セミナー・イベント

第33回国際学生セミナー
東アジアの将来秩序-東アジア共同体構想を巡って-

実施報告

期間 2006年9月30日(土)から10月1日(日)
場所 大学セミナーハウス (東京都八王子市下柚木1987-1)
主催 財団法人大学セミナーハウス

特別講演

東アジアの将来秩序-東アジア共同体構想を巡って-
田中明彦(東京大学東洋文化研究所教授)
1990年代から21世紀にかけての東アジアの地域化と地域主義の動向を、東アジア国際政治の構造変動と関連させて考えてみたい。冷戦の終結、グローバル化、民主化などの動きのなかで、東アジアでは地域の連関がどのように進んできたのか。経済や社会の連関と政治的枠組みがどのように関連し、また、主要国の戦略や政策がどのような影響を与えてきたのか。「東アジア共同体」という言葉は、どのように登場し、どのような意味を持つに至ったのか。東アジアにおける地域秩序形成は、世界秩序とどのような関係を持つのか。できるかぎり国際政治の実態にそくして、このような問題を考えてみたい。

企画委員

委員長 中兼和津次 青山学院大学国際政治経済学部教授
副委員長 渡邊 啓貴 東京外国語大学外国語学部教授
委員 絵所 秀紀 法政大学経済学部教授
五味 俊樹 大東文化大学法学部教授
園田 茂人 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
山影 進 東京大学大学院総合文化研究科教授
国際学生セミナーの目的
国際関係に関する問題の中からテーマを選び、日本人学生及び留学生を対象とする合宿セミナーを行うことによって、国際的な視野と見識を培う場を提供し、グローバル化時代におけるコミュニケーション能力を高める機会とする。また、国・公・私立の壁を越えた複数の大学の教授及び学生、留学生が寝食を共にすることにより、大学間相互の交流及び異文化理解を深めることを目的とする。

趣旨

昨年12月にクアラルンプールで「東アジアサミット」が開かれ、ASEANや日本、中国、韓国、それにオーストラリアやインドの首脳も参加して、東アジアの将来について話し合われた。日本と中国・韓国との厳しい政治的対立を反映して小泉首相と中国、韓国の首脳との会談が行われなかったことが注目されたが、そこではオーストラリアやインドも加わる拡大した東アジアを目指す日本と、ASEANと日本、中国、韓国(ASEAN+3)を目指す中国やASEANとの姿勢の違いが目立った会議でもあった。将来の東アジアにおける自由貿易地域(FTA)の範囲をどうするか、日中の思惑は異なっている。東アジアに大きな存在となっているアメリカとの関係でも、各国の姿勢は必ずしも一致していない。日米同盟を基軸とする日本とアメリカと一線を画す中国や一部のASEAN諸国、東アジア共同体を志向する各国も、このようにその思いはバラバラなのが実情である。それでは今後この構想は「同床異夢*」のまま終わるのだろうか? それとも遠い将来のAU(EUのアジア版)まで、少しずつ歩んでいくのだろうか? 政治体制が異なり、理念の異なる国同士が共同体を作れるのだろうか? 我が国では東アジア共同体構想に賛成する人もいれば、構想には賛成だが実現できないと冷ややかに見ている人もいる。あるいは、構想そのものに疑問を感じている人もいる。それでは日本はどうするべきなのだろうか、「共同体」の中身をどう捉えるべきなのだろうか、また構想実現にはどのような条件が必要なのだろうか、今後の日本にとってもいま大きな選択が待っている。日本とアジア、日本とアメリカ、それにアメリカとアジアとの関係をこの機会に議論し、考えてみませんか?
(大学セミナー・ハウス国際学生セミナー企画委員会委員長)
*同床異夢=身は共にありながら互いに心が離れ、また共に事をなしながら意見を異にすること(広辞苑)
(中兼 和津次 青山学院大学国際政治経済学部教授)

