、多民族・多文化統合を難しくする側面があった。その具体的な問題点や現状を概観し、今後を考える素材を提供することにしたい。

【実施報告】

第1日目は、小倉和夫氏の「外交と非言語的コミュニケーション」と題する特別講演がありました。外交の場での仕草や表情、服装、贈物等の実例を取り上げ、非言語的コミュニケーション力の必要性等、リアルで意味深い内容でした。「非言語的コミュニケーションが話し合いの場において重要な役割を果たしていることがわかった」「将来外交官を目指しているので大変参考になりました」等の感想が参加者から寄せられました。

小倉 和夫氏

続いて、各セクション演習の講師からそれぞれの課題に関連する講演がありました。この後、セクション演習に入り、日本人学生と留学生、違う分野の専攻を持つ学生同士で新しい知と出会い、互いに理解を深めていきます。 「日本人として他のアジア人たちと議論する機会は初めてで、日本人としての自分を自覚しましたし、ためらわず自分の意見を言う勇気の大切さを知りました。」 「さまざまな立場(切り口)を持った人々と接することができ、勉強になりました。また先生も一生懸命話を聞いて下さって、とても話がしやすかった」 「他学校の方、また自身が関心があることに同じように興味知識を持つ方とディスカションをすることができ、満足しています。積極的にこういった機会に参加していきたい」との感想が寄せられました。

平野 聡氏

岩崎育夫氏

長谷川秀樹氏

最終日は、各セクション演習からの発表者たちがそれぞれ議論した結果をまとめ、発表しました。参加者からの質問を発表者が真剣に答え、時には講師の先生に助けを求める場面もありました。

各セクションからの報告

参加者全員で記念写真を撮りました。(「出会いの丘」にて)