セクション演習

1 ASEANにとって東アジア共同体はどんな意味があるのか
山影 進 東京大学大学院総合文化研究科教授

経済構造・水準も政治体制もさまざまな国から構成されるASEANは、内部結束の欠如が常日頃指摘されている一方、外部に対しては団結を誇示し、広域協力制度の「運転席」から退くつもりは全くない。現在、自分たちの共同体化を目指しているASEAN諸国にとって、メンバーも理念も具体的目標もはっきりしない東アジア共同体はどのような意味を持っているのだろうか。
ASEAN諸国の広域的地域戦略が少し明らかになると、日本で議論している東アジア共同体の構想とは異なった側面が見えてくるかも知れない。
セクション参加者は、(1) ASEAN共同体へのロードマップ、(2) ASEAN諸国(特に、シンガポールとタイ)がどのような東南アジア内外と地域連携を模索しているのか、事前に調べてくること。
 
2 中国のアジア政策
高原 明生 東京大学大学院法学政治学研究科教授

国は、1990年代半ばに「周辺外交」を強化し、それまで尻込みしていた地域の多国間枠組みづくりに積極的に関与するようになった。中国の貢献なくして、ロシア及び中央アジア諸国家との上海協力機構、そして東アジアの国々とのASEAN+3(日中韓)の枠組みは発展しなかった。中国が地域政策を転換させた背景とねらいは何だったのか。対日関係や対米関係、そして直面する深刻な国内問題をも視野に入れつつ、今後の展開についても考察したい。
 
3 アメリカの東アジア政策におけるディレンマ
五味 俊樹 大東文化大学法学部教授

冷戦終焉後の市場経済化の波と中国経済の飛躍的発展に伴って、アメリカはアジア・太平洋地域での経済関係の拡大に努めている。反面、対中・対日貿易赤字の増大によって、産業界、労働組合、議会のなかには保護主義の動きがみられる。また、アジアでの安全保障問題に目を転じると、北朝鮮の核問題や中国の軍事大国化はアメリカにとっても懸念材料である。それに対処するためには米日・米韓の同盟関係を強化する必要があるものの、在日・在韓米軍の基地問題がその枷(かせ)となっている。したがって、アメリカは経済・軍事の両面で深刻なディレンマに陥っているといえよう。そうした状況を打破するために、アメリカが取ろうとしている政策とはどのようなものであるのか ― 「東アジア共同体」をめぐる議論も含めて考えてみたい。
 
4 東アジア経済統合の行方
深川 由起子 早稲田大学政治経済学部教授

東アジア地域主義という言葉が氾濫しているが、通貨危機から10年を経て、東アジアの地域主義は大きな転換点を迎え、課題に直面している。大多数が発展途上経済であることから、主権制限を許容につながる「深い統合」には本質的に抵抗があり、産業調整能力に大きな課題があること、日中のリーダーシップ問題が存在すること、などである。課題を乗り越えて行くためには機能的協力を強化する一方、日中関係の改善が欠かせない。

スケジュール

■第1日 9月30日(土)
12:00~13:00 受付
13:00~13:15 開会
13:15~14:45 特別講演 田中明彦
14:45~15:15 記念撮影、コーヒーブレイク
15:15~17:45 共通セッション1 (セクション講師紹介および講演)
(1)山影 進 (2)高原明生 (3)五味俊樹(4)深川由起子
18:00~19:00 夕食会
19:15~21:15 セクション演習1(分科会討論)
21:30~22:30 懇親会

■第2日 10月1日(日)
8:00~9:00 朝食
9 :30~11:30 セクション演習2(分科会討論)
12:00~13:00 昼食
13:00~15:00 共通セッション2(分科会報告と総括討論、講師によるコメント)
15:00~15:15 閉会

開催模様

セミナーの冒頭行われた東京大学大学院情報学環・東洋文化研究所教授・田中明彦氏の特別講演

4分科会に分かれて、テーマ別グループ討論が行われた。

参加者は総勢60名。うち留学生は27名(中国20、韓国4、台湾2、カンボジア1)